アブダクトリーツイスト(Abductory Twist)のバイオメカニクス

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アブダクトリーツイストは歩行で観察される

今回の記事では、歩行時に観察される動作『アブダクトリーツイスト(Abductory Twist)』を解説していきます。

アブダクトリーツイストは、”歩行時に生じる足部の異常運動”になります。

そもそも、この言葉を初めて聞いたという方も少なくないのではないでしょうか?

川辺をウォーキングをする男性

この記事を読んでいただければ、普段の臨床における歩行分析がより良いものになることは間違いありません!

一般的な足部のバイオメカニクスと、アブダクトリーツイストのバイオメカニクスを比較しながら解説していきます。

歩行時の足部バイオメカニクス

イニシャルコンタクト(Initial Contact:IC)の前は、距骨下関節が回外した位置にあります。

ICのタイミングで、距骨下関節の回内が始まります。
これにより、横足根関節(ショパール関節)が自由に可動できるようになり、地面からの反力を柔軟に吸収することが可能になります。

ちなみに…
距骨下関節が回外している場合は、足部が強固なものになりますので、柔軟に対応することができなくなってしまいます。

ローディングレスポンス(Loading Response:LR)が終わると、距骨下関節の回内が終わります。回内位から回外を開始し、立脚中期(Mid Stance:MS)の終わりまでにニュートラルな位置になります。

立脚中期を越えても距骨下関節の回外の動きは継続され、立脚後期(Terminal Stance:TS)では距骨下関節が回外位になります。これにより、横足根関節は強固なものになり、長腓骨筋と後脛骨筋が効率的に働けるようになります。

長腓骨筋と後脛骨筋の相乗効果は横アーチを安定させ、中足部と第1列を安定させることができます。
第1列が安定すると、第一中足趾節関節(MTP関節)のアライメントが適切なものになり、安定して蹴り出せるだけの”硬いレバー”として機能します。

まとめ

ICの前は距骨下関節回外位

ICで距骨下関節回内が始まる

地面に適応し衝撃を吸収する

LRで回内が終わる

MSになると回内位から回外が始まる

MSの終わりに中間位に達する

回外は継続し、TSで回外位になる

回外位で蹴り出す

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アブダクトリーツイストのバイオメカニクス

立脚中期以降に距骨下関節が回内してしまうと、下肢に内旋モーメントを生じさせます。

反対側の上肢・下肢が前方に振り出されるときに、立脚下肢には外旋モーメントが生じます。

立脚時には、足部が地面からの摩擦によって固定されています。そのため、足が地面から離れていないと、水平面上の骨盤帯の回旋に合わせて足部が回旋することはできません。

これによって、骨盤帯の回旋によって生じる近位部の外旋モーメントと、立脚中期後半の距骨下関節回内によって生じる遠位部の内旋モーメントの間に矛盾が生じています。足部は回内していることから、外旋モーメントに対応できるだけの回外を行うことができないということです。

その後、踵が地面から離れるタイミングでは、摩擦力が水平面上の骨盤帯回旋による外旋モーメントに抵抗できなくなります。

そのため、踵が地面から離れる際に、踵が急激に内側移動し、足部が外転する『アブダクトリーツイスト(Abductory Twist)』が生じます。

まとめ

立脚中期以降の距骨下関節回内

下肢に内旋モーメントが生じる

立脚後期では下肢に外旋モーメントが生じる

下肢近位の外旋モーメント vs. 遠位の内旋モーメント

外旋モーメントに対応するだけの距骨下関節回外をすることができない

踵が地面から離れるタイミングで、踵が急激に内側移動する

アブダクトリーツイスト

つまり、アブダクトリーツイストは、立脚後期後半での距骨下関節回内により、脛骨-大腿骨と骨盤帯の回旋動作の不適合により生じると考えられます。

そして、立脚中期以降の距骨下関節回内は、後足部内反あるいは脛骨の内弯、またはその両方に対する代償である可能性があります。

後足部内反・脛骨内弯の影響

後足部内反と脛骨内弯の両方の変形は、立脚中期において足部の過剰な回内を引き起こす可能性があります。

後足部内反と脛骨内弯により、距骨下関節は過度な回外位となり、それに伴い、中・前足部も回外位の状態になります。これにより、ICでは踵の外側面が接地し、その後のPhaseでは足底内側面は地面から離れることになります。

足底内側面を地面につけて歩こうとすると、足部を過度に回内させることが必要となるため、立脚中期のおける距骨下関節回内の時間は長くなります。

まとめ

後足部内反・脛骨内弯は、距骨下関節を過度な回外位にする

中・前足部も回外位のアライメントとなる

立脚期では距骨下関節回内の時間を延長して足底接地する

これにより、足底筋膜の過度な緊張や、第1列の過度な背屈が生じてしまいます。

立脚中期において距骨下関節が過度に回内すると、横足根関節も回内するため、内側縦アーチの距離が長くなり、足底筋膜は高張状態になります。この時、第1列は背屈位になるため、母趾伸展の可動性に制限が生じます。

立脚後期において距骨下関節・横足根関節が過度に回内している場合、母趾伸展の可動性制限につながります。(この状態を、”逆ウィンドラス機構”と言います。)

まとめ

  • 足底筋膜の過度な緊張
  • 第1列の過度な背屈
  • 母趾の可動性制限

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まとめ

アブダクトリーツイストは、歩行時に見られる足部の異常運動です。
この動作が観察される場合、下肢に生じている回旋モーメントを吸収することができていない状態です。

長期間継続する場合は、足底筋膜炎や外反母趾、足根管症候群などの症状を引き起こすかもしれません。

また、他部位での代償により、回旋モーメントを相殺している可能性もあります。
この場合は、アブダクトリーツイストが観察されないかもしれません。

例としては、脛骨の外旋や骨盤の後方回旋、立脚と反対側への側方移動などです。この動きが生じている場合、膝関節や仙腸関節、腰部へのストレスが増加するでしょう。

このように、歩行をしっかりと観察することは、身体に生じているストレスを見つけるヒントになり得ます。

こちらの記事では、歩行に関する運動連鎖をまとめていますので、ぜひご参照ください!

こちらの記事では、歩行の全体像を把握するための胸郭・骨盤帯・足部を視るポイントを解説していますので、ぜひご参照ください!

参考文献

“Abductory twist” – an element of observational gait analysis in low back pain – a case study, Prabu Raja Gopala Krishnan, Narasimman Swaminathan et al., MEDSPORTPRESS, 2011

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