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関節唇損傷とは
股関節唇損傷は、1957年にPatersonが初めて報告した、大腿寛骨臼インピンジメント(Femoroacetabular Impingement:FAI)や寛骨臼唇裂傷(Acetabular Labral Tear:ALT)など、関節唇に関連するすべての問題を含む包括的な用語です。
比較的新しい疾患であること、鑑別診断が困難であることから、確定診断が困難な疾患の1つになります。
メカニカルストレスにより誘発された病状は、股関節での過度の力に起因すると考えられています。
たとえば、関節唇の損傷により寛骨臼の接触面積が減少し、関節唇にかかるストレスが増加することで、股関節の損傷を引き起こしたり、股関節が不安定になっていきます。
関節唇損傷の分類
関節唇損傷は3つに分類されます。
- 臼蓋の形態異常を伴わない場合
- 臼蓋形成不全のように臼蓋の形態異常を伴う場合
- 大腿骨頭の形態異常を伴う場合
FAIは、関節唇損傷の原因として注目されています。
FAIの鑑別は比較的容易ですが、そうでない①は鑑別が困難となります。
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変形性股関節症への経緯
変形性股関節症に到るまでの経緯として、FAI・臼蓋形成不全・関節唇損傷が関係しています。
- Sealing機能とSuction機能が低下する
- 股関節の安定性が低下する
- 関節包の動きが低下する
⇒変形性関節症
また、股関節唇損傷は受傷機転の不明確さと診断の遅れにより、診断がつくまでの期間は平均約20ヶ月、約3.3施設を経由すると言われています。
FAI
↓
股関節インピンジメント症候群
↓
股関節唇損傷
↓
変形性股関節症
上記の段階のように、FAIの状態では股関節前面のつまり感などを感じることがあります。
この時は既に、股関節のインピンジメントが生じているということになります。
股関節の周囲筋の機能改善や関節包内運動を改善することで、インピンジメント症状はある程度軽減すると考えられます。
しかし、放置したり、適切な介入がなされないと、股関節唇にかかる負担が増加することで、股関節唇損傷となります。
関節唇が損傷してしまうと、股関節の不安定性が増加してしまうために、股関節の変形が進行してしまうこととなります。
私が経過を追っていた患者さんも、最初はインピンジメント症状のみでしたが、あることをきっかけに通えなくなってしまった半年後、股関節の変形が進行していました。
股関節の可動域が顕著に制限され、変形に伴う疼痛も生じていたため、非常に悔しい思いをした経験があります。
臼蓋形成不全
↓
股関節不安定症
↓
(股関節唇損傷)
↓
変形性股関節症
臼蓋形成不全の方は、上記のような経過を追うことが考えられます。
この場合、股関節周囲筋の機能改善を行うことで、股関節不安定症を引き起こさないよう予防していくことが必要と考えられます。
関節唇の機能
関節唇には2つの機能があります。
Sealing effect
関節唇が関節内を密閉している機能です。
関節内を陰圧に保つことができ、圧迫力を臼蓋の関節軟骨に均等に分散し、密接することで滑液を効率よく関節軟骨へ還流できます。
Suction effect
引っ張り力(牽引力)に対して抵抗する機能です。
これは、股関節の安定化に寄与しており、牽引時に関節内を陰圧にして、骨頭求心力を高める機能になります。
※関節唇に断裂を生じると、股関節の接触ストレスが約90%増加します。
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スペシャルテスト
股関節唇損傷を疑う時に行うべきスペシャルテストを5つ紹介していきます!
まずは、4つのテスト単体と、それを組み合わせた時の感度(Sensitivity)・特異度(Specificity)、陽性尤度比(LR+)・陰性尤度比(LR-)をご紹介します。
Test | Sensitivity | Specificity | LR+ | LR- |
---|---|---|---|---|
FABER Test(F) | 82 | 25 | 1.1 | 0.72 |
RSLR Test(R) | 59 | 32 | 0.87 | 1.28 |
Scour Test(S) | 50 | 29 | 0.70 | 1.72 |
IROP Test(I) | 91 | 18 | 1.1 | 0.5 |
F + R | 96 | 11 | 1.1 | 3.6 |
F + R + S | 100 | 11 | 1.1 | 0 |
F + R + S + I | 100 | 0 | 1.0 | 0 |
単独のテストよりも組み合わせた方が感度が高いため、陰性であれば股関節内の病変は少ないと考えられます。
しかし、テストが陽性だからといって、股関節内の問題だとは言い切れないため、そこは”可能性がある”という程度にとどめておいた方が良いでしょう。
FABER Test
FABER Testは、Flexion Abduction External-Rotationの頭文字をとっていますので、股関節屈曲・外転・外旋の動きを評価します。
大腿骨頭は前方に変位してくるため、前方組織へのストレスを加える評価となります。
- 背臥位にて、一側下肢の外果を反対側の膝蓋骨直上に載せます
- 重力方向に従って、股関節を開排していきます
- 疼痛や症状が再現されれば陽性です
動きの量の左右差を比較したり、Over Pressureを加え最終域の抵抗感を評価することも必要かと考えます。
臼蓋形成不全の方では、この動きが顕著に制限されますので、参考にできない可能性があります。
RSLR Test
RSLR Testは、Resisted Straight Leg Raiseの略で、SLRをしてもらいそこに抵抗を加える評価となります。
- 検査側下肢を伸展した状態で、股関節を30度屈曲させます
- その状態を保持してもらい、大腿遠位部に下方へ抵抗を加えます
- 疼痛や症状が再現されれば陽性です
股関節に圧縮力を加え、疼痛を誘発するテストになります。
筋収縮を伴うテストになりますので、力発揮が上手であったり、代償によって症状が誘発されず陽性とならない可能性もあります。
Scour Test
検査者が、股関節へ直接圧縮力を加えるテストになります。
- 股関節を90度屈曲させます
- 大腿骨軸上に沿って荷重を加えます
- 股関節を外転+外旋方向に動かします
- さらに股関節を内転+内旋方向に動かします
- 疼痛や症状が再現されれば陽性です
動かした時のキャッチングの有無や、動きの抵抗量も評価すると良いでしょう。
このテストが陽性である場合、股関節の関節唇や軟骨・靭帯などに問題があると考えられますが、診断精度が低いため『クリアリングテスト』として捉えると良いでしょう。
IROP Test
IROP Testは、Internal-Rotation Over Pressureの略で、股関節軸上に圧縮力を加えた上で屈曲内旋するため、関節に加わる圧縮力が大きく加わるテストになります。
- 股関節90度屈曲位に保持します
- 反対側ASISを軽く背側へ押して固定します
- 大腿骨軸上に沿って荷重を加えながら、股関節を内旋させます
- 疼痛や症状が再現されれば陽性です
通常、主訴となる症状に似た疼痛が誘発されます。
特に、鼠径部に症状を呈するものとなります。
鼠径部以外の領域で疼痛が生じた場合、股関節周囲筋や腱・滑液包に圧縮ストレスが加わった結果とも考えられるため、注意が必要です。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
股関節の前面つまり感・インピンジメント症状を呈する方は意外と多いかと思います。
腰痛・膝痛など患者においても、股関節の機能不全を有する方がが多いため、上記の4つのスクリーニング評価を行うことは有益だと考えています。
変形性股関節症に移行するまでの期間をどれだけ引き伸ばせるか、もし変形したとしても可動範囲を維持できるかというのは、インピンジメント症状・関節唇損傷などの前段階の状態が非常に重要となります。
4つのスペシャルテスト以外には、Squat Test(しゃがみ動作)や姿勢・歩行など多角的な評価を組み合わせると良いでしょう!
股関節唇損傷の原因や病態メカニズムに関しては、こちらの記事をご参照ください!
FAIの病態・症状に関しては、こちらの記事をご参照ください!
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参考文献
- Physical Examination Tests For The Diagnosis Of Femoroacetabular Impingement. A Systematic Review:Aitana Pacheco-Carrillo,Ivan Medina-Porqueres, Physical Therapy in Sport 21 · January 2016
- The Diagnostic Validity of Hip Provocation Maneuvers to Detect Intra-Articular Hip Pathology:Erin Maslowski, William J Sullivan, Jeri Forster, PM&R 2(3):174-81 · March 2010
- Diagnostics of Femoroacetabular Impingement and Labral Pathology of the Hip: A Systematic Review of the Accuracy and Validity of Physical Tests:Marsha Tijssen, P.T., M.Sc., Robert van Cingel, P.T., Ph.D., Linn Willemsen, P.T., and Enrico de Visser, M.D., Ph.D., Arthroscopy: The Journal of Arthroscopic and Related Surgery, Vol 28, No 6 (June), 2012: pp 860-871
- Orthopedic Physical Examination Tests: Pearson New International Edition: An Evidence-Based Approach: Chad E. CooK, Eric Hegedus, 2013
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