胸郭と肩甲骨の運動連鎖・アライメントの関係性

胸郭と肩甲骨の運動連鎖のトップ画像 専門家向け記事

スポンサードサーチ

胸郭と肩甲骨を考慮する

頸部疾患や肩関節疾患、その他の上肢疾患、腰部疾患など様々な面において、肩甲骨は関与してくると考えられます。

肩甲骨は、鎖骨と肩鎖関節を構成し、胸郭(肋骨)と機能的関節(=肩甲胸郭関節)を構成しています。肩甲骨は、鎖骨と靭帯で繋がれているだけで、その他は筋によって可動性・安定性を生み出しています。

肩甲骨

肩甲骨の面全体は肋骨に対して向いており、肩甲骨に対しては肋骨が土台となります。そのため、肩甲骨の機能は肋骨により影響を受けることが考えられます。

胸椎と肋骨は相互関係があると考えていて、胸椎が動けば肋骨もそれに応じて動き、その逆も然りです。そのため、肋骨と併せて胸椎も考慮する必要があります。

鎖骨・肩甲骨・胸骨

その他、胸骨によっても影響を受けることが考えられます。胸骨と鎖骨が胸鎖関節を構成しており、鎖骨は肩甲骨と関節を構成しているため、胸骨の向きによって鎖骨を介して肩甲骨に影響していきます。

このようなことから、肩甲骨の問題を考える上では肋骨・胸椎・胸骨を併せた胸郭の問題を考えていく必要があります。

胸郭の側屈や回旋に伴い、肩甲骨がどのように連動し、あるいはどのように代償をするのか、筋の影響なども踏まえてまとめていきます。

胸郭側屈と肩甲骨の連動と代償

胸郭が片側に側屈している場合、側屈側の肋骨は内旋・前方回旋し、それに伴い肩甲骨は下制していきます。

例えば、胸郭が右側屈位である場合は、右側の肋骨は内旋・前方回旋しているため、右肩甲骨は下制している状態となります。これは通常の運動連鎖として考えていただければ良いでしょう。この時、反対側の左肋骨は外旋・後方回旋し、肩甲骨は挙上している状態とも考えられます。

胸郭が片側に側屈しているアライメントになっているにも関わらず、肩甲骨の高さが左右同じの場合もあります。この場合、頸部の筋を過剰に使用して肩甲骨挙上の代償をしていることが考えられます。

先程と同様に胸郭右側屈位で考えると、右肋骨は内旋・前方回旋位、肩甲骨が左右同じ高さであった場合は右肩甲骨挙上の代償をしていることが考えられます。

なぜこのように代償するかは多くのことが考えられますが、1つあげるとしたら吸気の代償の可能性があります。息を吸うと肋骨外旋・後方回旋して胸郭は拡張していきますが、胸郭側屈位により肋骨が内旋・前方回旋位に留まってしまうため、胸郭の拡張を代償しようとして肩甲骨で引き上げていることがあります。反対側の肋骨は外旋・後方回旋位で吸気の状態であるために、左右同じように動かそうとすればするほど、肩甲骨での代償を強くさせる可能性があります。

また、肩甲骨で代償するだけではなく、第1肋骨を挙上させることもあると考えられます。この場合、胸郭を上位と下位に分けて考える必要があり、側屈側の下位胸郭は縮小し肋骨は内旋・前方回旋、上位胸郭は拡張し肋骨は外旋・後方回旋している可能性があります。呼吸の評価や肋骨の評価、側屈と反対側の評価・介入が必要になります。

・胸郭側屈側の肩甲骨は下制している
・肩甲骨の高さが左右同じor側屈側が高い場合、肩甲骨挙上で代償している

スポンサードサーチ

胸郭回旋と肩甲骨の連動と代償

胸郭が片側に回旋している場合、回旋側の肋骨が外旋・後方回旋し、それに伴い肩甲骨は後退していきます。胸郭が回旋している反対側の肋骨は内旋・前方回旋し、肩甲骨は前方突出していきます。

例えば、胸郭が右回旋している場合は、右側の肋骨は外旋・後方回旋しているため、右肩甲骨は後退している状態となります。これは通常の運動連鎖として考えていただければ良いでしょう。この時、反対側の左肋骨は内旋・前方回旋し、肩甲骨は前方突出している状態とも考えられます。

胸郭が片側へ回旋しているアライメントになっているにも関わらず、脊柱から肩甲骨内側縁の距離は同じ場合もあります。この場合、回旋側の肩甲骨が前方突出していることもあれば、回旋と反対側の肩甲骨が後退していることもあります。

先程と同様に胸郭右回旋位で考えると、右肋骨は外旋・後方回旋位で、肩甲骨の位置が左右同じで合った場合は右肩甲骨が前方突出しているor左肩甲骨が後退していることが考えられます。

肩甲骨前方突出で代償している理由を考えると、普段の生活習慣が影響が大きいと考えられます。デスクワークやスマートフォンの操作では、基本的に腕が前に位置しているため、肩甲骨も前方へと動きやすいと考えられます。

肩甲骨後退で代償している場合を考えると、側屈の項目でも記載したように、呼吸の代償的活動は大いに考えられます。その他、運動歴も関与しており、とにかく良い姿勢を保とうとして、肩甲骨を胸椎に引き寄せてしまう習慣になっている方もいると考えられます。ストレッチングだけではなく、前者は呼吸に対して介入し、後者は身体に関する認知面での介入が必要になってくる場面があります。

・胸郭回旋側の肩甲骨は後退している
・肩甲骨と背骨の距離が左右同じor回旋側が大きい場合、回旋側の肩甲骨前方突出or非回旋側の肩甲骨後退で代償している

まとめ

胸郭のアライメントに対する肩甲骨の運動連鎖は、上記以外にも考えられることがあります。
今回は、シンプルに胸郭の側屈と回旋に分けて考えていきましたが、実際の臨床場面では側屈・回旋は同時に生じていることがほとんどです。側屈と回旋が同方向であることもあれば、反対方向であることもあります。そのため、肩甲骨の問題はより複雑になります。
この記事を読んでいただいて分かることは、胸郭と肩甲骨の運動連鎖についてではありません。肩甲骨の機能不全があるということは、胸郭の機能不全があるということを踏まえて評価・介入した方が良いということです。肩甲骨よりも先に、あるいは同時に胸郭へ介入するべきであるということです。
そして、胸郭・肩甲骨の機能不全が「どのように病態と結びついているのか」を明確にすることが大切です。単に機能不全があることだけを並べても、点と点を線で結ぶような作業をしなければ、その評価は不十分です。さらに言えば、胸郭の機能不全は腰椎・骨盤帯の影響を受けている可能性も考慮するべきかもしれませんが、多くのことを考えると複雑になり過ぎてしまうこともあるため注意が必要です。

コメント