膝蓋骨は大腿骨と膝蓋大腿関節を構成し、膝関節の機能に大きな影響を与えます。膝蓋骨周囲を取り囲む軟部組織は複雑に関係し、膝蓋骨の位置や動きのバランスを保っています。
膝蓋骨の形状、位置・向き、運動機能異常は膝蓋大腿関節痛(Patellofemoral Pain:PFP)に関係します。
膝蓋骨の位置や向きに問題が生じると、膝蓋大腿関節の特定の部分や、膝蓋骨に影響する特定の軟部組織に過度な負荷・ストレスが生じてしまい、膝関節周囲の痛み・不快感・違和感を引き起こす可能性があります。
膝蓋骨の動きは膝関節の可動性・安定性に大きく関与しています。特に大腿四頭筋の出力・筋力に影響しており、歩行・走行・しゃがみ動作・階段昇降時などで症状を感じる可能性があります。
膝関節周囲の手術後は、膝蓋骨周囲の軟部組織によって膝蓋骨の機能に影響を与えます。さらに、股関節・骨盤帯や足部・足関節の機能不全は二関節筋の作用によって膝蓋骨に対して影響します。
これら膝蓋大腿関節痛や膝蓋骨に起因する病態を理解するためには、膝蓋骨の位置・向きなどの静的アライメントを理解すること、さらに膝蓋骨の動き・動的アライメントを理解することが重要となります。
今回の記事では、『膝蓋骨のアライメントと滑動』について解説していきます。
膝蓋骨周囲の軟部組織・機能解剖に関してはこちらの記事をご参照ください。
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膝蓋骨のアライメント
膝蓋骨のアライメントを評価するには、以下5つのポイントに注意していきます。
各項目がどのような状態なのか、詳しく解説します。
・内旋|外旋
・上方傾斜|下方傾斜
・内側傾斜|外側傾斜
・内側偏位|外側偏位
膝蓋骨の触診を行うだけでは、『これら全てを細かく評価するのは難しい』というのが前提としてはあります。
レントゲンで計測しても難しいかもしれません。撮影するときの大腿骨の向き、膝の角度によっても変わってくるからです。
では、「膝蓋骨のアライメントを評価しなくて良いのでは?」「膝蓋骨のアライメントを診る意味なんてないのでは?」
と思われる方もいると思いますが、それも違います。
「膝蓋骨がそういった状況に置かれる可能性がある」
ということを知っているのと知らないのとでは、大きな差になるからです。
ある程度で良いので知っておくことが大切です。膝関節を深く理解するにはとても意味のある内容です。
例えば、膝蓋大腿関節痛(PFP)の患者・クライアントに出会った時に膝蓋骨にテーピングを巻くとしたら、このような知識があると本当に助かります。
(実際に知っておくことで役立った経験があります!)
それぞれどのような状態なのか、解説していきます。
挙上|下制
矢状面上において、膝蓋骨が上方に位置している場合が挙上、下方に位置している場合が下制です。
・下制:膝蓋骨が下方・尾側に位置する
膝蓋骨に影響を及ぼす主な筋は大腿四頭筋です。
大腿四頭筋が収縮することで、膝蓋骨は上方へ引きつけられます。
そのため、大腿四頭筋が短縮・緊張している時は、膝蓋骨が挙上位にある可能性があります。
反対に低緊張・弛緩・萎縮している場合は、膝蓋骨が下制位にある可能性があります。
ただし注意すべきなのは、「可能性がある」であって「イコールではない」ことです。
大腿四頭筋の中でも、特に内側広筋・外側広筋の広筋群が膝蓋骨を上方に引き付けます。広筋群が機能不全の場合、それを代償しようと大腿直筋が過活動・過緊張に陥る可能性があります。
つまり、「広筋群の機能不全により膝蓋骨は下制位にも関わらず、大腿直筋が短縮・緊張している」上記に当てはまらない状況です。
内旋|外旋
前額面上において、膝蓋骨の下縁が上縁よりも外側に位置する場合が内旋、内側に位置する場合が外旋です。
・外旋:膝蓋骨下縁が上縁よりも内側に位置する
膝蓋骨内側に付着する組織が緊張すれば膝蓋骨は内旋し、外側に付着する組織が緊張すれば膝蓋骨外旋が生じると考えて良いでしょう。
中央に付着する組織、例えば膝蓋靭帯は脛骨との位置関係を考慮する必要があります。
膝関節屈曲に伴って脛骨が内旋するために、膝蓋靭帯の遠位付着部である脛骨粗面は内側に変位します。それによって膝蓋靭帯が緊張すると、膝蓋骨下端が内側に牽引されるため、膝蓋骨は外旋すると考えられます。
また、脛骨の静的アライメントにも影響されることを考慮しなければいけません。
内側ハムストリングの緊張が強い、膝窩筋が緊張している場合でも、脛骨内旋が生じる可能性があります。これも同様に、膝蓋骨を外旋させる一要因と考えて良いでしょう。
前傾|後傾
矢状面上において、膝蓋骨の下縁が上縁よりも後方に位置する場合が前傾、前方に位置する場合が後傾です。
・後傾:膝蓋骨の下縁が上縁よりも前方に位置する
この動きが生じてしまうイメージはつきにくいかと思います。膝関節伸展位ではなく屈曲位の方がイメージがつきやすいので、下記でまとめていきます。
荷重位での下肢動作機能不全や、OAによって膝関節伸展制限が生じている場合、膝関節屈曲位で荷重するために大腿四頭筋の緊張が高まります。付着部と膝蓋大腿関節アライメントを考えると、大腿四頭筋の収縮によって膝蓋骨上縁が牽引されるために、膝蓋骨後傾が生じます。この場合は、大腿四頭筋腱や膝蓋腱による疼痛が生じるでしょう。
反対に、何らかの要因で膝蓋下の組織に拘縮があり、それが大腿四頭筋の緊張よりも強い場合、膝蓋骨下縁が後方に牽引され膝蓋骨前傾が生じると考えられます。膝関節の術後であれば、大腿四頭筋の萎縮・低緊張+膝蓋下脂肪体の拘縮・膝蓋支帯の緊張などが影響される可能性があります。この場合、膝蓋下脂肪体が圧迫されたり挟み込まれる状態になるため疼痛が生じるでしょう。
内側傾斜|外側傾斜
水平面上において、膝蓋骨内側縁が外側縁よりも後方に位置する場合が内側傾斜、外側縁が内側縁よりも後方に位置する場合が外側傾斜です。
・外側傾斜:膝蓋骨外側縁が内側縁よりも後方に位置する
外側広筋は膝蓋骨上外側に付着するため、膝蓋骨外側縁を後方に圧迫するのを誘発すると考えられます。内側広筋はその逆が生じると考えられます。
臨床的には、内側広筋の萎縮・出力低下および外側広筋の過剰な筋出力・発達など、広筋群の中で外側広筋優位な状態・過用が多く見受けられます。
内側or外側に傾斜しながら膝関節屈曲・伸展動作で膝蓋骨が動くため、膝蓋骨の動きに偏りが生じ、それに伴い膝蓋大腿関節内に圧迫・牽引ストレスが生じるでしょう。
内側偏位|外側偏位
前額面上において、膝蓋骨が内側に位置している場合が内側偏位、外側に位置している場合が外側偏位です。
内側偏位・外側偏位はそれぞれ、膝蓋骨内側縁・外側縁が大腿骨内側顆・外側顆に接近した状態になります。
・外側偏位:膝蓋骨外側縁が大腿骨外側顆に接近した状態
内側傾斜|外側傾斜の項でも記載したように、内側広筋よりも外側広筋が優位な状態に陥りやすいです。加えて、腸脛靭帯が外側膝蓋大腿靭帯・外側膝蓋支帯に付着するため、臨床的に外側偏位が生じやすいと考えて良いでしょう。
片側に偏位した状態で膝関節の動き、それに伴う膝蓋骨の動きが生じる場合、膝蓋大腿関節内で偏ったストレスが加わり、関節の狭小化・骨棘形成など関節内病変が起こる可能性があります。
これは偏位だけに限らず、前述してきたどの項にも当てはまります。
膝関節運動に伴う膝蓋骨の滑動
膝蓋骨は膝関節の動作に伴って滑るように動きます。
これを『滑り運動・グライド』といいます。
・膝関節伸展では、膝蓋骨が上方・頭側へ滑動します。
大腿骨に対する膝蓋骨の接触面積は、膝関節の屈曲角度が大きくなるにつれて増加します。これは、膝蓋大腿関節にかかる負荷を分散させる役割を果たしています。膝蓋骨のアライメントが良好な場合、このような力の分散によって日常生活の中で強い圧縮力が生じずに済みます。
膝関節完全伸展位では、膝蓋骨は膝蓋下脂肪体と膝蓋上滑膜の上に位置します。
膝関節が屈曲し始めると、膝蓋骨下面は大腿顆部の最上部に接触します。この接触は、大腿骨外側顆と膝蓋骨外側面の間で生じ始め、30度までは顆の両側に均等に接触します。60〜90度と屈曲角度が増加するに伴い、膝蓋骨と大腿骨の接触面積は増加し続けます。135度以上の深屈曲〜完全屈曲位では膝蓋骨後面の内側(Odd Facet)に接触します。
前述した膝蓋骨のアライメントに何かしらの問題が生じている場合、膝関節の運動に伴う膝蓋骨の位置・動きに問題が引き起こされる可能性があります。
また、評価において膝蓋骨の上方・頭側滑りや下方・尾側滑りを診るのは重要ですが、そもそもの開始位置・静的アライメントが影響しているのも考慮しなければいけません。
膝蓋骨挙上位の場合、上方・頭側滑りの最終域までの運動幅は中間位よりも少なくなるため、『上方・頭側滑り運動が制限されている』という評価結果になることがあります。しかし、膝蓋骨を挙上位から中間位に戻してから上方・頭側滑りの評価を行うことで、それを防ぐことができるかもしれません。まずは中間位・ニュートラルを確認することから始める必要があります。
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大腿骨アライメントに伴う膝蓋骨の相対的位置関係
膝蓋骨の位置や運動は、大腿骨のアライメントに大きく影響を受けます。
「膝蓋大腿関節の機能障害のほとんどは大腿骨の機能不全が由来している」と臨床の中で感じます。
大腿骨は矢状面・前額面・水平面と3平面上で大きく動きますが、特に水平面上の動き-内旋・外旋がイメージしやすいかと思いますので解説していきます。
大腿骨内旋と膝蓋骨
大腿骨が内旋している場合、膝蓋骨が正面に位置する場合は相対的に外側へ偏位していることになります。
大腿骨内旋に伴って膝蓋骨が内側を向いている場合は、膝蓋大腿関節での動きは生じていないと考えられます。
膝蓋大腿関節で問題となるのは、前者の大腿骨内旋+膝蓋骨の相対的な外側偏位です。
大腿骨が内旋するということは、股関節内旋筋群の緊張・短縮が生じているかもしれません。
股関節内旋筋群は、主に股関節内転筋群や大腿筋膜張筋が該当します。大腿内旋位で膝伸展動作を行う場合は、広筋群の中でも外側広筋の作用が強くなります。
外側広筋は長頭と斜頭に分けられます。
長頭は大転子から大腿四頭筋腱に付着し、主に膝関節伸展の作用を有します。斜頭は外側筋間中隔・腸脛靭帯から膝蓋骨上外側に付着し、主に膝蓋骨を上外側へ牽引する作用を有します。
大腿筋膜張筋は腸脛靭帯との関係が強いため、その影響によっても膝蓋骨が外側へ引っ張られることになります。
これらのことから、大腿骨内旋によって膝蓋骨に関係する筋の緊張バランスに変化が生じ、膝蓋骨外側偏位が生じるということです。
今回の例では大腿骨内旋でまとめましたが、もちろん大腿骨外旋の場合もあります。しかし、臨床において主に問題となりうるのは、大腿骨内旋のことが多いように感じます。
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