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肩関節前方不安定症の評価
肩関節前方不安定症は、肩関節周囲の軟部組織や骨の損傷により、上腕骨頭が関節窩から亜脱臼・脱臼する肩の病態です。
上腕骨頭が肩甲骨関節窩の中心位置(いわゆる正常な位置)ではなく、関節面の接触面積が狭くなってしまうために、肩関節の安定性が欠如してしまいます。
肩関節周囲の構造的には、後方ではなく前方へと脱臼することのほうが一般的です。
ローテーターカフや関節包・肩甲上腕靭帯・関節唇の機能的な問題により、前方不安定性が生じてしまいます。
つまり、腱板断裂や関節唇損傷といった病態と関係しているため、これらの病態を評価・鑑別することは重要なことであると考えられます。
そこで、スペシャルテストを用いたスクリーニング検査を行い、適切な病態把握・介入を行えるようにしていく必要があります。
今回の記事では、様々なスペシャルテストを複合的に考慮し、最も信頼性のあるスペシャルテストの組み合わせをご紹介していきます。
感度・特異度・尤度比
肩関節前方不安定症に対する評価・スペシャルテストは、他の病態のように多いわけではありませんのでご安心ください。
以下の表は、感度(Sensitivity)・特異度(Specificity)・尤度比(Likelihood Ratio:LR)のまとめになります。
テスト単独と複数のテストを組み合わせたものをご紹介します。
※LR+:陽性尤度比 / LR-:陰性尤度比
Sensitivity | Specificity | LR+ | LR- | |
---|---|---|---|---|
Apprehension Test | 65.6 | 95.4 | 17.21 | 0.39 |
Relocation Test | 64.6 | 90.2 | 5.48 | 0.55 |
Surprise Test | 81.8 | 86.1 | 5.42 | 0.25 |
Apprehension Test & Relocation Test | 81 | 98 | 36.98 | 0.19 |
Apprehension & Relocation & Surprise Test | 40 | 100 | NA | NA |
”Apprehension Test”と”Relocation Test”を組み合わせた場合、陽性尤度比36.98と非常に良い結果であることがわかります。陰性尤度比は0.19であるため、参考程度に留めておく程度が良いでしょう。
それぞれのテスト単独でも特異度が高いため、個別に行なった上で陽性であればもう1つテストを追加して行うと良いでしょう。
もし前方不安定性が疑われる際には、第一選択として”Apprehension Test”を行うのが良いのではないかと考えられます。
ではそれぞれの評価方法を解説していきます。
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Apprehension Test
肩関節前方領域における関節包・靭帯の健全性を評価するテストになります。
※脱臼既往歴を有する方に行う場合は、細心の注意を払って評価していきましょう。
- 背臥位にて肩関節90°外転・肘関節90°屈曲させます
- 肩関節90°外旋させます(細心の注意を払います)
- 患者・クライアント・セラピストが不安定性を感じる場合は陽性です
痛みが生じるだけではテストが陽性にはなりません。
それは、痛みが生じる場合は他の病態も考えられるからです。
特に、後方組織での痛みを感じる場合、腱板と関節唇が後方にて衝突している『インターナルインピンジメント』である可能性があります。
Relocation Test
Relocation Testは、Apprehension Testと考え方が非常に似ており、基本的にはApprehension Testの後に行うことがオススメされます。
Relocation Testは、別名Jobe Relocation Testや、Fowler Signなどと言われたります。
- 背臥位にて肩関節90°外転・肘関節90°屈曲させます
- セラピストは肩関節外旋ストレスを加えます
- この時に不安定感を訴える場合は、その時点でApprehension陽性です
- その時点で、セラピストが上腕骨頭を後方に向けて力を加えます
- この時に不安定感が軽減する場合、Relocation Testが陽性です
Relocation Testにより症状が軽減する場合、肩関節前方不安定症以外に亜脱臼・脱臼や肩峰下インピンジメントが考えられます。
そのため、これらの病態に対する評価も必要になる場合があるでしょう。
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まとめ
肩関節前方不安定症に対するスペシャルテストは、”Apprehension Test”と”Relocation Test”の2つを行うと良いでしょう。
2nd肢位での肩関節外旋動作において、不安定性がなく肩後方部分で痛みがある場合、Relocation Testにより症状が軽減するようであれば、上腕骨頭が前方に変位していることも疑われます。
ただし、この時注意していただきたいのは、肩甲骨のアライメントです。
肩甲骨が前傾・内旋している場合、相対的に上腕骨頭は前方に位置してしまうからです。
そして、『肩甲骨のアライメントに問題がある』ということは、肩甲骨と機能的関節を成している胸郭(特に肋骨)の問題が存在している場合があります。
このように、肩甲上腕関節だけに焦点を当てず、胸郭も含めた肩関節複合体として介入することは非常に重要なことになります。
参考文献
- Physical examination tests of the shoulder:a systematic review and meta-analysis of diagnostic test performance:Gismervik et al. BMC Musculoskeletal Disorders 2017
- Combining orthopedic special tests to improve diagnosis of shoulder pathology:Eric J. Hegedus, Chad Cook, Physical Therapy in Sport16, 2015
- Which physical examination tests provide clinicians with the most value when examining the shoulder? Update of a systematic review with meta-analysis of individual tests, Eric J Hegedus, Br J Sports Med 2012
- Orthopedic Physical Examination Tests: Pearson New International Edition: An Evidence-Based Approach: Chad E. CooK, Eric Hegedus, 2013
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