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仙腸関節を評価するまでのアルゴリズム
今回は、腰痛や殿部痛に痛みを感じている患者さんに対面した時に、『仙腸関節由来の痛みなのか?』あるいは『腰椎も問題なのか?』を鑑別するための方法をアルゴリズム形式でご紹介していきます。
ある程度の鑑別をした後に仙腸関節への疼痛誘発テストを行ないますので、テストの感度・特異度・尤度比とテスト方法を5つご紹介していきます。
まずは、腰部痛・殿部痛が仙腸関節由来なのかを鑑別するための考え方です。
①症状の範囲
症状の範囲が、『L5から殿溝までに生じているのか』を確認します。
そうでなければ、仙腸関節由来ではない可能性が高く、おそらく椎間板由来or椎間関節由来だと考えられます。
②神経伸張テスト
下肢の放散痛や痺れ症状がある場合、神経伸張テストにより症状が誘発されるかを確認しましょう。
SLR(Straight Leg Raise:下肢伸展挙上-坐骨神経伸張テスト)とFNT(Femoral Nerve Test:大腿神経伸張テスト)を確認しましょう。
これにより症状が再現される場合は、神経根の圧迫により症状が誘発されている可能性があります。
そうでない場合は、次の評価を行いましょう。
③動作評価
次に、症状が再現される動きを繰り返してもらい、評価を行います。
例えば、前屈で症状が誘発される場合、10回ほど繰り返した時に症状が緩和するのであれば、おそらく椎間板性の疼痛であると考えられます。
特に変化がない場合には、下記でご紹介する仙腸関節の疼痛誘発テストを行なっていきます
④仙腸関節の疼痛誘発テスト
仙腸関節の疼痛誘発テストを5つ行い、いくつ陽性になるかを評価していきます。
5つ中2つ当てはまる場合は、片側の仙腸関節由来の疼痛と考えられます。
3つ以上当てはまる場合は、両側の仙腸関節が関係している可能性が高くなります。
※ただし、これに確証を得るためには、仙腸関節への注射をする必要があるため、医師と連携が取れる場合は検討していただければ良いでしょう。
これらに当てはまらない場合は、殿筋群の腱障害や滑液包炎、末梢血管障害、腰椎椎間孔狭窄症などが疑われます。
スペシャルテストの感度・特異度・尤度比
仙腸関節の疼痛誘発テスト(スペシャルテスト)の5つに関する、感度(Sensitivity)・特異度(Specificity)・陽性尤度比(LR+)・陰性尤度比(LR-)をご紹介します。
Sensitivity | Specificity | LR+ | LR- | |
---|---|---|---|---|
Distraction | 60 | 81 | 3.20 | 0.49 |
Compression | 69 | 69 | 2.20 | 0.46 |
Gaenslen’s (R) | 53 | 71 | 1.84 | 0.66 |
Gaenslen’s (L) | 50 | 77 | 2.21 | 0.65 |
Thigh Thrust | 88 | 69 | 2.80 | 0.18 |
Sacral Thrust | 63 | 75 | 2.50 | 0.50 |
3 of 5 positive | 91 | 78 | 4.16 | 0.12 |
単独での評価はそこまで意味をなさないので、組み合わせて評価をする必要があります。
5つのテストのうち、3つのテストで陽性が確認できれば、評価の信頼性が高くなると考えられます。
では、それぞれのテスト方法をご紹介していきます!
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Distraction Test
Distraction Testは、両側のASISを後外方へ押していく事で、仙骨に対する腸骨の離開ストレスを加えるテストになります。
左右の両側の仙腸関節へ同時にストレスを加えるテストです。
- テスト肢位は背臥位です
- 両方の母指球でASISを把持します
- 両側ASISの間を後外方へ圧を加えます
- 症状が誘発される場合に陽性です
仙骨に対して腸骨が後外方へ押し込まれるので、仙腸関節には離開ストレスが加わります。
陽性の場合、前仙腸靭帯の機能不全が疑われます。
また、強く押すよりも、セラピストの上半身を下げることで軽く圧力を加えるようにすると良いでしょう。
Compression Test
Compression Testは、仙腸関節面に対して腸骨稜を押すことで、仙腸関節にストレスを加えるテストになります。
Distraction Testと同様、左右の両側の仙腸関節へストレスを加えるテストです。
- テスト肢位は側臥位です
- 腸骨稜に両手を置きます
- ベッドに向かって垂直に押していきます
- 症状が誘発されれば陽性です
このテストは、ベッドに向かって垂直に押すことが重要です。
側臥位ではなく背臥位でもテストを行えますが、手の長さや押さえる力が必要となるため、側臥位で行う方がオススメです。背臥位で行う場合は、片側から行うだけではなく両側で行い、セラピストの立ち位置を変えると良いでしょう。
陽性の場合、後仙腸靭帯の機能不全が疑われます。
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Gaenslen’s Test
Gaenslen’s Testでは、左右のそれぞれ違う”捻り”のストレスを加えるテストになります。
右側の例
- テスト肢位は背臥位です
- 右股関節を屈曲させ、左下肢はベッドから出します
- ご自身で右下肢を抱えてもらいます
- 左膝を背側に向かって押していきます
- 症状が誘発されれば陽性です
上記の場合、右の仙腸関節には後方回旋、左の仙腸関節には前方回旋のストレスが加わります。
脚を変えて、反対側も同様に行いましょう。
このテストが陽性の場合、仙腸関節の機能不全の他に、股関節や腰椎の疾患や大腿神経の問題も考慮した方が良いかもしれません。
Thigh Thrust Test
Thigh Thrust Testでは、寛骨を介して仙腸関節に対して剪断力を加えるテストになります。
右側の例
- テスト肢位は背臥位です
- セラピストは左側に位置します
- 右股関節を90度屈曲・内転させて右手で上から押さえます
- 左手は仙骨を固定して、仙腸関節の裂隙を触れておきます
- 右側を大腿骨軸上に背側へ押します
- 症状が誘発されれば陽性です
大腿骨を介し寛骨を後方へ押すことで、仙腸関節には後方への剪断ストレスが加わります。
左手で仙腸関節の裂隙を触れておくことで、仙腸関節の動きの量を確認しましょう。
股関節を屈曲・内転させることで、右側を大腿骨軸上に押しても股関節へストレスを加えることなく寛骨に力を伝達することができます。ただし、過度に股関節を内転させないように注意しましょう。
脚を変えて、反対側も同様に行いましょう。
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Sacral Thrust Test
Sacral Thrust Testでは、仙骨を介して仙腸関節に対して剪断力を加えるテストになります。
左右の両側の仙腸関節へストレスを加えるテストです。
- テスト肢位は腹臥位です
- 仙骨正中線に片手を置き、その上から反対の手を添えます
- 腹側へ向かって垂直に押します
- 症状が誘発されれば陽性です
このテストでは、仙骨がニューテーションし、仙腸関節では後方への剪断ストレスが加わります。
押し込んだ手はすぐに離さず、10秒ほど保持することをオススメします。
理由としては、筋緊張による代償固定を防ぐことができるためです。
これまでの5つのテストのどれも、ストレスを加える方向が非常に重要であるため、適時確認しながら行なっていただけると良いでしょう。
まとめ・参考文献
こちらの記事では、仙腸関節の靭帯や筋・筋膜の機能解剖をご紹介していますので、併せてご参照ください!
Clinical Diagnosis of Sacroiliac Joint Pain: Mark Laslett, Techniques in Orthopaedics, October 2018
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