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上腕と前腕の関係
上腕骨、および橈骨と尺骨によって構成される前腕、今回の記事では上腕と前腕の関係性についてまとめていきます。
「上腕と前腕の関係性…?」と思われるかもしれません。
「肘関節を構成するでしょ」や「上腕二頭筋が〜三頭筋が〜円回内筋が…起始・停止がこうで〜機能がこうで…」ということを伝えたいのではありません。
上腕の内旋・外旋、前腕の回内・回外、それらの動きがどのように相互関係しているのか、それらがどのように病態とリンクしてくるのか、そこに焦点を当ててまとめていきます。
骨盤の前方回旋により大腿骨は内旋・下腿は相対的に外旋・足部は回内、反対に骨盤後方回旋により大腿骨は外旋・下腿は相対的に内旋・足部は回外といったような下肢の運動連鎖はご存知の方も多いと思いますが、肩甲帯〜手部にかけての運動連鎖も同様に捉えることが可能ではないかと考えています。
肩甲骨と寛骨、上腕骨と大腿骨、前腕と下腿、手部と足部、それぞれを入れ替えて考えていけると良いのではないでしょうか。
今回は上腕骨の動きについて話を展開していきますが、肩甲骨についても少し触れる必要があります。
上腕と肩甲骨に関しては簡単なチェック方法があります。肩甲骨内転の動きを行ってみてください。
上腕骨内旋させて肩甲骨を内転するのと、上腕骨外旋させて肩甲骨を内転するのでは、肩甲骨の動かしやすさ・可動範囲に差が出てくることを感じます。
『上腕骨外旋の方が肩甲骨を動かしやすい』と感じる方が多いと思います。
上腕骨を外旋させた際に、肩甲骨は【内旋・下制・外旋・後傾・後退】の方向へ運動が生じやすくなると考えられます。
以上、上腕と前腕の話を展開する上で避けては通れない“肩甲骨”の話でした。本題から少しズレてしまいましたが、今回の記事では上腕と前腕の分離・連動に焦点をあててまとめていきます。
上腕と前腕の分離
上腕骨外旋、いわゆる肩関節外旋の動きになりますが、これは肩甲骨が固定された時に生じる動きになります。
上腕骨が外旋するときに、前腕より遠位が固定されていると相対的に前腕回内していきます。
反対に、上腕骨が内旋するとき(肩関節内旋)は、相対的に前腕回外していきます。
以下では、上腕骨外旋・前腕回内を例に、上腕骨と前腕の分離についてまとめていきます。
前腕より遠位が固定されている場合というのは、四つ這いやデスクワークの肢位が該当します。
さらには、日常生活の中で物を持っていたり手先の作業をしている場合でも、手部・手関節・前腕が固定されていることがあります。
このことを踏まえると、上腕骨外旋(肩関節外旋)の可動性を制限する因子としては肩関節周囲組織だけではなく、前腕回内の制限因子も影響している可能性があります。
肩峰下インピンジメントで生じる肩の痛みについて考えると、上記のような前腕より遠位が固定されている労作業が多い場合、前腕回内に伴って上腕骨内旋してしまう動作を学習し習慣化してしまいます。そのため、肩関節内旋位での動作が日常生活の中で頻回に繰り返されてしまい、肩の痛みの引き起こすことが考えられます。
これらのことは、上腕と前腕の回旋運動の分離ができていないことが影響しています。
手関節・手指や前腕に関与する筋の短縮や硬さが生じてしまうと、『上腕に対する前腕の動き』or『前腕に対する上腕の動き』を分離させることが難しくなります。
この逆も然りで、上腕と前腕を一体化して使用していると、動きを引き起こす必要がなくなるため、手関節・手指や前腕に関与する筋は硬くなり萎縮していく可能性があります。
前腕が回内している状況下でも、上腕骨を外旋させ、さらに肩甲骨を内転・下制・外旋・後傾・後退させることが必要だと考えています。
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上腕骨と前腕の連動
上腕骨が外旋するとき、上腕と前腕が連動していくと前腕は回外していきます。
反対に、上腕骨が内旋すると前腕は回内していきます。
この上腕と前腕の連動に関しては、そこまで難しく考える必要はありません。
まずは、上腕と前腕の動きを分離させることが大切だと考えています。
分離運動ができないということは、上肢帯の剛性が高く、低閾値で行うべき運動を高閾値で出力している可能性が高いです。
言い換えると、そこまで強い力は必要ないのに強い力で全て行ってしまう、必要最小限の力で制御できないことが問題であるということです。もっと滑らかに・しなやかに・軽く動かすことが必要になります。
上腕でやるべきことは上腕で、前腕でやるべきことは前腕で行うべきです。ただし、その動きの量・配分はそれぞれ個人差があると考えています。
そして、分離ができた上で、ようやく連動させて使う権利があると考えています。
連動させると前腕から上腕・肩甲骨を1つのセグメントとして考える必要があるかもしれません。
体幹という木の幹から生え出た1本の枝として、片側の上肢帯を捉えるのが良いでしょう。
病態との関連
多くの場合、分離ができないことによる病態との関連が多いと考えています。
普段、携わらせていただいているのが整形外科領域ということもあり、低閾値運動がうまく制御できない、高閾値運動で出力することによる軟部組織・関節の機能不全を有する方に出会う傾向にあります。
例えば、上腕と前腕の関係で分かりやすいのが上腕骨外側上顆炎(以下:外側上顆炎)です。
外側上顆炎の病態や原因について十分に分かっておりませんが、前腕伸筋群の過活動・短縮・オーバーユースによって引き起こされることが多いです。
一般整形外科領域においては、前腕回内位で手関節・手指を過使用していることが影響してきますが、疼痛誘発・軽減の評価を行う中で上腕骨外旋や肩甲骨外旋・後傾・後退のアライメントへ誘導を行うことで症状を緩和させることもできる場合が多くあります。
この時の考え方として、上肢全体の安定性を100%とした時に、前腕・上腕・肩甲骨それぞれどの配分で安定させているかということになります。
例えば、前腕30%・上腕30%・肩甲骨40%の割合が適切な時でも、前腕50%・上腕30%・肩甲骨20%となってしまっては前腕の負荷量が上がっています。
この時、一本の枝のままでは各分節の負荷調整は難しいです。それぞれを分離していく必要があります。
上記の場合でいうと、上腕の割合は30%で変化していないため、“上腕・肩甲骨”と“前腕”のセグメントに分けて考えていきたいところです。
この考え方でいくと、前腕周囲筋の緊張をとるだけではなく、上腕・肩甲帯での安定性を獲得させ、前腕にかける負荷量を軽減させる必要があります。
もちろん、上腕と肩甲骨でも分離させて、それぞれの安定配分を変えていく症例もいるでしょう。さらに言えば、手部近位・手部遠位・手指といったように、考慮するセグメントを増やす必要が出てくるかもしれません。
肩関節でも同様に考えることができます。
挙上時に肩に痛みがある場合、上腕骨の内旋・外旋によって多少症状の程度に変化が生じるかもしれません。しかし、基本はどちらの動きでも痛みは生じない方がよいですよね。
上腕骨内旋の時に痛みが増えるとき、挙上に伴って肩甲骨は内転・下制・外旋・後傾・後退していきたいところですが、反対の肩甲骨外転・挙上・内旋・前傾・前突に運動連鎖してしまうことで肩関節内にストレスをかけてしまい、疼痛を引き起こしている可能性があります。(そもそも内旋で挙げてくるな、と言う話は横に置いておきます。)
ここでは上腕骨と肩甲骨の動きを分離し、上腕骨を内旋しても肩甲骨内転・下制・外旋・後傾・後退の動きができるようにすると痛みが軽減できるかもしれません。
少し長くなってしまいましたが、このように考えていけると簡潔・明解に病態把握することができます。
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まとめ
上腕と前腕の分離・連動というテーマでまとめていきましたが、このような考え方はどの部位・範囲でも同様に考えることが可能です。
病態との関連に関して言うと、まずは『安定性の場合』と『動きの量の場合』それぞれ分けて考えると分かりやすいと思います。
上肢全体を安定させたいのか、あるいは上肢全体の動く量を向上させたいのかです。
『可動性と安定性は相互関係である』『安定できるから可動できる』と考えてしまうと少々話がややこしくなりますので、“まずはシンプルに”それぞれ分けて考えていくのが良いかもしれません。
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