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症例
今回は、大腿前外側面の鈍い痛みを有する症例に対して行った評価・鑑別のプロセス、介入の考え方についてご紹介していきます。
個人が特定される内容は控えさせていただきますので、症状とその介入による結果のみの掲載となります。
症状をまとめていきます。
- 大腿前外側の鈍重感
- 座位・立位での姿勢保持にて症状増悪
- 長時間の歩行にて症状増悪
- 仕事や家事など労作時にて症状増悪
大腿前面外側の感覚は、「感覚異常というよりも痛みの方が強い」とのことでした。
鑑別するべき病態
大腿前外側部の痛みの要因はいくつか考えられます。皆様はいくつほど思い浮かべられますか?
私がまず最初に思いつくのが、腰部神経根由来の疼痛です。これは必ず鑑別していかなければいけません。
その他にも、変形性股関節症などの股関節機能不全に伴う痛み、大転子周囲における滑液包炎(大転子疼痛症候群(Greater Trochanter Pain Syndrome:GTPS))、外側大腿皮神経の絞扼性神経障害、大腿前外側の筋筋膜性疼痛など計5つの病態をスクリーニングしながら、鑑別・評価を進めていく必要があります。
さらに、仙腸関節由来の放散痛や梨状筋症候群による併発症状なども考えられますが、上記の問題が該当しない場合に検討していくと良いかもしれません。
- 腰部神経根症状
- 変形性股関節症などの股関節疾患
- 大転子周囲における滑液包炎(GTPS)
- 外側大腿皮神経の絞扼性神経障害
- 大腿前外側の筋筋膜性疼痛
- 仙腸関節由来の放散痛
- 梨状筋症候群による併発症状
初回一回で全ての評価を行うことは難しい場合がありますので、ポイントとなる評価を患者さんの身体状況を踏まえて選択していくと良いでしょう。
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実際に行った評価プロセス
問診から、姿勢保持・動作時の症状であることが分かるため、筋骨格系の問題である可能性が高いです。
腰部神経根症状を疑う
まずは立位・座位で行える評価から選択して行いました。
私の場合、立位での前屈・後屈・回旋動作は全ての方に行ってもらうようにしています。どれも疼痛の再現などはなかったため側屈動作も確認しましたが、これも疼痛の再現はありませんでした。
座位でも同様の動作を確認しました。座位の方が骨盤帯が安定しているため代償が少ないこともあり、脊柱にかかるストレスが増えると考えられます。
この場合、罹患側への側屈で症状が誘発されました。そのほかの動作では特に症状はありませんでした。また、罹患側への側屈を症状が誘発されないポイントまで戻し腰椎への圧迫負荷を加えると、それも症状が誘発されました。
罹患側への側屈動作では腰椎椎間関節が狭くなる方向に動いているため、神経根を圧迫して症状を誘発している可能性があります。そのため、腰部神経根症状も視野に入れていく必要があります。
- 立位での動作では症状誘発なし
- 座位での罹患側への側屈動作で症状誘発
- 座位における腰椎への圧迫で症状誘発
他の病態を疑う
その他、片脚立位テストを行いましたが、これでも症状が誘発されたためGTPSや股関節疾患、仙腸関節、梨状筋症候群なども考慮していく必要がありました。
これら複数の病態を鑑別するために行った評価が以下になります。
- 股関節屈曲位での股関節外旋抵抗運動で症状誘発(GTPSの評価)
- 大転子部の押圧では疼痛なし(ジャンプサイン陰性:GTPSの評価)
- FAIR・Betty・Pace Testは陰性(梨状筋症候群の評価)
- 寛骨臼に対する大腿骨頭の圧迫は陰性(股関節疾患の評価)
- 股関節ROMは特に症状なし・筋性のSoftなEnd feel(股関節疾患の評価)
- FABER Testは陰性(仙腸関節の評価)
- 感覚・運動検査では特に問題なし
この様なテスト結果から、GTPSは少し怪しい可能性があります。
テスト時の動作の質も同時に評価していたのですが、罹患側への腰椎側屈代償も確認されました。そのため、動作時に神経根へのストレスが加わっていたことも考えられました。
腰部神経根症状・腰椎椎間関節の放散痛
神経根症状に対してRule-in・Rule-outするためには、大腿神経伸張テスト(Femoral Nerve Stretch Test:FNST)も行うべきだと考えられます。
Slump肢位で行う方が感度・特異度が高いため、その肢位を選択しましたが、テスト結果は陰性でした。
評価内での不一致があるため、座位での罹患側への側屈動作を再度評価しましたが、これは変わらず陽性でした。
ここからさらに、腰椎椎間関節のレベル・分節の評価をして部位を限局する必要があります。座位での側屈動作をしてもらいながら、椎間関節それぞれにストレスを加える形で評価を行った結果、L2/3で最も痛みが誘発されました。
腰椎椎間関節のjoint playを確認したところ、同レベルの可動性制限が確認できたため、椎間の牽引(Traction)を試験的治療として実施しました。介入直後の側屈動作・圧迫ストレスでは症状が軽減していたため、この部位に絞り介入を継続しました。
- FNSTは陰性
- L2/3椎間関節の可動性制限
長くなりましたがここまでをまとめますと、腰椎椎間関節L2/3での神経根圧迫で大腿前外側への症状が誘発されるということです。神経伸張テスト(Slump FNST)では症状が誘発されないため、腰椎椎間関節からの放散痛とも考えられますが、どちらにせよL2/3での問題が大きいと考えられます。
joint playでの可動性に制限があるということは、椎間関節の動きにゆとりがなく、上下の互いの関節面が接近しているということです。腰部の筋の圧痛も確認されたことから、周囲筋のスパズムも伴った関節の可動性制限であると考えられます。
腰椎にストレスを加える要因を考える
症状を引き起こしている要因がある程度把握できましたので、なぜそれが生じているのかを考えていく必要があります。
股関節の可動性に大きな制限はなかったため、腰椎の隣接部位として胸郭を評価していく必要性があります。
評価結果から、胸郭回旋の可動性制限が確認され、罹患側への回旋の方が制限が強く生じていました。
このことから、日常生活において回旋動作を行う際に、胸郭での回旋が制限されているために腰椎で代償していたことが考えられます。その結果として、腰部周囲の筋緊張が高くなり、腰椎椎間関節へのストレスも増加したと考えられます。
また、立位での前屈や後屈・回旋・側屈動作の質を見ることも大切です。本症例は、ほぼ全ての動作で腰椎から始動していることが確認されましたので、動かし方の習慣・腰椎の安定性というものを改善していく必要があります。
背臥位でのヒップリフトを行ってもらうと、腰椎から動き出し、力を入れている感じは腰部起立筋にあるという状態でした。このことから、腰椎–骨盤帯–股関節の分離運動ができていないことが確認されました。
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介入の流れ
ここまでの評価を踏まえると、介入の流れとしては腰椎椎間関節L2/3の可動性、胸郭の回旋可動性、腰椎–骨盤帯–股関節の分離運動・腰椎の安定性を獲得していくことにあります。
- L2/3Facetの可動性改善
- 胸郭の回旋可動性改善
- 腰椎–骨盤帯–股関節の分離運動
- 腰部の安定性向上
胸郭に対するホームエクササイズのメニューとしては、側臥位での胸郭回旋エクササイズから始め、徐々に姿勢難易度をあげて四つ這い・片膝立ちへと発展させていきました。
腰椎–骨盤帯–股関節に対するエクササイズは、ペルビック・ティルトから始め、片脚にして難易度をあげていき、先程と同様に四つ這い・片膝立ちと姿勢難易度をあげていきました。
その他、ADL指導として荷物の持ち方や子供の抱き抱え方なども案内し、症状が改善したため介入終了となりました。
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