Scapular Dyskinesis(スキャプラ・ジスキネジス)のまとめ

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肩甲骨の問題点

肩甲骨の運動異常、スキャプラ・ジスキネジス(Scapular Dyskinesis)は、頸部疾患・上肢疾患(特に肩関節疾患)の方の多くに見られる病態です。

肩甲骨の運動に異常があることで、さまざまな病態を引き起こしていると考えられていますが、「そもそも肩甲骨の運動に異常が生じてしまう原因は何か?」を考えなければ、この問題は解決されないことです。

ただし、少し考えると分かることではありますが「肩甲骨の運動に異常がある」と結論付けるのは、かなり難しいことではないでしょうか。

肩甲骨の模型

肩甲骨の問題として考えられることは、以下の3つがあります。

・肩甲骨にとって理想的なポジションはない
・肩甲上腕リズムは一定ではないため、そもそも理想的な動きはない
・肩甲骨における評価で、ゴールドスタンダードなものはない

肩甲骨の問題として捉える上では、この3つの問題を考慮する必要があります。

スキャプラ・ジスキネジス(Scapular Dyskinesis)・肩甲骨の運動異常の病態を把握・理解しておくことは重要ですが、実際に肩甲骨の運動に異常があると判断するには注意が必要です。

それは、肩甲骨の運動に異常があるように見えているるだけかもしれませんし、肩甲骨周囲の筋力が低下しているように感じるだけかもしれないからです。これを鑑別するためには、非常にさまざまな機能を総合的に見ていく必要があるため、たとえ肩甲骨の問題があったとしても、肩甲骨以外の他部位の問題が主になってくるのではないかと考えています。

少々前置きが長くなってしまいましたが、これまでの話は頭の片隅においていただいて、以下ではスキャプラ・ジスキネジス(Scapular Dyskinesis)と肩甲骨の機能についてまとめていきます。

Scapular Dyskinesisとは

Scapular Dyskinesisとは、『Dys:Alternation of』・『Kinesis:Movement』=肩甲骨の運動の変化・異常のことです。

怪我・外傷や筋骨格系の診断名ではなく、機能的診断という位置付けになります。

肩甲骨の動きを参照するための包括的な用語となるため、肩甲上腕関節の特定の病態に対する特異的反応ではなく、肩関節複合体の機能不全に対する非特異的反応に該当します。

※特異的 :特徴的にみられること、他の状態や病気ではみられないこと
※非特異的:ある状態や疾患に特徴的にみられるとは限らないこと

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Scapular Dyskinesisの分類

Scapular Dyskinesisは、主に以下の4つに分類されています。

①肩甲骨下角の突出
②肩甲骨内側縁の突出
③肩甲骨の早期挙上(シュラッグ:Shrugging)
④上肢下降時の急速な肩甲骨下方回旋

これらが単独で生じていることもあれば、併発していることもあります。そのため、上肢挙上動作時に肩甲骨下角と内側縁が突出しており、下降動作時に急速に肩甲骨下方回旋が生じているというケースもあるということです。

これはあくまでも『Kinesis:Movement』動作の機能不全であることは、再度確認しておきたいポイントになります。

翼状肩甲骨(Scapular Winging)との違い

翼状肩甲骨(Scapular Winging)は、肩甲骨の内側縁が突出している病態です。これは、長胸神経の機能低下や肩甲帯周囲筋の弱化(特に前鋸筋)と関連しているとされています。

Scapular Dyskinesisでも、肩甲骨内側縁の突出が生じる可能性があります。そのため、翼状肩甲骨とScapular Dyskinesisの違いを明確にしておく必要があります。

翼状肩甲骨は視覚的に異常な特徴を示すものですが、その異常が静的なものか動的なものか、あるいは両方で生じているものかどうかを示すわけではありません。それに対してScapular Dyskinesisは、動的な異常になります。

Scapular Dyskinesisと翼状肩甲骨

つまり、翼状肩甲骨という広い括りの中にScapular Dyskinesisが存在しているというイメージ・解釈で良いのではないかと考えられます。翼状肩甲骨の方が幅広い解釈であるが故に、専門職同士でも誤解を招きやすいかもしれません。せめて情報共有しているスタッフ間では、共通認識を確認しておく必要があるでしょう。

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Scapular Dyskinesisが生じる原因

Scapular Dyskinesisが生じてしまう原因を考えていきます。あらゆることが考えられますので、以下に限った話ではないということを踏まえた上で読み進めていただければと思います。

腕神経叢障害や肩鎖関節障害、SLAP損傷・Bankert損傷、腱板損傷・上腕二頭筋腱損傷、鎖骨骨折、頸部痛(筋筋膜性・椎間関節性)、頸部神経痕症状などの現病歴・既往歴があった場合、Scapular Dyskinesisを引き起こす可能性が高くなります。

『Scapular Dyskinesisが生じている』ということは、『動作パターンに起因する肩甲帯周囲筋の筋出力低下や筋のインバランスが生じている』ということになります。

現病歴・既往歴の関係から、骨の安定性における変化や筋発火・活性化パターンの変化、動的筋安定性における筋力・筋出力の変化が影響していることが考えられます。

これによって、肩甲上腕関節にかかるストレスが増すために周囲の軟部組織にストレスを加えてしまい、新たな病態を生み出してしまうことが考えられ、負のループを引き起こす可能性があります。

Scapular Dyskinesisの原因

さらに、上記に列挙した病態だけではなく、呼吸機能不全や脊柱・肋骨のアライメントが影響する場合も考えた方が良いでしょう。

呼吸(特に吸気)の代償で肩甲帯が挙上してしまうケースや、日常的な座位アライメント不良に伴う脊柱の軽微な側弯・肋骨の回旋に影響し肩甲骨の問題を引き起こしてしまうケースが考えられます。これらがScapular Dyskinesisを引き起こし、肩関節疾患・頸部疾患に繋がる可能性は大いにあります。

Scapular Dyskinesisを改善させるために必要な考え方

Scapular Dyskinesisでは、肩甲骨の下角や内側縁の突出が生じることがありますが、これは肩甲骨の前傾・内旋といった動きになります。

このことから、Scapular Dyskinesisを改善させるためには、肩甲骨の前傾・内旋を抑制し、肩甲骨の上方回旋に伴う後傾・外旋を促す必要があります。

肩甲骨上方回旋と後傾・外旋をさせる筋肉は、『前鋸筋』『僧帽筋下部』になります。この2つの筋肉が協働することがとても重要です。

前鋸筋

挙上動作時に肩甲骨が後傾・外旋することに加えて、さらにリトラクション(後退)することも必要となります。これは挙上動作の後半相で必要となり、特に僧帽筋下部の活動が必要になります。

肩甲骨のリトラクションは、肩の動作と機能において、いわゆる通常の肩甲上腕リズムには必要不可欠な動きです。肩甲骨がリトラクションすることで、肩関節周囲筋、特に腱板の活性・機能を最大化させることに繋がります。腱板機能が低下し肩に痛みが生じている場合、腱板の問題だけではなく肩甲骨の機能(Scapular Dyskinesisの有無)を考慮する必要があるということです。

・肩甲骨の上方回旋に伴う後傾・外旋・リトラクションが必要である
・肩甲骨の動的安定化のためには前鋸筋と僧帽筋下部の協働が重要である

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参考文献

  1. Andreas Christos Panagiotopoulos, Ian Martyn Crowther, Scapular Dyskinesia, the forgotten culprit of shoulder pain and how to rehabilitate, A.C. Panagiotopoulos and I.M. Crowther: SICOT-J 2019, 5, 29
  2. Donald A. Neumanna, Paula R. Camargob , Kinesiologic considerations for targeting activation of scapulothoracic muscles – part 1: serratus anterior, Brazilian Journal of Physical Therapy 2019;23(6):459-466
  3. W Ben Kibler, Aaron Sciascia, Current concepts: scapular dyskinesis, Br J Sports Med 2010;44:300–305. doi:10.1136/bjsm.2009.058834
  4. W Ben Kibler, Paula M Ludewig, Clinical implications of scapular dyskinesis in shoulder injury: the 2013 consensus statement from the ‘scapular summit’, Br J Sports Med 2013;47:877–885.

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