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口呼吸と鼻呼吸
慢性口呼吸(Chronic Mouth Breathing:CMB)は、鼻呼吸のみから口呼吸または鼻と口の混合呼吸への移行を特徴とします。
この慢性口呼吸の状態は、機能的、構造的、姿勢的、生体力学的、咬合的、行動学的に全身に影響を与えています。
口呼吸は、鼻の求心神経、自律神経、交感-三叉神経を抑制し、これらはすべて呼吸の深さと気道の開通性を調節するように作用します。
- 鼻の求心性神経
- 自律神経
- 交感-三叉神経
口呼吸はこの3つを抑制する
鼻の閉塞は、肺抵抗の増加と肺コンプライアンスの低下をもたらします。これによって、胸郭の拡張に影響を与え、肺胞換気が不十分となります。
口腔内の空気の流れを良くするためには、頭部を前に突き出して上位頚椎の過伸展を引き起こします。これにより咽頭を通過する空気量が増加し、気道抵抗が減少します。
口呼吸の方の身体姿勢を評価するための様々な研究が行われているそうですが、そのコンセンサスとしては、”口呼吸と頭部前方位姿勢の間には深い関係がある”そうです。
この頭部前方位姿勢は、頸部周囲の筋緊張の不均衡を引き起こし、横隔膜の機能不全を引き起こします。また、胸鎖乳突筋の活動が増加するため、上位胸郭を引き上げるような呼吸となり(ポンプハンドルモーションが優位となる)、胸腹部の可動性を低下させ、さらに横隔膜の換気効率を低下させます。
呼吸筋の機能不全による結果、呼吸補助筋の活動が増加してしまい、努力性の呼吸・筋活動量が増加してしまいます。
横隔膜や肋間筋・腹筋群など呼吸筋の機能低下によって、常に不活性となるため筋力低下が生じてしまいます。
これにより、胸郭拡張が低下し、身体活動時の肺換気機能が低下した結果、運動能力に影響を与える可能性があるという見解です。
今回ご紹介している論文内の目的は、口呼吸の子供と鼻呼吸の子供を比較し、頭部前方位姿勢と呼吸に関連した運動耐用能と呼吸能力を評価することにあります。
男の子の方が口呼吸が多い
研究では92名の小学生の年代の子供が対象となり、姿勢の評価と、MIP(Maximal Inspiratory Pressure:最大吸気圧)、MEP(Maximal Expiratory Pressure:最大呼気圧)、6MWT(6 minutes Walk Test:6分間歩行テスト)の呼吸機能評価により、口呼吸と鼻呼吸のグループ間で比較されました。
口呼吸(MB群:Mouth-Breathing)が30人(32.6%)、鼻呼吸(NB群:Nasal-Breathing)が62人(67.4%)でした。
このうち、MB群では男性23人(76.7%)・女性7人(23.3%)であったのに対し、NB群では男性23人(37.1%)・女性39人(62.9%)という結果でした(p<0.001)。
口呼吸 | 鼻呼吸 | ||
---|---|---|---|
30人(32.6%) | 62人(67.4%) | ||
男性23人(76.7%) | 女性7人(23.3%) | 男性23人(37.1%) | 女性39人(62.9%) |
この研究からは、男の子の方が口呼吸が多いということが示されており、これは他の研究者によっても同様の結果が得られています。
これには、男の子は気道内径が小さく、CMBの主な原因であるアレルギー性鼻炎や閉塞性睡眠時無呼吸症候群の有病率が高いことが起因となっている可能性が高いです。
アレルギー性鼻炎の有病率は9.2%で、男の子は10.8%、女の子は7.6%です。やはり女の子に比べて男の子は約1.4倍の割合で多いことがわかります。
睡眠時無呼吸症候群は男:女=2〜3:1という割合で、こちらも男の子の方が多い割合ですね。
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呼吸機能と頭部前方位姿勢
頭部前方位姿勢は、MB群では29人(96.7%)の子供で認められ、そのうち12人(40.0%)で重度、17人(56.7%)で中等度でした。NB群では、中等度の頭部前方位姿勢が30人(48.4%)に認められ、重度の頭部前方位姿勢は検出されませんでした(p<0.001)。
口呼吸 | 鼻呼吸 | ||
---|---|---|---|
29人(96.7%) | 30人(48.4%) | ||
中等度 17人(56.7%) |
重度 12人(40.0%) |
中等度 30人(48.4%) |
重度 0人(0%) |
頭部の前方への姿勢変化は、下位頸椎の屈曲と上位頸椎の過伸展による頸椎前弯の減少を伴うもので、口呼吸者が気流抵抗を減少させるために選択した代償姿勢だと考えられます。
頭部前方位姿勢の代償の中において、特に上位頸椎(環椎後頭関節)の過伸展の増加が主な所見であることを発見しました。また、喘息のある56人の口呼吸児でも、喘息のない正常呼吸児に比べて上位頸椎の過伸展が大きいという結果が得られています。
頭部前方位姿勢は、胸鎖乳突筋の活動を増加させるため、上位胸郭が挙上してしまい、胸腹部の可動性や横隔膜の機能低下を引き起こします。この結果、肺での換気効率が低下します。
これを代償するために、努力性の吸気となり、頸部周囲の筋緊張が高まり、さらなる頭部前方位姿勢・呼吸仕事量の増加を引き起こすような悪循環が生まれます。
これが長期化し呼吸パターンが変化していくと、本来使われるべき呼吸筋が機能低下を引き起こしてしまい、本来あるべき呼吸パターンに戻れない可能性があります。
頭部前方位姿勢
↓
下位頚椎屈曲+上位頚椎過伸展
↓
胸鎖乳突筋の活動増加
↓
上位胸郭が挙上
↓
胸腹部の可動性低下・横隔膜の機能不全
↓
肺胞内の換気効率低下
↓
努力性の吸気
↓
呼吸補助筋の筋緊張増加
↓
呼吸筋の機能低下
↓
呼吸パターンの変化
さらに、口呼吸の状態では呼吸筋力が低下してしまいます。
口呼吸群の場合、胸囲が低い値を示すと考えられます。それは、呼吸筋力の低下に伴い、胸郭の拡張性が低下することで生じてしまうということです。
呼吸能力の差
MIP・MEP・6MWD(6分間の歩行距離)の平均値をMB群とNB群で比較したところ、いずれの値もMB群の方が低い結果となっています。
MIP・MEP・6MWD | ||
---|---|---|
口呼吸 | 鼻呼吸 | |
20.0±7.1 cmH₂O | MIP | 62.5±21.9 cmH₂O |
25.3±11.7 cmH₂O | MEP | 58.8±22.3 cmH₂O |
568.1±47.4 m | 6MWD | 629.8±47.6 m |
MIPでは口呼吸が20.0±7.1 cmH₂O、鼻呼吸が62.5±21.9 cmH₂Oと、鼻呼吸の方が約3倍の吸気能力となっています。MEPでは口呼吸25.3±11.7 cmH₂O、鼻呼吸58.8±22.3 cmH₂Oと鼻呼吸が約2倍以上の呼気能力です。6分間の歩行距離では、口呼吸568.1±47.4 m、鼻呼吸629.8±47.6 mと、約60mほどの差が生じている結果です。
鼻呼吸の方が呼吸機能・運動耐用能が高いということは歴然としています。
口呼吸と鼻呼吸の間では、歩行でさえ差が開いているため、よりハードな運動では差が拡大することが考えられます。日常的に行なっている呼吸から変えることで、運動時のパフォーマンスに変化を及ぼせると考えると、鼻呼吸をしない手はないですね!
また、CMB患者では筋系以外にも、呼吸循環器系にも変化が見られ、このような変化は運動に対する生理学的反応に影響を与える可能性があります。
口呼吸では気管支樹の広範な障害が生じ、鼻の抵抗力の低下が胸腔内圧を変化させ肺容積を減少させているという見解もあります。
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頭部前方位姿勢と呼吸能力の差
以下の表が、口呼吸における頭部前方位姿勢の重症度と呼吸・運動能力の関係を示しています。
口呼吸 | |||
---|---|---|---|
重度 | 中等度 | 正常 | |
MIP | 17.5±4.5 cmH₂O | 21.8±8.3 cmH₂O | 20.0 cmH₂O |
MEP | 25.0±10.4 cmH₂O | 25.6±13.2 cmH₂O | 25.0 cmH₂O |
6MWD | 547.9±48.5 m | 578.2±41.7 m | 638.4 m |
以下の表が、鼻呼吸における頭部前方位姿勢の重症度と呼吸・運動能力の関係を示しています。
鼻呼吸 | |||
---|---|---|---|
重度 | 中等度 | 正常 | |
MIP | - | 70.8±19.1 cmH₂O | 54.7±21.7 cmH₂O |
MEP | - | 67.7±22.1 cmH₂O | 50.5±19.5 cmH₂O |
6MWD | - | 619.0±48.3 m | 639.8±45.3 m |
MB群ではMIP・MEPと頭部前方位姿勢との関連は認められませんでした。対照的にNB群では、より重度の頭部前方位姿勢がMIP・MEPの値を高くすることが結果から得られています。
このことは、鼻呼吸では頭部前方位姿勢を呼吸代償メカニズムとして利用しているため、正常な頭部姿勢を保持している子どもよりも高いMIPとMEP値を得ていることが示唆されます。
対照的に、口呼吸の子どもは重度の頭部前方位姿勢の場合、既に代償によって呼吸を賄っているため、呼吸代償メカニズムを利用できないと考えられます。
まとめ
頸椎のアライメント変化は、口呼吸によって引き起こされる変化の一つであり、口呼吸の場合は呼吸筋力と運動能力への影響は少ないことが示唆されています。
また、口呼吸・鼻呼吸に関係なく、適度な頭部前方位姿勢は、呼吸筋機能を改善するための代償メカニズムとして作用する可能性があるということです。
頭部前方位姿勢が呼吸バイオメカニクスや運動能力に影響を与えるというエビデンスはありませんが、頸椎のアライメント変化の有無にかかわらず、口呼吸は筋骨格系や呼吸循環器系の機能を損ないます。
そのため、病理学的な代償機構を予防するためには、全身を考慮したグローバルな介入が不可欠であると考えられます。
つまり、口呼吸により呼吸バイオメカニクスと運動能力に悪影響を与えた結果、呼吸筋機能を向上するための代償メカニズムとして、適度な頭部前方位姿勢が作用しているということです。
”頭部前方位姿勢が悪いから胸郭や頭頸部へのアプローチをする”というのも悪くはないのですが、臨床においては”姿勢がなぜ悪くなっているのか?”という本質を見失わないようにしないといけませんね!
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