筋皮神経の走行バリエーション:筋皮神経障害の臨床症状と原因

筋皮神経の走行タイプ:烏口腕筋・上腕二頭筋による絞扼障害との関係のトップ画像 専門家向け記事
Pocket

スポンサードサーチ

筋皮神経

筋皮神経(Musculocutaneous Nerve)は、腕神経叢(C5-7)に由来する上腕・前腕に関連する末梢神経です。

運動枝としては、上腕二頭筋・上腕筋・烏口腕筋を支配していることから、肘関節屈曲、前腕回外、肩関節屈曲・内転に作用します。

上腕二頭筋の走行を示したイラスト

感覚枝としては、外側前腕皮神経に分枝することから、前腕外側の感覚を支配している神経です。

機能

  • 運動枝:上腕二頭筋・上腕筋・烏口腕筋
  • 感覚枝:前腕外側領域

上記が筋皮神経の基本的な解剖学です。

どのような筋・神経にも解剖学的バリエーション(いわゆる破格)が存在しますので、今回の記事では筋皮神経のバリエーションについてまとめていきます。

筋皮神経の走行

腕神経叢の外側神経束から分枝した筋皮神経は、腋窩部を通過した後に烏口腕筋を貫通します。烏口腕筋の起始である烏口突起から約5〜6cmの領域を貫通すると言われています。(烏口突起から3〜4横指下方です。)その後、烏口腕筋の前面から出てきて、上腕二頭筋深層と上腕筋表層の間を走行します。その途中で、上腕二頭筋・上腕筋へ運動枝を与えます。それぞれの筋に運動枝を供給する分岐点としては、肩峰から平均13.0cm・17.5cmの距離にあるとされています。

その後、上腕近位内側面から上腕遠位前面へと走行していき、上腕二頭筋腱の外側(上腕二頭筋と上腕筋の間)を通過し、この時点で”外側前腕皮神経”となります。外側前腕皮神経(Lateral Antebrachial Cutaneous Nerve)は、深筋膜の表面を貫通し前腕外側の皮下組織に達します。その後、掌側と背側に分枝し、前腕外側の感覚を支配しています。

筋皮神経の走行

烏口腕筋を貫通

上腕二頭筋と上腕筋の間を走行

上腕二頭筋腱の外側を通過

外側前腕皮神経となる

深筋膜を貫通

掌側皮枝と背側皮枝に分枝

スポンサードサーチ

筋皮神経の走行タイプ

筋皮神経の走行バリエーションは6タイプあるという研究がなされています。

タイプⅠ:典型例で烏口腕筋を貫き、ついで上腕二頭筋と上腕筋に分布する走行形態を呈していたもの
タイプⅡ:筋皮神経と正中神経の連続性が確認できたもの
タイプⅢ:筋皮神経が上腕二頭筋の長頭もしくは短頭の筋腹を貫いていたもの
タイプⅣ:筋皮神経が烏口腕筋を貫かないもの
タイプⅤ:筋皮神経の枝により上腕二頭筋の過剰頭が直接神経支配されたもの
タイプⅥ:2本の筋皮神経が烏口腕筋を貫いていたもの

走行タイプ

  1. 烏口腕筋を貫通
  2. 筋皮神経と正中神経の接続
  3. 上腕二頭筋の長頭もしくは短頭を貫通
  4. 烏口腕筋を貫通しない
  5. 上腕二頭筋の過剰頭が直接神経支配される
  6. 2本の筋皮神経が烏口腕筋を貫通

※上腕二頭筋の過剰頭に関しては後述します。

上記のようなバリエーションが存在することがあるということは、烏口腕筋だけではなく上腕二頭筋による筋皮神経絞扼障害の可能性もあると言うことになります。

臨床においては、肘関節屈曲・伸展動作で前腕外側に痛みが生じるということがあります。これは、上腕二頭筋の収縮・伸張時に、筋皮神経を絞扼してしまうことによる症状とも考えられます。(もちろん、肘関節の靭帯・関節包、上腕・前腕の筋の可能性もあります。)

また、肩関節疾患の方においても前腕外側に症状を訴えることが多いかと思います。関節包や烏口腕筋の評価をして問題がなかった症例の方でも、意外と上腕二頭筋には問題があった可能性も考えられますね。

上腕二頭筋のバリエーション

今回は筋皮神経のバリエーションについての記事ですが、”タイプⅤ:上腕二頭筋の過剰頭が直接神経支配される”という内容が出てきた手前、上腕二頭筋のバリエーションにも触れておかなければいけません。

これは、上記でご紹介した研究と同じものになります。

上腕二頭筋の形態については、三頭で構成される上腕二頭筋は22体中7体(31.8%)であり、この大部分がタイプⅢの神経走行形態を呈していた。

これ以外の研究でも、上腕二頭筋のバリエーションについての報告がなされています。

The most frequently reported variation is the biceps with three heads of origin, though up to six heads have been documented. The third head of biceps generally arises from the humerus between the attachments of the coracobrachialis and the brachialis muscles. However, it can originate from the tendon or fascia of the neighboring muscles, the intermuscular septum, the capsule of the shoulder joint and the neck, lesser tuberosity or the anteromedial surface of the humerus. The occurrence of the supernumerary head of the biceps brachii is also often coupled with variations of MCN which may incorporate a peculiar branching pattern, the absence of the nerve or its duplication.

上腕二頭筋は3頭だけではなく、最大6頭あるという報告もあるようです。もはや上腕二頭筋という名前は相応しいのか…改名した方が良いかもしれません。

なんて冗談はさておき、3頭目は烏口腕筋と上腕筋の間の上腕骨、隣接筋の腱やFascia、筋間中隔、肩関節の関節包、上腕骨頸部、上腕骨小結節などに付着するそうです。そして、上腕二頭筋の形態変化が生じている場合、筋皮神経の変異と関係しているかもしれないと示唆しています。

このことを踏まえると、肩関節疾患を有し前腕外側に痛みなどを訴える方は形態学的変化も考慮し、上腕二頭筋の問題やそれに付随する肩関節の関節包、周囲筋との関係性・Fasciaとの関係性なども考えていく必要があります。

その逆も然りで、肘・前腕の問題が生じた場合、肩関節の機能不全も引き起こしてしまう可能性があります。肘・前腕の問題を長期間有している方には、肩関節複合体の評価・介入をする必要があると考えた方が良いでしょう。

スポンサードサーチ

筋皮神経障害・麻痺の原因・症状

他の神経と同様に、裂傷・骨折・脱臼などの外傷により筋皮神経に問題が生じることがあります。

最も生じうる可能性が高いのが、烏口腕筋による筋皮神経絞扼であり、上腕二頭筋・上腕筋の筋力低下や筋萎縮を引き起こし、それに伴い前腕外側の感覚が失われます。
この症状を最も発症しやすいのが、上肢を挙上させた状態での肩関節・肘関節の屈伸運動を頻繁に行う若年者であることが研究で報告されています。これは、烏口腕筋の肥大に伴って生じる傾向にあり、端的に言えば慢性的な酷使・使いすぎによる結果です。これは、烏口腕筋内で圧迫された筋皮神経は既に烏口腕筋へ運動枝を与えているため、烏口腕筋の機能障害を呈することはないということに注意しましょう。

もう一つ生じる可能性が高いのが、肩関節前方脱臼です。
これにより最も生じうるのが腋窩神経の損傷ですが、筋皮神経の損傷が生じるケースもいくつか報告されています。筋皮神経は肩甲上腕関節の前方で外側神経束から分枝していることからも、前方脱臼にて損傷されやすいことが考えられます。さらに、前下方への牽引と肩関節の外旋肢位(肩関節外転位)は筋皮神経に大きな張力をかけます。これは烏口腕筋の伸張肢位でもあるため”圧迫+伸張”のストレスとなり、損傷を受ける理由の一つになります。また、野球やテニス、バレーボールなどのオーバーヘッドスポーツにおいても、同様の動きとなるため問題が生じうる可能性があります。

外側前腕皮神経障害・麻痺の原因・症状

筋皮神経の末端枝である外側前腕皮神経の特異的な障害も存在します。

この感覚枝のみの病態には臨床的な気づかれないことが多いとされています。(自分も気づいていないかもしれません。)

外側前腕皮神経は深筋膜を貫通して分枝する直前に、上腕筋の強靭な筋膜層と上腕二頭筋腱膜によって形成されたトンネル状構造を通過していきます。前腕回内位で肘関節伸展の動作を繰り返していたり、長時間その肢位を保持している場合、外側前腕皮神経が上腕二頭筋腱膜によって圧迫されてしまい、前腕外側の痛み・痺れや感覚鈍麻を引き起こす可能性があります。

症状部位や上肢のアライメントから、上腕骨外側上顆炎のような症状を疑うかもしれません。この場合、手関節での動きには依存しないとお考えになるかもしれません。しかし、上腕二頭筋腱膜は前腕筋膜へ収束していくため、手関節・手指の動きでも症状が再現される可能性があるため、経過を追いながら精査が必要になってくるでしょう。

スポンサードサーチ

参考文献

  1. Sandeep Saluja, Sushant Swaroop Das, Dinesh Kumar, Preeti Goswami, Bilateral Three-headed Biceps Brachii Muscle and its Clinical Implications, Int J Appl Basic Med Res. 2017 Oct-Dec; 7(4): 266–268.
  2. Sohil S. Desai; Matthew Varacallo, Anatomy, Shoulder and Upper Limb, Musculocutaneous Nerve, In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2021 Jan.
  3. Reilly D, Kamineni S. Unusual origin of three headed biceps brachii muscle. Anatomy: 2015;9:94–9.
  4. Hamid Tayefi Nasrabadi, Ali Abedelahi, Hamed Shoorei, Majid Shokoohi et al., A variation of Musculocutaneous nerve without piercing the coracobrachialis muscle while communicating to the median nerve: A case report and literature review, International Journal of Surgery Case Reports Volume 41, 2017, Pages 453-455
  5. 矢島 麗, 山本将仁, 小髙研人, 松永 智, 阿部伸一, 筋皮神経の走行形態が上腕二頭筋と上腕筋の形態形成に及ぼす影響, 歯科学報, 2017, 117(3): 264-264

コメント