腱板損傷に対する評価方法:3つのスペシャルテストの選択

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腱板損傷に対する評価

腱板は肩甲上腕関節を安定させるために必要な筋・腱であり、損傷してしまうと関節求心位が保てないために肩の痛みや日常の動作に支障をきたします。

転んで手をついた、肩を捻ってしまった、変な体勢で物を持ってしまったというような明確な要因がある場合は、腱板を損傷した可能性が高いと判断しMRIなどの検査を進めていくことがあるかと思います。

腋窩後面の筋肉のストレッチを受ける女性

しかし、要因がないとしても、スポーツ活動や日常で行う動作により腱板に負担がかかる動作を繰り返していたり、65歳以上の高齢者においては退行変性による腱板損傷の可能性もあり、保存療法において病態が複雑化し難渋してしまうケースも少なくありません。

そこで、スペシャルテストを用いたスクリーニング検査を行うことで、適切な病態把握・介入を行えるようにしていく必要があります。

今回の記事では、様々なスペシャルテストを複合的に考慮し、最も信頼性のあるスペシャルテストの組み合わせをご紹介していきます。

感度・特異度・尤度比

腱板損傷に対するスペシャルテストは数多く存在しています。

それぞれの筋・腱に負荷を加えるテストがありますが、それぞれのテスト単独では感度・特異度・尤度比が低く出てしまうため、複数のテストを組み合わせることがオススメされます。

以下の表は、感度(Sensitivity)・特異度(Specificity)・尤度比(Likelihood Ratio:LR)のまとめになります。
※LR+:陽性尤度比 / LR-:陰性尤度比

Sensitivity Specificity LR+ LR-
Age > 65
Weakness in External Rotation
Night Pain
49 95 9.84 0.54
Painfu Arc Test
Drop Arm Test
Infraspinatus Test
15.57 0.16
Age > 60
Painfu Arc Test
Drop Arm Test
Infraspinatus Test
28.0 0.09
SSP Weakness or Impairment of Abduction 100 99 NA NA
Hawkins or Neer Test 88 38 1.42 0.32
Hawkins and Neer Test 83 56 1.89 0.31
Active Abduction < 90°
Empty Can Test
ERLS
54 65 1.20 0.71
Active Abduction < 90°
Empty Can Test
Hawkins Test
72 39 1.18 0.72
Empty Can Test
ISP Test
Hawkins or Neer Test
NT NT 48.0 0.76

※ERLS:External Rotation Lag Sign

陽性尤度比・陰性尤度比の値に着目した時に最も良い値が示されるのは、Painfu Arc Test・Drop Arm Test・Infraspinatus Testを組み合わせた評価方法になります。

年齢が60歳以上である場合は、陽性尤度比28.0・陰性尤度比0.09という結果であり、より信頼性のある評価方法であるということです。

その他のテストの組み合わせでは、感度・特異度・尤度比の値がそこまで高くはないので、スクリーニング評価という意味では適していないでしょう。

一番下のEmpty Can Test・ISP Test・Hawkins or Neer Testでは、陽性尤度比が48.0と高いので、全て陽性であれば腱板損傷の可能性が高くなります。
しかし、陰性尤度比の値は0.76と高いので、陰性である場合は腱板損傷がないとは言えないこともあり、スクリーニングとしては適していないという解釈になります。

ではそれぞれの評価方法を解説していきます。

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Painful Arc Test

Painful Arc Testは、一般的に肩峰下インピンジメントの症状を特定するのに用いられます。

腱板損傷が存在する場合、肩関節よりも手が遠い位置に達するタイミングで疼痛を誘発する可能性があります。それは、モーメントアームが長くなるため、筋・腱に加わる負荷が強くなるためだと考えられます。

患者さんにActiveで行ってもらうテストなので、簡便に用いることができます。

テスト方法

  1. 座位or立位にて肩関節外転を肩甲骨面上で行うよう指示します
  2. 外転している間に、関節内およびその周辺で疼痛が生じた場合はセラピストに伝えてもらいます
  3. 外転120°以上で疼痛が減少していく場合は陽性です
  4. 外転動作終了後、内転してもらい元の位置に戻します
  5. 動作途中から疼痛が生じる場合も陽性です

Drop Arm Test

Drop Arm Testは、特に棘上筋に対する評価になります。

このテストでは、肩関節から最も遠い位置に手を設定するためモーメントアームが長くなるため、筋・腱に加わる負荷が最も高いポジションになります。

テスト方法

  1. 座位or立位にて他動的に肩関節90°外転させます
  2. セラピストの支持を外し、ゆっくりと腕を下げてもらいます
  3. ゆっくりとした動作でコントロールでき、症状がない場合は陰性です
  4. 腕が突然下降したり、保持できない場合、痛みが生じる場合は陽性です

テストでの負荷を高める場合は、肩関節90°外転位にて最大外旋を加えて行います。

他動的に外旋を加えることを患者・クライアントが怖がるケースが多いため、まずはActiveで行ってもらうことをオススメします。

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Infraspinatus Test

Infraspinatus Testは、特に棘下筋に対する評価になります。

腱板損傷が存在する場合、動作中に痛みや筋出力の低下(脱力感)が確認されます。

テスト方法

  1. 座位or立位にて上肢下垂位にて肘関節を90°屈曲させます
  2. 肩関節外旋方向に動かすよう指示します
  3. セラピストは内旋方向に徒手抵抗を加えます
  4. 疼痛や脱力感が確認される場合は陽性です

いきなり抵抗を加えて評価するよりも、まずはActiveで行ってもらうことで可動範囲を確認し、その後に抵抗を加えて評価する方が、患者さんにも安心感を与えられるためオススメです。

まとめ

”Painfu Arc Test”・”Drop Arm Test”・”Infraspinatus Test”は、腱板損傷に対する評価だけではなく、肩峰下インピンジメントに対する評価としても用いられます。

そのため、これら3つの評価が陽性だからといっても、腱板が損傷していることが確定している訳ではないため、MRIやエコーによる評価を組み合わせて検討してくことが必要です。

また、この3つ以外の他のテストに意味がないという訳ではありません。まず最初に評価するものとして3つを使用していただき、陽性であった場合に他のテストを行うことで、より適切な評価を行えるのではないかと考えます。

無駄なテストを行うことがなくなるため、セラピストの評価時間を短縮すること、そして何よりも患者・クライアントの身体的・心理的負担を軽減することにもつながります。

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参考文献

  1. Physical examination tests of the shoulder:a systematic review and meta-analysis of diagnostic test performance:Gismervik et al. BMC Musculoskeletal Disorders 2017
  2. Combining orthopedic special tests to improve diagnosis of shoulder pathology:Eric J. Hegedus, Chad Cook, Physical Therapy in Sport16, 2015
  3. Orthopedic Physical Examination Tests: Pearson New International Edition: An Evidence-Based Approach: Chad E. CooK, Eric Hegedus, 2013

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