”可動性(mobility)”と”安定性(stability)”の相互関係・考え方

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可動性と安定性

今回の記事では、身体の”可動性の制限がある場合”や”安定性の低下がある場合”、どのようなことが考えられるのかをまとめていきます!

可動性は、関節の動きや筋の柔軟性・伸張性、可動のコントロールを含みます。安定性は、関節の圧縮や牽引・剪断の動きに対して抵抗するためのプログラムになります。

評価上1つ大きな問題が見つかったとすると、背景ではその問題を引き起こしている要因があると考えられますが、それを考えずにアプローチしてしまうと思うように改善していかない可能性があります。

つまり、『どこか一箇所の可動性の制限を見つけ、その可動性を改善するだけで本当に良いのか?』ということです。

これについて少し考えていきたいと思います。

可動性の制限が引き起こす問題

可動性の制限された部位があると、他部位において安定性を低下させて可動させようとします。そのため、安定性に問題があるようにみえることがあります。

例えば、前屈です。
股関節屈曲の可動性の制限がある場合、近接する腰部の安定性を低下させ、腰部を屈曲させることで動作を遂行します。(このような例で腰痛を引き起こしてしまう方は多いと思います。)

立位での前屈
この場合、腰部の過剰屈曲を改善するよりも、股関節屈曲の可動性を改善することが優先となることはお分りいただけるかと思います。

さらに考えると、股関節屈曲の可動性制限が、関節の動き(いわゆる”関節の遊び(Joint play)”)なのか、あるいは筋・筋膜・関節包など軟部組織の問題であるのかを分ける必要もあります。

さらに、Joint playに問題がなければ、軟部組織の問題です。
筋・筋膜の可動性制限なのか、関節包の可動性制限による関節の”滑り”・”転がり”の問題なのかを分けて考えることで、問題点がより明確になると考えられます。

この股関節の例でいうと、寛骨臼に対する大腿骨頭のJoint playに問題がない場合、ハムストリングや殿筋群など後面Chainの影響や、股関節後方関節包の可動性制限による大腿骨頭の前方変位の影響を分けて考えていくことが、介入における重要なポイントだと考えています。

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安定性の低下が引き起こす問題

安定性の低下した部位があると、他部位において過剰に緊張させることで代償します。この場合、過剰に緊張させているので、可動性に問題があるようにみえることがあります。

例えば、後屈です。
腰椎の不安定性がある場合、後屈において腰椎が過伸展する傾向にあります。これを補完しようとして、大腿直筋・腹直筋の前面Chainを過剰に緊張させます。大腿直筋が過剰に緊張すれば、股関節伸展の可動性が制限されるため、この部位に問題があるように見えます。

立位での後屈
このような場合、大腿直筋のマッサージ・ストレッチをするよりも、腰部の安定性を向上させるようにアプローチしていくことの方が優先となります。

しかし、これは可動性の問題が他にない場合に考えられます。
股関節伸展の可動性が制限されていなかったとしても、股関節回旋の可動性制限・左右差が存在していた場合には、それに関与する組織からの求心性フィードバックが乏しくなるため、それによっても過剰な緊張を生み出している可能性があります。

そのため、安定性の問題を改善しようとする前に、可動性の問題が本当にないのかチェックする必要性があります。
可動性の問題が残っているにも関わらず、安定性を改善するアプローチを実施しても、想定していた反応が得られない可能性があります。

まとめ

可動性と安定性は相互に関係しておりますが、どちらが先に問題が生じていたのかと突き止めようとすると、『鶏が先か、卵が先か』というジレンマに陥ります。

そのため、1つの視点で物事を考えるのではなく、多角的に色々な可能性を残しつつ考えていく必要性があるのではないでしょうか。

問題点は必ずしも1つではない可能性がありますので、試しては反応を見ていくことを繰り返し行い、その上で問題点を探っていく必要があるでしょう。

また、可動性・安定性を改善させようとして、1つの筋力や特定の関節の可動性を分離して向上させても、運動能力を発揮することはできないと考えています。
それは、動作としてプログラムされていく必要性があるためです。これに関しては、また後日まとめていきたいと思います。

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