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大腿骨頭の前方変位
大腿骨頭の前方変位は、関節包内における大腿骨頭の前方滑りの動きになります。
臨床上よくある例として、股関節屈曲時の前方つまり感・疼痛(股関節前方インピンジメント)があります。股関節屈曲動作の理想は、股関節の関節包内では大腿骨頭が後方滑りすることで臼蓋に衝突せず動きが遂行されることですが、評価では大腿骨頭が前方に変位しており、後方滑りが行えていないことが多く見受けられます。
どのように評価するかは今回の記事で解説しません。臨床現場では多く見受けられる病態だと思いますので、評価に関してはこちらの記事をご参照いただけますと幸いです。
基本的な解剖学から考えると、股関節後方には多くの筋が存在していますが、前方を横・斜方向に走行する筋は存在しません。大腿直筋や大腰筋・腸骨筋が股関節前方を、大腿筋膜張筋が股関節前外方を縦に通過しており、恥骨大腿靭帯や腸骨大腿靭帯の強靭な靭帯が斜方向を覆っています。
股関節周囲筋筋や寛骨・大腿骨のバイオメカニクスを考えると、大腿骨頭は後方よりも前方へ変位しやすいことが考えられます。
以下では、「なぜ大腿骨頭が前方変位してしまうのか」について考えたまとめをご紹介していきます。
股関節屈曲筋の影響
股関節屈曲動作では、大腿骨が屈曲方向に動き(骨運動)、大腿骨頭は前方・上方に転がると同時に後方・下方へ滑る動き(関節運動)が生じます。
股関節屈曲に作用する筋は、大腿直筋・大腿筋膜張筋・腸腰筋になります。
大腿直筋は脛骨粗面、大腿筋膜張筋は腸脛靭帯を介して脛骨ガーディ結節に付着しており、股関節屈曲動作では脛骨を介して大腿骨遠位部を屈曲方向に動かすので、近位の大腿骨頭は前方・上方への転がり運動の要素が強くなります。
腸腰筋は大腿骨小転子に付着しており、股関節屈曲動作では大腿骨近位部を屈曲方向に動かすので、大腿骨頭の前方・上方への転がり運動は大腿直筋・大腿筋膜張筋と比べて小さくなり、臼蓋に対して大腿骨頭の位置が安定したまま屈曲を行えます。
大腿骨遠位部を主に動かす大腿直筋や大腿筋膜張筋の活動が大きくなると、大腿骨頭は前方へ変位しやすいと考えられます。また、大腿骨近位部を動かす腸腰筋が同時に活動し、大腿直筋・大腿筋膜張筋に対する腸腰筋の活動の割合が大きくなれば、大腿骨頭の前方変位というのは生じにくいと考えられます。
活動の割合というのは、股関節屈曲の動作を行う時に大腿直筋・大腿筋膜張筋で80%、腸腰筋で20%賄っている場合は、大腿骨頭が前方へ変位してしまう可能性が高くなるということです。
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股関節後面筋の影響
股関節後面を走行している筋、特に深層外旋筋群や中殿筋・大殿筋は、大腿骨を求心位に保持するには適した筋肉だと考えています。
何らかの機能不全によって深層外旋筋群・中殿筋・大殿筋は伸張されるため筋出力が低下した場合、大腿骨頭を後方へ引き込み安定させることが難しくなります。反対にこれら後面筋が短縮した場合、大腿骨頭が後方へ滑る空間が狭くなるため、相対的に大腿骨頭は前方へと押し出されてしまいます。
◎筋出力低下⇒大腿骨頭を後方へ引き込み安定させることができない
◎短縮・緊張⇒大腿骨頭が後方へ滑る動きを制限し、前方へ押し出す
“何らかの機能不全”という表現をしておりますが、股関節前面筋とのインバランスであったり、腰椎・仙腸関節の機能不全、股関節での前額面上の問題、足部・足関節・膝関節からの影響など多くの問題が考えられるためにこのような書き方となっております。
深層外旋筋群・中殿筋・大殿筋が短縮位で過活動しているというケースに出会う頻度はそう多くありません。特に、深層外旋筋群・中殿筋は「収縮・活動を促したい」「活性化させたい」と思うことが多いと思います。
大殿筋は、「硬くなっているな」「ストレッチした方が良いな」と考える場面はありますが、大殿筋の中でも線維走行・作用の違いがあるため、どの部分をターゲットにしているのかによって変わってくると考えられます。
特に股関節伸展作用を有している大殿筋下部はストレッチした方が良いかもしれませんし、股関節外旋作用を有している大殿筋中央部分は収縮・活動を促した方が良いと考えることがあります。
関節運動連鎖
寛骨と大腿骨の骨運動・関節運動を考えます。
大腿骨頭の前方滑りの動きは、股関節伸展や股関節中間位での股関節外旋動作で生じる動きになります。
股関節前面には関節包や恥骨大腿靭帯・腸骨大腿靭帯が存在しており、股関節伸展を制限しています。また、股関節屈曲角度によって多少の違いはありますが、股関節外旋も制限します。関節包・靭帯が弛緩している場合、大腿骨頭は前方変位しやすい状態であると考えられます。
寛骨前傾・大腿骨内旋
寛骨前傾している場合、股関節は屈曲位となり、関節運動連鎖として大腿骨内旋が生じます。
この場合、大腿筋膜張筋が短縮位で過活動する肢位、伸展・外旋筋は伸張位になるため筋出力が低下する肢位となります。
上記の股関節後面筋の影響でまとめたように、深層外旋筋群や中殿筋・大殿筋による大腿骨頭を後方へ引き込み求心位で保持する作用が得られないので、結果的に前方へ変位してしまうと考えられます。
◎大腿筋膜張筋の過活動
◎伸展・外旋筋群は筋出力低下
寛骨後傾・大腿骨外旋
反対に寛骨後傾している場合は、股関節伸展位となり、関節運動連鎖として大腿骨外旋が生じます。
この場合、伸展・外旋筋は短縮位で緊張している可能性があります。
股関節後方組織の短縮が生じると、大腿骨頭が後方へ滑りこむための空間は狭くなり、相対的に大腿骨頭が前方へ押し出されてしまうことが考えられます。
また、股関節前面の関節包・靭帯は伸張される肢位となり、長期間この肢位が継続された場合は組織が弛緩してしまい、股関節前面組織による大腿骨前方変位を制動することは難しくなります。
◎伸展・外旋筋群の短縮・過活動
◎股関節前面の関節包・靭帯が伸張
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代償性の関節運動連鎖
寛骨のアライメントに対する大腿骨の代償も踏まえて考えていきます。
寛骨前傾・大腿骨外旋
寛骨前傾している場合、本来は大腿骨内旋の運動連鎖となりますが、それでは膝や足が内側を向いてしまうので、それを補正しようとして大腿骨外旋の代償が生じる可能性があります。もちろん、下腿外旋や足部外転による代償も起こりうる可能性はありますが、ここでは大腿骨外旋による代償と考えていきます。
寛骨前傾・大腿骨外旋の状態では、股関節前面の関節包・靭帯は伸張されてしまい、股関節屈曲・外旋の作用を有する大腿直筋や腸腰筋は過活動しやすい肢位となります。
大腿直筋は股関節前面の関節包に付着する線維があるため、股関節前面を安定させるため代償的に過活動してしまう可能性が高いです。
寛骨が前傾すると、仙骨が前傾し、腰椎は伸展していきます。腸腰筋は股関節屈曲筋であると同時に、腰椎を伸展させる筋でもあります。内腹斜筋や腹横筋が活動して腰部が安定していれば、腸腰筋は股関節屈曲筋として作用することが考えられますが、腰椎が伸展してくると腹筋群の活動は低下する可能性が高いため、腸腰筋は腰椎を安定させる筋として作用することが考えられます。
※腰椎が伸展すると腰椎椎間関節が閉じるため、骨性の安定性を高めることが可能です。
上記のことを踏まえると、腸腰筋よりも大腿直筋が股関節屈曲筋として優位に活動する可能性が高くなります。腸腰筋よりも大腿直筋が股関節屈曲筋として作用すると大腿骨頭は前方変位しやすくなりますし、既に股関節前面の関節包・靭帯が伸張されているため前方変位を制限することが難しいと考えられます。
◎大腿直筋・腸腰筋の過活動
◎大腿骨外旋の代償により股関節前面の関節包・靭帯が伸張
寛骨後傾・大腿骨内旋
寛骨後傾している場合、本来は大腿骨外旋の運動連鎖となりますが、それでは膝や足が外側を向いてしまうので、それを補正しようとして大腿骨内旋の代償が生じる可能性があります。上記と同様に、下腿内旋や足部内転による代償も起こりうる可能性はありますが、ここでは大腿骨内旋による代償と考えていきます。
寛骨後傾し股関節過伸展の状態にある場合(いわゆるSway-Back姿勢)は、股関節前面の関節包・靭帯が伸張されてしまい、大腿骨を内旋させる筋として大腿筋膜張筋が活動することで大腿骨頭が前方変位しやすいです。
また、股関節過伸展位にあるため大殿筋下部線維が過活動しやすく、大腿骨頭の後方滑りが生じにくくなり前方変位してしまうことも考えられます。
ただし、代償的に大腿骨を内旋させているため、股関節後面の関節包・靭帯が伸張されてしまい大腿骨頭が後方変位しやすい状況でもあります。
そのため、大腿骨頭が前方にも後方にも動きやすい股関節多方向性不安定症とも考えることができます。
病態の把握が難しく、思ったように改善しない・改善のペースが遅いというような場合は、これが該当するかもしれません。
◎大腿筋膜張筋の過活動
◎股関節過伸展により股関節前面の関節包・靭帯が伸張
◎股関節内旋の代償により股関節後面の関節包・靭帯が伸張
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