変形性膝関節症や靭帯・半月板・骨切りなどの膝関節術後疾患に対して、大腿四頭筋の機能を高めることはとても大切です。
大腿四頭筋は膝関節を伸展させる筋肉ですが、伸展位からの屈曲動作(しゃがみ動作や段差昇降など)では伸張性収縮を求められます。日常生活においては、後者の機能が果たせずに生活の質が落ちてしまうケースは少なくありません。
この機能の果たすためには、大腿四頭筋の中でも広筋群、特に内側広筋の活動が重要です。
内側広筋に力が入らないと、動作中に膝が抜けるように「カクっ」と曲がってしまう、あるいは膝を伸ばした状態から僅かに曲げて体重を支えることが難しくなります。
また、内側広筋は廃用性筋萎縮が生じやすく、筋萎縮や筋力が回復しにくい筋肉で有名です。
今回は内側広筋の筋活動を促す『パテラセッティング』についてまとめていきます。
語弊を招かないために…
外側広筋が重要ではないということではありません。ただ安直に「内側広筋を鍛えましょう」と言いたいのでもありません。広筋群の筋肉量、内側広筋と外側広筋の筋活動バランス、膝蓋骨のトラッキングなど評価した上で、優先順位をつけて介入する必要があります。
これを理解していただいた上で、この記事を読み進めていただければと思います。
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パテラセッティング
パテラセッティングとは、座位の膝伸展位〜軽度屈曲位で膝を床に押し付けるようにして大腿四頭筋(広筋群)に力を入れる運動です。
人によってはクアドセッティングやセッティング・エクササイズと言うこともあるでしょう。
このエクササイズは、膝関節疾患に対して汎用性が高いです。
非荷重位での等尺性収縮のため関節内へのストレスが最小限に抑えられ、術後早期からでも広筋群の活動を促すにはとても効率が良いと考えられます。
臨床現場においても、なるべく早い段階からパテラセッティングに取り組むのと、そうでないのとでは、リハビリテーションの進捗に差が生じるでしょう。
それは広筋群の萎縮や収縮能力、収縮や活動知覚、膝関節伸展機能、膝蓋骨の滑動(上方滑り)に影響を及ぼし、荷重位での下肢運動にまで波及していきます。
内側広筋の活動低下・不使用により萎縮が生じている場合、パテラセッティングを行なっても「内側広筋に力が入らない」「筋肉に力が入る感覚がない」「膝蓋骨の滑動が生じない」このような状態に陥ります。こうなると中々改善するには根気強くやるしかないのですが、さまざまな工夫をして少しでも回復を早めることが必要となります。
今回の記事では、パテラセッティングを一工夫させて内側広筋を活性化させる5つの方法をまとめていきます。
股関節の肢位
パテラセッティングを行うときの股関節肢位は、股関節外転・外旋肢位が良いとされています。
これがなぜ内側広筋の活性化に繋がるのか、それには股関節内転筋群の影響を考えることが必要です。
以下では、その理由を解説していきます。
内側広筋(特に内側広筋斜頭線維)は大内転筋腱膜との筋連結を持ちます。
つまり、大内転筋の活動を促せば、内側広筋を活性化させることが期待できます。
パテラセッティングにおける股関節内転・外転、内旋・外旋の肢位による内側広筋の筋活動に及ぼす影響の研究では、股関節外転外旋位でのエクササイズが選択的に内側広筋を活動させることを示唆しています。この股関節肢位では、内側広筋と外側広筋の活動比率の観点からも有効で、外側広筋よりも内側広筋の活動を促すことが期待できます。
私の臨床でも股関節外転外旋位で行なってもらうようにしていますが、これに股関節内転への抵抗運動を加えることでさらに内側広筋の活動を促せるように感じます。
セラピストが徒手抵抗を加えても良いですが、壁や机・椅子の脚を押すようにして行ってもらい、そのままホームエクササイズとして取り組んでいただくのがオススメです。
実際に内側広筋の活動が低下している方に用いることで、内側広筋の収縮が入りやすくなったり、活動を知覚できるようになる場面が多々あります。ぜひ臨床現場でも取り入れてみてください。
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足関節・足部の肢位
足関節・足部の肢位では、足関節中間位〜背屈位、足部中間位〜回外位がオススメです。
パテラセッティングにおける足関節背屈位・中間位・底屈位の肢位による内側広筋の筋活動に及ぼす影響の研究では、足関節背屈位で外側広筋・前脛骨筋の活動が増加が示されています。また、他の研究では内側広筋の筋活動が増加すると示唆されています。
臨床で実践する中で足関節肢位を比較していると、中間位〜背屈位の方が良好な反応が得られると感じます。背屈位だと、下腿後面〜大腿後面が伸張されてしまい内側広筋の筋活動を感じにくくなってしまうことがあります。この場合は、中間位の方が好ましいでしょう。
足部のアライメントにおいては、回外位・中間位・回内位のどれも内側広筋を選択的に活動させる効果は期待できないという研究があります。
しかし、「せっかくなので足部アライメントもこだわりたいな」というのが私の考えです。
その理由としては、エクササイズをプログレッションする上で、いずれ荷重位での運動を行います。荷重位では足部アライメントの関与を避けては通れません。非荷重位でも荷重位のアライメントを想定して行うことで、下肢全体の感覚運動を統合するのが良いと考えています。
そういった意味で、足部は中間位〜回外位での実施が好ましいと考えています。
細かく見れば後足部と中・前足部で変わってくる部分もありますが、膝関節疾患の多くは足部過回内にあるように感じます。そのため、中間位〜回外位でパテラセッティングを実施する中での反応を見比べつつ、その人にあった肢位を選択するように心がけています。
パテラセッティングを繰り返し実施する中で、足関節・足部アライメントが徐々に崩れていく、もともとの運動パターンに戻っていくことが大半です。随時、足関節・足部のアライメントを修正してエクササイズを続けていく必要があります。
膝蓋骨の誘導
上記の股関節・足関節・足部の肢位でも内側広筋の活動が促されにくい場合、膝蓋骨を誘導することも行います。
内側広筋の中でも特に斜頭線維の活動を促したいので、膝蓋骨を上方かつやや内側に引き上げるような動きを誘導するのがオススメです。
あるいは、セラピストが膝蓋骨を下方+外側方向に滑らせるように徒手抵抗を加え、それに対して患者・クライアントさんが膝蓋骨を上方+内側に引き上げるようにして内側広筋の活動を促すという方法です。
◎膝蓋骨に対して下方+外側へ徒手抵抗を加える
動かし方に慣れたら、患者・クライアントさん自身で抵抗を加える練習をしてホームエクササイズにすると効果的かと思います。
ここまではパテラセッティング自体を上手にできるようにするための方法でした。
この先は「パテラセッティングをどのようにプログレッションするのか」という応用方法についてです。
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ブリッジ動作で臀筋群と同時収縮
題名にある通り、パテラセッティングにて内側広筋を活動させた上でブリッジ動作を行う練習をします。
以下のような、背臥位の膝関節伸展位で行う『ストレートレッグ・ブリッジ』です。
膝屈曲位で行うヒップリフトやブリッジは臨床上よく行われているでしょう。
ストレートレッグ・ブリッジは膝伸展位で股関節伸展動作行うため、立位の姿勢・動作の機能向上に反映されやすい側面を持っています。
足底からの入力がないのはデメリットな面になりますが、パテラセッティングで足関節・足部の肢位を制御した上で、臀筋やハムストリングを同時収縮させてもその肢位を制御できるか、というのはとても重要なポイントです。
制御しなければならない部位や課題が増えると、途端に代償動作が生じる事は良く起こり得ます。
代償動作の確認・修正をするには有用なので、立位になる前に一度は経由しておきたいエクササイズです。
立位でのセッティング方法
ここまではOKCエクササイズでした。
OKCだけやって終わり…にしてしまうと、立位・歩行へと機能を反映させることが難しいでしょう。
パテラセッティングで広筋群の出力ができたとしても、荷重位で同じことができるとは限りません。
立位になると膝が屈曲してしまう、立位では広筋群の活動を知覚することができない、ということがしばしばあります。また、膝伸展位でロックするように立位保持する、膝軽度屈曲位で立位支持できないのも同様に起こり得ます。
上記のような機能不全を改善へ導くために行うのが、立位でのセッティングです。
壁に背中をつけて立ち、ボールを膝裏に入れ込んで行います。ボールの反発力に負けないように膝を伸展させることで、広筋群の収縮を促します。同時に臀筋群やハムストリングの活動も求められるので、前項で解説したストレート・レッグ・ブリッジで運動学習したことが役に立ちます。
荷重位で行うことにより、膝関節内への圧縮力、足底からの入力、下肢の荷重アライメント、骨盤帯や脊柱のアライメントなど、これらを全て統合させる必要が出てきます。これが立位エクササイズの難しいところでしょう。
立位でのセッティングは膝伸展で筋出力発揮するだけでなく、膝をわずかに屈曲に緩める時にも広筋群の伸張性収縮で制御するのを忘れないようにしたいです。これは非常に大切なポイントになります。
筋を弛緩させて膝屈曲するような動作パターンの学習に繋がってしまうと、立位や歩行で膝が抜けるような感覚、しゃがみや段差昇降で膝の痛みや違和感を引き起こす可能性が高くなります。エクササイズ指導時に注意して診ていくと良いでしょう。
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まとめ
以上が内側広筋を活性化させるパテラセッティングの工夫でした。
・股関節外転・外旋位
・足関節中間位〜背屈位
・足部中間位〜回外位
・膝伸展位でブリッジ動作
・立位でセッティング
必ずしもこれら全てをやらないといけない訳ではありません。
意識させるポイントが多くなると、患者・クライアントさんがキャパオーバーになってしまい、何もかもが上手くいかなくなるかもしれませんので注意が必要です。随時、反応を確認しながら足し引きするのが良いでしょう。
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