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股関節
股関節は、寛骨臼と大腿骨頭によって構成された球関節であり、3平面6方向へ動く大きな可動範囲を有している関節です。
股関節の機能不全が存在すると、腰部・骨盤帯や膝関節の機能障害を引き起こし、それが胸郭や足関節・足部へと上位・下位へと機能障害の連鎖が波及していくことが考えられます。
そのため、脊柱や足関節・足部の機能不全があっても、股関節への介入が同時に必要になることは非常に多くの場面で遭遇すると考えられます。
他の関節における機能障害のみであれば良いものの、股関節の機能障害が引き起こされているということは、身体は代償に代償を重ねているのかもしれないと私は考えています。
例えば、腰部・骨盤帯・股関節の複合(LPHC)で機能不全が生じていたとして、それを代償しようとして足部や膝に機能障害が起こり、さらにこの機能障害を庇うために股関節で代償するというようなことです。始まりがLPHCでなく他の部位であったとしても、股関節に機能障害が生じてしまう場合は身体が代償しすぎて耐えられていない状態と捉えています。それだけ股関節(LPHC)は重要な部位であると考えています。もちろん、機能障害ではなく、構造的な障害が生じている可能性もあります。
※機能障害:解剖学的な変化を伴わずに生理機能が損なわれている状態
上記のように話を広げすぎても考えることが増えすぎて混乱してしまうため、今回の記事では『股関節前方インピンジメントの病態・要因』を2つの部位に分けてまとめていきます。
股関節前方インピンジメント
股関節前面を覆う筋肉は腸腰筋・大腿直筋であり、股関節屈曲作用を有しています。
股関節前内側には内転筋群、股関節前外側には大腿筋膜張筋が存在しており、筋によって作用は若干変わってきます。
股関節前方インピンジメントにより違和感や痛みが生じている場合、それは筋や靭帯・関節包によるものなのか、骨・関節によるものなのかを鑑別する必要があります。
特に股関節屈曲動作が制限されたり、症状が再現されることが多いと感じておりますが、それに関する要因を探す方法としては、こちらの記事をご参照いただければと思います。
股関節前方インピンジメントにおける病態は、前方と一括りにされてしまいがちですが、上方部分(外側領域)と下方部分(内側領域)で状態が変わってくると考えられます。
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股関節前上方インピンジメント
股関節前上方(前外側)インピンジメントは、骨盤帯の反対側回旋に伴い大腿骨が外旋代償している状態から動作を行うことで生じる病態です。
骨盤帯の反対側回旋を言い換えると、同側寛骨は前傾している状態です。寛骨のアウトフレアを伴っているとも考えられます。
骨盤帯が反対側回旋しているので、それに伴い本来ならば同側下肢は内旋していきますが、それでは足先が内側を向いてしまうため、それを大腿骨外旋させることで代償していることになります。この時、股関節前面の腸骨大腿靭帯・恥骨大腿靭帯への伸張性の負荷が増大するため、長期間継続していると靭帯は弛緩することが考えられます。
寛骨が前傾しているため、股関節屈曲の動作は制限を受けやすくなります。また、大腿骨外旋で代償しているため、股関節内旋の可動性も制限されやすいでしょう。寛骨・大腿骨の位置関係から考えても、相対的に外転位の状況下にあるため、股関節内転の可動性も制限されることが考えられます。
股関節中間位での股関節外旋動作や股関節伸展動作では、前面の関節包・靭帯が伸張されて痛みが生じる可能性があります。股関節屈曲位での回旋は、寛骨前傾位であるためにどちらの動きでも痛みが生じる可能性があります。特に外旋においては、大腿骨頭の上方滑りが生じるため、寛骨臼前上部と大腿骨頭の接触により症状が再現されることが考えられます。この場合、関節内病変における症状が考えられます。
筋としては、腸腰筋は短縮位、ハムストリングや内転筋群は伸張位におかれます。そのため、SLR(Straight Leg Raise)の可動性は制限されることが考えられます。
- 骨盤帯の反対側回旋
- 寛骨前傾・アウトフレア
- 大腿骨の過外旋
- 股関節屈曲・内旋・内転の可動性制限
- 股関節中間位〜伸展位における股関節外旋・伸展動作時の軟部組織伸張痛
- 股関節屈曲位における股関節内旋時の関節内病変
- SLRの可動性制限
- Faddir Test陽性
- IROP Test陽性
- FABER Test陽性
その他、スペシャルテスト(整形外科的テスト)について、上記のような所見になることが考えられます。
股関節前下方インピンジメント
股関節前下方(前内側)インピンジメントの症状は、大きく括れば鼠径部痛(グローインペイン)に該当すると考えられますが、今回の記事ではあくまでも筋・関節内インピンジメントの症状について考えていきます。
股関節前下方インピンジメントは、骨盤帯の同側回旋に伴い大腿骨が内旋代償している状態から動作を行うことで生じる病態です。
骨盤帯の同側回旋を言い換えると、同側寛骨は後傾している状態です。寛骨のインフレアを伴っているとも考えられます。
骨盤帯が同側側回旋しているので、それに伴い本来ならば同側下肢は外旋していきますが、それでは足先が外側を向いてしまうため、それを大腿骨内旋させることで代償していることになります。この時、股関節後面の坐骨大腿靭帯への伸張性の負荷が増大するため、長期間継続していると靭帯は弛緩することが考えられます。
大腿骨が内転・内旋位におかれているため、股関節屈曲動作は制限を受けやすくなります。股関節後方組織は過剰に伸張された状況におかれてしまうため、軟部組織の伸張時痛が生じる可能性もあります。また、股関節外転・外旋の可動性も制限されやすいでしょう。股関節屈曲位での股関節内旋動作においては大腿骨頭が尾側へ滑りますが、寛骨臼前下部と大腿骨頭の接触も生じ症状が再現されやすいです。この場合、関節内病変における症状が考えられます。
筋としては、ハムストリングや内転筋群は短縮位、腸腰筋・大腿直筋・股関節外転筋群は伸張位におかれます。
- 骨盤帯の同側回旋
- 寛骨後傾・インフレア
- 大腿骨の過内旋
- 股関節屈曲・外旋・外転の可動性制限
- 股関節屈曲・内転・内旋に伴う股関節後方の関節包・靭帯の伸張時痛
- 股関節屈曲・内旋動作時の前面つまり感や痛み
- 内転筋群付着部の筋性疼痛
股関節前下方のインピンジメントの病態の特徴として、股関節屈曲・内旋の動作において前面のつまり感や痛みと併せて、股関節後方の関節包や靭帯が伸張されるため後面の痛みを訴える可能性があります。これは同時に生じるよりも、股関節深屈曲では前面、股関節屈曲・内旋の動作では後面の症状を訴えるなど、動作によって変わってくる可能性があります。
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まとめ
最近の臨床の中で股関節前方インピンジメントの方に介入する時に、微妙に症状の位置や病態に違いを感じたため今回の記事でまとめてみました。
歩行における股関節の前上方(前外側)インピンジメント、前下方(前内側)インピンジメントの症状としては、前者が立脚中期〜後期〜遊脚初期での症状を訴える可能性が高く、後者は立脚初期での症状を訴える可能性が高いです。歩容としては、前者が体幹同側側屈での代償、後者が骨盤帯の側方移動での代償などが考えられます。
これらの病態に関してはあくまでも推測であり、関節の位置関係から可能性の高いものをまとめています。そのため、当てはまることがあれば、当てはまらないこともあるかと思います。FAIなどの構造的問題とも関係してくる可能性はもちろんあります。
股関節への介入には注意を要します。
私の失敗談としては、股関節屈曲・内旋時の痛みを訴える股関節前下方のインピンジメントの方に、大腿骨頭の尾背側滑りのモビライゼーションを行った結果、前方の痛みは軽減したものの、後方の痛みを助長してしまったことです。
さまざまな代償を積み重ねていると考えられるため、軟部組織の弛緩性なども生じていたのかもしれません。“大腿骨頭のJoint Playの可動性制限がある→関節モビライゼーションを行う”という考えには注意をした方が良いでしょう。まずは、ご自身で行えるエクササイズから開始してみることは、セラピストにも患者・クライアント様にもお互いにメリットがあると考えられます。
これに関しては、こちらの記事で詳しく解説していますので、ぜひご参照いただけますと幸いです。
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