肩甲帯の安定性を高めるための筋機能を考察する

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肩甲帯の安定性を高める筋機能の考察・まとめ記事のトップ画像 解剖学&運動学

まず、肩甲骨と肩甲帯の違いから解説します。

肩甲帯は、肩甲骨と肩甲骨周囲の骨・関節・筋肉を総称したものとして扱われています。

肩甲帯には、肩甲骨と鎖骨・上腕骨、肋骨、胸椎といったように上肢・胸郭との関係、およびそれらに関与する筋肉が含まれます。

上記を前提として、今回の記事では肩甲帯の静的・動的安定性を高めるための筋機能について私自身の見解をまとめていきます。

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肩甲帯の安定に必要な筋群

肩甲帯を安定させるための筋としては、以下の6つの筋肉の機能が大切だと考えています。

・上腕三頭筋
・前鋸筋
・菱形筋
・僧帽筋下部
・棘下筋
・肩甲下筋

上記の筋肉は、肩甲骨から上腕骨、肋骨、胸椎に付着する3つの筋群に大きく分類できます。

このことを踏まえると、肩甲骨の状態だけではなく、上腕骨や肋骨・胸椎の状態も考慮して身体評価や介入を行わなくてはいけません。

今回の記事では解説を省きますが、こちらの記事を参考にされると胸郭・肩甲帯の関係性について理解できるかと思います。

では、なぜこれら6つの筋肉を選択しているのか、全体のイメージから解説していきます。

肩甲帯の動的安定性

臨床現場で問題と感じる事が多いのは、肩甲骨の挙上・外転・前傾・内旋のアライメントや代償動作になるかと思います。

いわゆる、翼状肩甲骨やシュラッグと言われるものです。

上方回旋や下方回旋に関しては、どちらも過剰になれば問題となりうるのですが、それよりも上記4つの運動方向の考慮が大切なように感じます。

その理由としては、上方・下方回旋に作用する筋肉は挙上下制・内外転・前後傾・内外旋の動きにも作用するため、それらを考慮した介入の結果に付随してくると考えています。
また、上方回旋・下方回旋の動きは上腕骨との連動が必要になるので、まずは肩甲胸郭関節としての機能改善を図った方が良いと考えているのも理由の一つです。肩甲上腕関節の運動・リズムを改善するためには土台を整える必要があります。

肩関節外転をする男性

肩甲帯の動的安定性を高めるためには、肩甲骨の下制・内転・後傾・外旋を促す必要があります。
それらに作用する筋肉が前項でまとめた6つの筋肉になるということです。

6つの筋肉を 『どの肢位で』・『どんな位置関係で』・『どの程度の負荷』で運動するのか、また徒手的介入をするのかを考慮しながら展開する必要がありますね。

では、下記の各項目において、肩甲骨の動きに基づいて「なぜその筋肉を選んでいるのか」それぞれ解説していきます。

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上腕三頭筋

上腕三頭筋の作用は肘関節伸展というイメージが強いと思います。
また、肩関節伸展・内転や上腕骨頭を関節窩に引き付ける(骨頭求心位の保持)の作用も一般的かと思います。

しかし、今回の記事テーマは肩甲帯の安定性です。
「なぜ上腕三頭筋が一番最初に来ているの⁉︎」と感じることでしょう。

上腕三頭筋のイラスト

私が考える上腕三頭筋の作用は、肩甲帯を介して上部体幹を引き上げる「脊柱・胸郭の軸伸展」や肩甲骨の後傾・外旋のアライメント維持・動的安定性の補助になります。

この作用は一般的な解剖学参考書には特に記載されていませんが、筋肉の付着部・起始停止を踏まえると考えざるを得ないでしょう。(臨床家としては、いかに教科書的内容を臨床に反映させて考えるかが大切だと考えています)

あくまでも補助的な役割ということです。
肩甲帯安定化筋のメインは前鋸筋や菱形筋・僧帽筋下部であり、肩甲帯安定化に最低限必要となる肩甲骨の支点を作り出す筋肉というイメージですね。

上腕三頭筋の作用のまとめ
・肘関節伸展

・肩関節伸展・内転
・上腕骨頭の求心位保持
・胸郭の軸伸展(上部体幹の引き上げ)
・肩甲骨の後傾・外旋

もう少し作用について解説していきます。

上腕三頭筋の近位付着部は肩甲骨関節下結節です。

近位付着部が安定・固定されていれば遠位側が動き、遠位付着部が安定・固定されていれば近位側が動くという考えを応用すると、
上腕三頭筋の作用により肩甲骨関節下結節が安定・固定されていると、肩甲骨内側縁が動きやすい状態を作り出す事ができるということです。

上腕三頭筋が適切に作用することで、前鋸筋・菱形筋・僧帽筋下部が働きやすい環境を作り出すことが期待できます。

そして、前鋸筋・菱形筋・僧帽筋下部が適切に作用することで肩甲骨が安定するため、上腕三頭筋のメインである肘関節伸展機能の向上も期待できるという相関関係にあります。

近位・遠位付着部として筋肉を考える視点については下記の記事で解説しているのでご参照ください。

ここまでなんとなくイメージできそうですか?
一言でまとめると「肩甲帯動的安定性の一歩目は上腕三頭筋から!」という感じですね。

前鋸筋

前鋸筋の主な機能は、肩甲胸郭関節における肩甲骨の前方突出(プロトラクション)・外転・上方回旋・外旋・下制です。

一般的には「翼状肩甲=前鋸筋の機能不全」と考えられていることでしょう。
もちろん大きな影響因子であることに間違いないのですが、前項の上腕三頭筋を考慮すると「そうでもないのでは…?」と感じることと思います。

前鋸筋

上記の動作は、胸郭が固定された状態における肩甲骨の動きになります。
先ほどの付着部の関係性の話を踏まえると、『肩甲骨が固定された状態における胸郭の動き』も機能としてはあるでしょう。

つまり、胸郭を後ろへ引く動き(後退・リトラクション)の機能です。

その他には、安静時・動作時において、肩甲骨を胸郭に押し付け肩甲骨を安定させる機能を有します。また、僧帽筋と連動して肩甲骨上方回旋を維持し、上肢の挙上動作を可能にしています。この時、解剖学的連結を有する肩甲挙筋・菱形筋とも協調して機能し、肩甲骨の上方回旋・下方回旋の動作を制御していることが考えられます。

・肩甲骨プロトラクション・外転・上方回旋・外旋・下制
・胸郭のリトラクション
・肩甲骨の安定化機能

前鋸筋の活動を促すエクササイズの多くは、上肢リーチ系・前方プッシュの動作に該当すると思います。

この際、肘関節伸展・屈曲の両者においても上腕三頭筋の同時活性化が必要になってくると考えられます。

背臥位でのリーチ動作、四つ這いでの支持運動など全般で上腕三頭筋+前鋸筋という構図になってくるということです。

背臥位での肩甲帯プロトラクション動作が出来ない場合、四つ這いで胸郭をリトラクションさせることが良いかもしれません。四つ這いでシュラッグ代償が強く生じてしまう場合は、背臥位の方が良いかもしれません。対象となる方の代償を見極め、どの肢位であれば反応が良いか探る必要があります。(手部や前腕の機能も影響する可能性があります)

“前鋸筋エクササイズ”というものはなく上腕三頭筋がセットになってきます。事前に上腕三頭筋を活性化させておくと反応が良くなるかもしれません。
もっといえば菱形筋・僧帽筋下部・腹筋群、その他に影響する筋肉もあると言えますね。

こちらの記事では前鋸筋の機能解剖や作用について詳しく掲載しているので、ご興味があればご参照ください。

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菱形筋・僧帽筋下部

菱形筋・僧帽筋下部の主な機能は、肩甲骨の内転・後傾・外旋・後退(リトラクション)の動きになります。

両者の違いは、菱形筋は肩甲骨挙上・下方回旋なのに対し、僧帽筋下部は肩甲骨下制・上方回旋の作用です。

菱形筋

その他には、安静時・動作時に肩甲骨を胸郭に押し付け肩甲骨を安定させる機能を有します。特に上肢挙上からの下降動作時に、胸郭(肋骨)に対して肩甲骨を圧縮させ安定させる機能を有しています。これは菱形筋と前鋸筋のフォースカップルが影響するでしょう。

僧帽筋

僧帽筋下部は、前鋸筋と連動して肩甲骨上方回旋を維持し、頭上への動作を可能にしています。特に、上肢挙上30〜120度における肩甲骨上方回旋は、前鋸筋とのフォースカップルによって達成されます。挙上120度以降は肩甲骨後傾・外旋に作用して、僧帽筋上部・肩甲挙筋の肩甲骨挙上作用に拮抗しながら(肩甲骨下制の作用)活動しています。

どちらの機能不全の影響が大きいのかを鑑別するには、上記の視点で肩甲帯のアライメント・動作を評価し、菱形筋と僧帽筋下部の作用の違いを考慮する必要があるでしょう。

肩甲骨の模型

肩甲骨の動作は、『胸郭が固定された状態における肩甲骨の動き』になりますので、『肩甲骨が固定された状態における胸郭の動き』も機能としては存在すると考えます。

つまり、胸椎棘突起を同側へ側方移動させて、胸椎を反対側へ回旋させる機能です。

例えば、上肢を前方にリーチさせて壁に手をついた状態にして、胸部を反対側へ回旋させると、肩甲骨-胸椎間で筋の収縮を感じられるかもしれません。(感じられない方は、菱形筋・僧帽筋下部の機能不全もあるのでは…?)
この動きはOKCに限らずCKCの状態でも行うことは可能ですので、あらゆる場面で行われていることだと考えています。
また、診るポイントを変えれば、肩甲帯リトラクションと同じ動きですよね。

・肩甲骨内転・後傾・外旋・リトラクション
・胸椎棘突起の同側側方移動
・胸椎の反対側回旋
・肩甲骨の安定化機能

菱形筋や僧帽筋下部の活動を促すエクササイズの多くは、上肢プル系の動作に該当すると思います。

プル動作を行うためには、胸郭の伸展・回旋を同時に促す必要が出てきます。適切な肩甲帯リトラクションを促すためには、肩甲帯が肋骨上を滑らかに動く必要があるため、肋骨の回旋(内旋・外旋or前方回旋・後方回旋)アライメント・可動性が重要となります。また、胸椎との相互関係もあるため、胸郭全体の機能を確認する必要が出てきます。

そうなってくると腹筋群や脊椎傍筋の影響も考えなくてはいけなくなり、かなり大変な思考状況になりますが、ここでは一旦置いときましょう(いいのかな…?)

前鋸筋とのフォースカップルを記載しましたが、主に焦点を当てるのはそこになります。何度もいうように筋単体のエクササイズはないので、いかに他の筋と連動して使うのかが重要となります。

上肢リーチ・前方プッシュ動作を行った上で、①そのまま上肢を挙上したり、②後方へプル動作したり、③胸郭を回旋させることで相対的に肩甲帯リトラクション位にしたり、創意工夫でバリエーションが増えていきます。

このように、『肩甲帯の動的安定性=上腕三頭筋+前鋸筋+菱形筋・僧帽筋下部』というイメージを持ちながらエクササイズ処方に臨むと良いなと感じます。

こちらの記事では僧帽筋下部の機能解剖や作用についてまとめてあるので、ご興味があればご参照ください。

棘下筋・肩甲下筋

最後に棘下筋と肩甲下筋です。

既に内容のボリューム多くなってしまったので、、、最後はサラッとまとめていきます!

棘下筋の作用は肩甲上腕関節における上腕骨外旋、肩甲下筋の作用は上腕骨内旋となります。

腱板構成筋のイラスト

同じ思考過程になっていれば、既に何が言いたいかお分かりいただけるかもしれません。
そうです、上腕骨が安定・固定されている場合の話です。

上腕骨が安定・固定されている時、肩甲骨前傾・後傾、内旋・外旋の位置によって活性化する筋肉と考えられます。これまでまとめた筋肉とは違い主動筋になるということではなく、あくまでの補助的に作用する程度です。

例えば、肩関節外転90度(2nd肢位)で肩甲骨が後傾すれば、相対的に上腕骨内旋になりますよね。

臨床現場で問題と感じる事が多いのは「肩甲骨の挙上・外転・前傾・内旋のアライメントや代償動作」とお伝えしました。
これまでは肩甲帯の機能不全が生じた上で肩甲上腕関節を動かしている状況であったため、肩甲帯の機能改善をした上で上腕骨をどのように動かすのか学習する必要がでてきます。それが出来ない場合、機能不全のループから抜け出せない場合があります。(特に肩関節疾患)

これまで「肩甲骨前傾位=相対的に上腕骨外旋位」であった状況では棘下筋は短縮位にあるため、「肩甲骨後傾位を保持した上で上腕骨外旋」の運動学習をする必要が出てきます。肩甲下筋も同様に考えられますね。

今回は2nd肢位で考えていますが、他の肢位でも考え方は同じです。普段行っているカフエクササイズも、肩甲骨のアライメント、胸郭のアライメント、それら動的安定性が備わっていますか?本当に適切な状況下でカフを使えていますか?カフエクササイズを適当にやっていませんか?

どんな肢位で、どんな負荷を使って、肩甲帯・胸郭のアライメントや動作なども考慮して行うことがとても大切になります。

全員に行うのはとても大変な事です。
臨床で困っている時の現状打破に、この思考過程を応用するのが良いかもしれません。

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