Hill-Sachs Lesionの病態・分類・原因:反復性肩関節脱臼との関係

ヒル・サックス損傷の病態・原因・分類のまとめ記事 病態

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肩関節脱臼

肩関節(肩甲上腕関節)は肩甲骨と上腕骨で構成される関節です。
肩甲骨関節窩の面積は上腕骨頭に対して約1/3〜1/4ということもあり、骨性に不安定であることが分かります。これを一般的には、ゴルフボール(上腕骨頭)とティ(肩甲骨関節窩)の関係で表していることが多いです。

ゴルフボールとティ

逆に骨の安定性が少ないために、肩関節は大きな可動範囲を有しているとも言えます。

この骨の不安定性を補うために肩関節周囲は靭帯・関節包・筋肉によって覆われており、肩関節の安定化に寄与しています。

肩関節後面の骨模型

上記のように、肩関節は関節の中でも脱臼しやすい構造をしており、そのほとんどが前方へ脱臼します。

一度脱臼の既往歴があると、その後繰り返し脱臼をしてしまう可能性が高くなり、そのような状態を『反復性肩関節脱臼』といいます。

脱臼の際に、肩甲骨側に問題が生じるのが『Bankart Lesion(バンカート損傷)』上腕骨頭側に問題が生じるのが『Hill-Sachs Lesion(ヒル・サックス損傷)』となります。

今回の記事では、Hill-Sachs Lesionの病態・原因と分類についてまとめていきます。

Bankart Lesionに関しては、こちらの記事で詳しく解説していますので、併せてご参照ください。

Hill-Sachs Lesion

Hill-Sachs Lesionは、肩関節の前方不安定性または脱臼に関連して発生する、”上腕骨頭後部の陥没骨折・凹み”です。

1940年に、HA HillとMD Sachsという名前の2人の放射線科医によって最初に説明されたことから、このような病名が付けられています。

肩関節前方脱臼の際に、上腕骨頭後外側面は脱臼した位置で肩甲骨関節窩前部に押し付けられてしまうことで”陥没・凹み”が生じます。

この際に、関節上腕靭帯や関節唇などの損傷も組み合わさる可能性が高いです。特に自己整復できてしまった場合などは、関節唇の問題なども含めて精査が必要となります。

関節唇や靭帯の問題がある状態では再脱臼の危険性は高まり、わずかな負荷でも脱臼してしまう状態になりかねません。
また、上腕骨頭の陥没・へこみの範囲が広い場合においても、肩甲骨関節窩と上腕骨頭の接触面積が狭くなってしまうため、不安定性が増加し再脱臼の危険性が高くなります。

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疫学・原因

Hill-Sachs Lesionの発生率は、肩関節前方不安定症の全症例の約40%〜90%です。これを調べた研究では、脱臼の急性期では65%、再発性不安定症の症例では93%にHill-Sachs Lesionが認められました。

Hill-Sachs Lesionは、初回の肩関節前方脱臼で約50%の確率で発生します。肩関節前方脱臼の既往歴(肩関節前方不安定症)のある症例の場合、ほとんどの場合において上腕骨頭後部の陥没骨折が確認されます。

Hill-Sachs Lesionが生じる肢位を明らかにするために,反復性肩関節前方脱臼患者100人100肩のCT画像を用い解析を行った研究があります。

Hill-Sachs損傷と関節窩前縁がかみ込む平均の角度は外転74±20、外旋27±20、水平内転4±21度であった。

この結果から、Hill-Sachs Lesionはいわゆる脱臼肢位(外転外旋位)より小さな外転および外旋角度で生じていることが分かっています。
Hill-Sachs Lesionが脱臼時ではなく脱臼後により小さな外転および外旋角度で生じている可能性、前方へ大きく脱臼した後に軟部組織などの張力によって後方へ戻される際に損傷が生じている可能性などが考えられます。

分類

分類システムは、病変の深さによって反映される前方関節包と関節唇前部の損傷の量を説明するために使用されます。

グレードが高いほど再脱臼発生のリスク増加と関連しています。

分類

  • グレード1:軟骨下骨までの関節面の損傷(※ただし軟骨下骨を含まない)
  • グレード2:軟骨下骨が含まれる損傷
  • グレード3:軟骨下骨の大きな損傷

さらに、陥没骨折における上腕骨頭の欠損の割合を調べることでも分類を行うことができます。ほとんどの場合、損傷の大きさが以前の脱臼の数と相関していると考えて良いでしょう。

分類

  • 軽度 :<20%
  • 中程度:20%〜45%
  • 重度 :>45%

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臨床症状

肩関節脱臼だけが独立して発生することはほとんどなく、靭帯・関節包・腱板・上腕骨頭の骨や軟骨など肩関節を取り巻くさまざまな周囲組織に損傷を与えます。

以下は、肩関節前方脱臼の急性期における臨床所見をまとめています。

臨床症状

  • 外転・外旋位で保持された上腕
  • 後方・側方における三角筋と肩峰の正常な輪郭の消失
  • 上腕骨頭が前方で触知される
  • 烏口突起下〜腋窩の膨満感
  • 全ての動きが制限され痛みを伴う

このような状態が確認される場合、すぐさま医師に相談しましょう。

こちらの記事では、肩関節前方脱臼の既往歴や前方不安定性を有する方に対する評価方法を解説していますので、ぜひご参照ください。

参考文献

  1. Provencher MT, Frank RM, LeClere LE, Metzger PD, Ryu JJ, Bernhardson A, Romeo AA. The Hill-Sachs lesion: diagnosis, classification, and management. Journal of the American Academy of Orthopaedic Surgeons 2012;20(4):242-52.
  2. Yiannakopoulos CK, Mataragas E, Antonogiannakis E. A comparison of the spectrum of intra-articular lesions in acute and chronic anterior shoulder instability. Arthroscopy: The Journal of Arthroscopic & Related Surgery 2007;23(9):985-90.
  3. Savoie F, O’Brien M. Management of Hill-Sachs Lesion, International Congress for Joint Reconstruction, 2014.
  4. Shoulder Doc. Hill-Sachs Lesion. https://www.shoulderdoc.co.uk/article/1470 (accessed 26/08/2018).
  5. 川上 純, 山本 宣幸, 永元 英明, 塩田 有規, 峯田 光能, 井樋 栄二, Hill-Sachs損傷はどの肢位でできるのか?, J-STAGE, 肩関節, 2015年, 39巻2号p.424-427

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