股関節屈曲の制限因子:前外側面組織・後面組織・joint play

股関節屈曲の制限因子のトップ画像 評価方法

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股関節屈曲

股関節屈曲の可動性は臨床的に大きな意義を有しています。

股関節屈曲が90°以下である場合、座位保持の際に腰椎・骨盤帯にかかる負担は大きくなります。床に座ることも難しくなるでしょう。

このように日常的に必須動作の部分において、問題を感じることが多いというのも特徴ではないでしょうか。足首が痛いからなるべく体重をかけないようにするとか、肩が痛いから洋服を着るときに片方ずつ気をつけながら行うというように、庇うことでどうにかなるものでもない部分ですよね。

股関節の付け根を痛がって押さえる女性

また、他動運動では痛みなく曲げることができるものの、自動運動では痛みが生じてしまうということも大きな問題であります。歩くとき、階段を登るとき、立ち上がるときなど、日常で頻回に繰り返される動きでも痛みが生じてしまいます。

股関節屈曲の可動性を改善できるようになるためには、制限因子を捉えそれに対して適切な介入を行う必要があります。

股関節を曲げてストレッチをする女性

そのため今回の記事では、『股関節屈曲可動性の制限因子を考える』ということをテーマにまとめていきます。

後面組織の伸張性

一般的に考えられているのが、大殿筋ハムストリングの伸張性に関する問題です。

股関節伸筋群:大殿筋・ハムストリングのイラスト

その他にも、深層外旋筋群も制限因子となる可能性があります。これらの筋肉は、外旋作用とともに伸展作用も有していると考えられています。

特に梨状筋・上双子筋・大腿方形筋などは股関節屈曲角度が増加するにつれて伸張されるため、これらも制限因子として考慮するべきでしょう。

股関節深層殿筋群のイラスト

また、後方関節包や下方関節包も制限因子として考えられます。

これらの軟部組織が伸張しないということは、股関節屈曲時における大腿骨頭の尾側滑りや背側滑りを制限するため、屈曲可動性を制限してしまうでしょう。

まとめ

  • 大殿筋
  • ハムストリング
  • 深層外旋筋群
  • 後方関節包
  • 下方関節包

介入時に、深層外旋筋群をそれぞれ鑑別評価して介入することは非常に難しい点もあるため、まとめて介入しても良いと考えております。時間効率・相手の満足度も踏まえて考えると、鑑別する方に時間をかけるよりかは、ざっくり介入してから再評価をする方が良いのではないでしょうか。

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前・外側面組織の関係

大腿前面・外側面の組織も屈曲可動性に大きく関係してきます。

股関節屈曲時に前方のつまり間を訴える方は多く、特に痛みに関しては大腿直筋の近位付着部の関与が多いです。
前方のつまりではなく、外側面のつまり間を訴える方も少なくありませんが、これに関しては大腿筋膜張筋が考えられます。

大腿前面の筋群

この2つの筋肉は股関節屈曲の作用を有するにも関わらず、股関節屈曲可動性を制限する因子としても考えることができます。これらの筋肉が過緊張状態である場合、大腿骨頭を前方に変位させてしまうため、屈曲に伴う大腿骨頭の後下方滑りが生じにくくなってしまい制限となります。

また、腸腰筋も関与する可能性があります。大腰筋・腸骨筋が短縮・伸張している場合、筋機能が低下してしまい適切な収縮を行えない(線維レベルの滑走が生じない)のと大腿骨頭の前方変位を抑制できないため、屈曲の可動性を制限することに繋がるでしょう。大腰筋は腰椎に付着を有しているため、股関節固有の問題として考えるのであれば、まずは腸骨筋の機能不全を考慮した方が良いかもしれません。

まとめ

  • 大腿直筋
  • 大腿筋膜張筋
  • 腸腰筋

『これらの筋が緊張している・短縮している場合には、大腿骨頭が前方変位している可能性もある』ということを踏まえると、寛骨臼に対する大腿骨頭の可動性にも着目する必要があります。これに関しては、以下で解説していきます。

寛骨臼に対する大腿骨頭の可動性

”寛骨臼に対する大腿骨頭の可動性”というのは、股関節の最大緩みの肢位(Loose-Packed Position:LPP)で大腿骨頭を動かして評価していきます。

LPPは股関節30°屈曲・30°外転・軽度外旋位であり、股関節周囲の筋・関節包・靭帯などの緊張が一番緩む肢位となります。

その位置で大腿骨近位を把持して『牽引』・『腹側・背側滑り』・『内側・外側滑り』の副運動を評価していきます。これらの可動性制限がある場合、股関節の関節包による制限があると考えられます。

まとめ

  • 牽引
  • 腹側滑り
  • 背側滑り
  • 内側(下方)滑り
  • 外側(上方)滑り

関節包の制限がある場合、どれか1つの制限があるというよりも、複数の方向へ制限が生じていると考えられます。逆に言えば、1つの方向の制限である場合は、筋の影響も考えなければいけないということです。

この評価をせず”筋”だけに介入している場合、関節包の制限は残存しているため股関節の可動性は改善されないと考えられます。
いくらストレッチを頑張ってもらったとしても、寛骨臼に対する大腿骨頭の位置関係に問題が生じているため、適切なポジションでストレッチできない状態であるということです。つまり、筋に対して過剰にストレスを加えている可能性すらあるということになります。

ストレッチ時の注意点

関節の遊び(Joint Play)の減少

関節包の制限

ストレッチでは…
関節包や靭帯組織にストレスを加える

目的とする筋は適切な位置で伸張されない

関節の過可動性や関節破壊を生じさせる可能性

病態を複雑化させる

屈曲時には大腿骨頭が尾背側に滑ります。屈曲の可動性制限がある場合、多くは『牽引』や『背側滑り』に問題がある生じる可能性が高いです。

加えて『内側滑り』・『外側滑り』は人によって差がありますが、どちらかの方向に制限があるかもしれません。例えば内側滑りが制限されている場合、大腿筋膜張筋により大腿骨頭が外側に変位している状態で長期間使用することで、その状態がその人の中でのニュートラルになったことで関節包の問題が引き起こされた可能性があります。それに伴い、屈曲時には大腿骨頭が寛骨臼縁に衝突しやすい位置関係になってしまうためインピンジメント症状を惹起し、屈曲可動性を制限すると考えられます。

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まとめ

股関節屈曲可動性の制限因子としては、後面組織・前面組織の問題と寛骨臼に対する大腿骨頭の可動性の問題を考慮するべきでしょう。

ただし、寛骨臼の状態も考慮するべきであると考えております。
寛骨が前傾・前方回旋している場合は股関節屈曲可動性を制限するので、寛骨を前傾させてしまう筋の影響、および寛骨を後傾させる筋の機能不全を考えると良いかもしれません。

これらを踏まえた上で、股関節の関節包の問題が濃厚である場合は、関節モビライゼーションを行うと良いでしょう。

モビライゼーションの方法はいくつかありますが、私が個人的に使用するのは、寛骨を固定しての大腿骨頭の牽引・外側牽引、ベルトを使用しての尾側滑り、外側牽引に加えて尾側滑りと背側滑りなどを状態に合わせて実施しています。

外側牽引の方法例として、下記Youtubeを参考にしてみてください。

また、筋の過緊張が生じてしまう要因を考える必要があります。筋のインバランスの有無、動作上の問題の有無を評価し、それに対する介入をしなければ状態は改善していかないでしょう。

特に大腿筋膜張筋やハムストリングは問題として浮上しやすいため、以下の記事を参考にしていただけますと幸いです。

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