Scapula Dyskinesia:肩関節・頸部と姿勢の関連

病態

スポンサードサーチ

Scapula Dyskinesia – 肩関節・頸部・姿勢との関連 –

『肩甲骨の運動異常=Scapula Dyskinesia(スキャプラ ジスキネジア)』とはなにか?を論文を元にご紹介します。

今回が第2弾となりますが、特に肩関節や頸部、および姿勢と、どのように関連しているのかという点に着目していきます。

前回の記事の第1弾では、肩甲骨の解剖学や運動学・機能をご紹介していますので、まだ読まれていない方は先に目を通してもらえると今回の内容が入りやすいと思います。

基礎的な知識が入っている方は、この記事をそのまま読み進めていただいて大丈夫です。
こちらが参考文献になりますので、ぜひご興味ある方はこちらの記事をご覧ください!

Scapula dyskinesia, the forgotten culprit of shoulder pain and how to rehabilitate:Andreas Christos Panagiotopoulos, Ian Martyn Crowther, SICOT-J, 2019

Scapula Dyskinesisの病理

まず、Scapula dyskinesisの疫学をご紹介します。
肩関節は、上肢機能や日常生活活動において重要な役割を果たしています。

肩関節病理は非常に一般的であり、生涯有病リスクは40-60%になります。
特に、オーバーヘッドスポーツで腕を使うアスリート(バレーボール・ハンドボール・水泳・野球)は、肩関節構造体の一つを負傷する高いリスクがあります。

もう一つのリスクの高いグループとしては、デスクワークなどでPCを使用する方です。
症状の有無にかかわらず、Scapular dyskinesisが検出されることがあります。
また、それは肩関節不安定性やSISに密接に関連している可能性があります。

スポンサードサーチ

肩甲骨の病理

肩甲骨の運動異常の原因は、3つのグループに分けることができます。

  • 肩関節との関連
  • 頸部との関連
  • 姿勢との関連

以下で、順番に解説をしていきます。

肩関節との関連

肩関連-肩の症状は、訴えの中で最も一般的な原因にあたります。
ほとんどの肩の病理には、ある程度の運動異常が伴います。

肩甲骨運動異常に関連する一般的な病理

  1. 肩鎖関節の不安定性
  2. 肩峰下impingement
  3. 腱板損傷
  4. 関節唇損傷
  5. 鎖骨骨折
  6. 神経関連

これら全ての病状に共通する特徴は、肩甲上腕リズムの異常があるということです。

肩峰下impingementは、肩甲骨前突(安静肢位)・後傾(外転時)・内旋(平面挙上時)の増加に関連します。
さらに、肩甲骨面上の挙上の時、肩甲骨上方回旋の運動量が少なくなる傾向にあります。

肩関節不安定性においては、異なったパフォーマンスパターンであり、上肢を挙上すると回旋は減少しますが、肩甲骨面上で挙上すると内旋が増加します。
凍結肩においては、肩甲骨は通常と比較して早期に大きく外側に回旋します。
しかし、肩甲骨の可動性の増加が代償メカニズムであることを研究は示していません。

バイオメカニクスのセクションで前述したように、肩甲上腕リズムは筋活動の不適切なパターン(早すぎるor遅すぎる)あるいは、不適切な筋収縮力(強すぎるor弱すぎる)のいずれかによって乱される可能性があります。

様々な方向に作用する多くの筋活動は肩甲骨に影響を与え、筋活動のタイミングや力がその動きを決定することが考えられます。

筋パフォーマンスと肩甲上腕リズム

疲労は、筋パフォーマンスの決定に重要です。

McQuadeらは、疲労が増加するにつれて肩甲上腕リズムの効率が低下することを示しました。
研究者らは、 1)実際の日常生活における動きの筋疲労、2)どの筋が疲労を受けやすいのか、3)筋シナジーが疲労した場合にどの筋が優位になるかを観察しました。

広背筋の硬さなど他の筋が関与する問題は、肩甲骨の回旋に影響を及ぼし、肩甲骨を上方に引っ張ることが報告されています。
僧帽筋と前鋸筋は、肩峰下impingementと肩関節不安定性の両方において、肩甲骨運動異常の発生にリンクされています。

インピンジメントにおいては、僧帽筋上部と下部が前鋸筋とともに筋活動パターンを変化させ、前鋸筋と比較して僧帽筋がより強い活動を示しました。
これらをまとめると、肩関節を囲む軟部組織は、肩甲骨の運動異常の発生にリンクされます。

また、大胸筋・小胸筋と肩甲上腕関節包は、重要な要因として特定されます。
特に、胸筋群の緊張は、肩甲帯の前方変位を促進するとともに、上腕骨頭も前方に変位させます。

さらに、前方組織の硬さが生じると上腕骨頭は前方に変位しますが、それに抵抗して後方も硬さが増すことが考えられます。
そのため、肩甲上腕関節包の後方の硬さは、安静時の肩甲骨の位置を変化させ、通常の人に比べて前方で肩のインピンジメントに類似したパターンを示します。

頸部との関連

肩に影響を与える可能性のある頸部病変には2つのサブタイプがあります。

頸部の病変

  1. 機械的頸部痛症候群
  2. 頸神経根関連症候群

機械的頸部痛症候群は、頸部の関節(変性変化)と筋(疲労orインバランス)に影響を与える病状のグループとして定義付けられます。

症状がどのように肩に関連付けられるかはまだ確立されていませんが、そのような構造がその領域に近接していることは理解できます。
そのほか、身体の姿勢が筋力に影響すると仮定されています。
実際、西洋スタイルの生活やコンピューターの多用のため、患者は ”slouched(ズルズルとした丸まった)”姿勢をとります。
その結果、頚椎および上位胸椎は自然な彎曲が失われることになります。

逆に、頸部の神経病理(神経根圧迫または神経根由来の放散痛)と肩関連の主訴の関連は、十分に確立されています。
肩への感覚と運動を支配する全ての神経は腕神経叢から生じており、特にC5・C6神経根と副神経から生じます。
これらの神経が、肩甲骨周りの1つあるいは複数の神経を不適切に活性化し、その結果として主骨格(体幹)あるいは上肢に関連する肩甲骨の運動リズムを乱すと症状が生じると考えられます。
そのため、筋活動パターンは、臨床的評価やリハビリテーションの重要な部分となります。

姿勢との関連

過度な胸椎後弯や頚椎前弯は、肩甲骨の安静肢位を変化させます。

アスリートにおいては、これらの変化の影響を受けやすい傾向にあります。
スポーツに応じて、脊柱彎曲や軟部組織の緊張を変える体幹部の筋インバランスを発生させることが考えられます。

まとめ

このScapula Dyskinesiaという病態は、現代ではほとんどの方に当てはまる可能性が高い病態と考えられます。

それは、PC作業などのデスクワークをされている方が多く、またスマートフォンの操作によっても同様のことが当てはまると考えられるからです。

つまり、この記事を見ている方々も、肩甲骨の運動異常の可能性を有していることになります。

個人的には、肩甲骨は胸椎や肋骨との関連が大きいと考えているため、その上での肩関節や頸部との関連を考えています。

また、姿勢との関連においては、バイオメカニクス的に考えて様々な要因が影響していますが、心理社会的要素も影響していることがありますので、安易に言及するべきではないと考えています。

第3弾としては、Scapula Dyskinesiaを評価するための方法と治療の手順をご紹介していきますので、ぜひご参照ください!

スポンサードサーチ

参考文献

Scapula dyskinesia, the forgotten culprit of shoulder pain and how to rehabilitate:Andreas Christos Panagiotopoulos, Ian Martyn Crowther, SICOT-J, 2019

コメント

  1. […] こちらの記事でそれぞれ、”①肩甲骨の解剖学と運動学・機能”の内容と、”②肩関節・頸部・姿勢と肩甲骨の関連”をご紹介していますので併せてご参照ください! […]

  2. […] こちらの記事でそれぞれ、”①肩甲骨の解剖学と運動学・機能”・”②肩関節・頸部・姿勢と肩甲骨の関連”・”③Scapula Dyskinesiaの評価方法”をご紹介していますので併せてご参照ください! […]