Bankart Lesionの病態・原因・臨床症状

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肩関節脱臼

肩関節(肩甲上腕関節)は肩甲骨と上腕骨で構成される関節です。
肩甲骨関節窩の面積は上腕骨頭に対して約1/3〜1/4ということもあり、骨性に不安定であることが分かります。これを一般的には、ゴルフボール(上腕骨頭)とティ(肩甲骨関節窩)の関係で表していることが多いです。

ゴルフボールとティ

逆に骨の安定性が少ないために、肩関節は大きな可動範囲を有しているとも言えます。

この骨の不安定性を補うために肩関節周囲は靭帯・関節包・筋肉によって覆われており、肩関節の安定化に寄与しています。

肩関節後面の骨模型

上記のように、肩関節は関節の中でも脱臼しやすい構造をしており、そのほとんどが前方へ脱臼します。

一度脱臼の既往歴があると、その後繰り返し脱臼をしてしまう可能性が高くなり、そのような状態を『反復性肩関節脱臼』といいます。

脱臼の際に、肩甲骨側に問題が生じるのが『Bankart Lesion(バンカート損傷)』上腕骨頭側に問題が生じるのが『Hill-Sachs Lesion(ヒル・サックス損傷)』となります。

今回の記事では、Bankart Lesionの病態・原因と分類についてまとめていきます。

Hill-Sachs Lesionに関しては、こちらの記事で詳しく解説していますので、併せてご参照ください。

Bankart Lesionの病態

Bankart Lesionは、肩関節の前方脱臼が繰り返される(反復性肩関節脱臼)ことによって引き起こされる関節唇前部(前下部)の損傷・剥離です。

特に大きな負荷が加わると、関節窩から関節唇靭帯複合体が引き剥がされることもあります。

肩関節は前・下方へ脱臼することが多いため、前下関節上腕靭帯(Anterior Inferior Glenohumeral Ligament:AIGHL)が損傷・断裂の関与を考慮していきます。

また、関節窩が骨折する『骨性バンカート損傷』が生じることもあります。

稀な病態としては、関節包の断裂や、HAGL(Humeral Avulsion Glenohumeral Ligament) 損傷が合併していることもあります。

関節包断裂とは、中関節上腕靭帯(Middle Glenohumeral Ligament:MGHL)と下関節上腕靭帯(Inferior Glenohumeral Ligament:IGHL)の間にある関節包が裂けてしまう病態です。
HAGL損傷とは、上腕骨に付着する下関節窩上腕靭帯が上腕骨側で剥がれる病態です。

上記は前方脱臼の場合ですが、後方脱臼の場合ではReverse Bankart Lesion(逆バンカート損傷)が発生する可能性があります。

Reverse Bankart Lesionは、関節包後部の骨膜の剥離を伴う後下方関節唇の剥離と定義されます。これに伴い、後下関節上腕靭帯(posterior inferior gleno-humeral ligament:PIGHL)が弛緩し、上腕骨頭が後方変位する可能性があります。

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疫学・原因

肩関節(肩甲上腕関節)は、大きな可動性を有する関節であるため、安定性を犠牲にしているとも言えます。

上腕骨頭と関節窩の接触面積の割合は低く、関節包も緊張も強くはないため、不安定であり脱臼も生じやすい関節というわけです。これを補うために、動的支持組織・神経筋の制御によって安定性を補完しています。

Bankart Lesionは、バレーボールやテニス・ハンドボール・野球などのオーバーヘッドスポーツによる過用(過負荷に伴う負債)、ラグビーやアメリカンフットボールなどのコンタクトスポーツ(高エネルギー外傷)、頭上で行う労作業をされる方に見られることが多い病態です。その他、転倒や事故などに伴い受傷します。

病因

  • 転倒
  • 衝突事故
  • コンタクトスポーツ
  • オーバーヘッドスポーツ
  • 靭帯の弛緩性

肩関節前方不安定症は、最も一般的な外傷性不安定症であり、肩関節不安定症の全体の約95%を占めています。

これらの病因は、脱臼の既往歴を有しており、肩関節の前方不安定性がある場合は、より高確率でBankart Lesionが生じる可能性があることになります。

また、稀ではありますが後方脱臼の場合、逆バンカート損傷が発生する可能性があります。

臨床症状

Bankart Lesionの症状には以下が挙げられます。

症状

  • 挙上時の痛み
  • 夜間痛
  • 日常生活動作での痛み
  • 肩関節の可動域制限
  • 肩関節の不安定感・緩さ
  • 低エネルギーの動きにおける亜脱臼・脱臼・不安定感
  • 引っ掛かり感(キャッチング)
  • ロッキング

※低エネルギーの動きとは、寝返りや扉を開ける、シートベルトを締める、前方・側方の物を掴むなど、大きな力が必要ではない動きのことです。

また、力の入りにくさなども訴える場合があります。
肩関節不安定性により、肩甲骨関節窩に対して上腕骨頭のポジションが良くない場合、肩関節周囲筋の出力が低下し、それが長期化すれば筋力低下・筋萎縮なども生じてくる可能性があります。

特に、「過去に一度、亜脱臼したような抜けた感じがあったけど、勝手にハマって治った!」というような経験している方では、症状の経過を追いながら、これらに当てはまる症状がないか追加検査をする必要はないかを検討していくべきでしょう。

こちらの記事では、肩関節前方脱臼の既往歴や前方不安定性を有する方に対する評価方法を解説していますので、ぜひご参照ください。

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参考文献

  1. K. E. Wilk, L. C. Macrina, M. Reinold, ‘Non-operative Rehabilitation for traumatic and atraumatic glenohumeral instability’, North American Journal of Sports Fhysical Therapy, 2006, p 16-31 (Level of Evidence 1A)
  2. Magnetic Resonance Imaging in Orthopaedics and Sports Medicine, Volume II, David W. Stoller, 2007, p 1329-1338
  3. Widjaja A, Tran A, Bailey M, Proper S. Correlation between Bankart and Hill-Sachs lesions in anterior shoulder dislocation.,2006 ANZ J Surg 76 (6): 436–8.
  4. D. Y. Wen, ‘Current concepts in the treatment of anterior shoulder dislocations’, American Journal of Emergency Medicine, Volume 17, Number 4, 1999, p 401-407 (Level of Evidence 2A)

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