胸鎖乳突筋の機能解剖と頸部・顎関節への影響

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胸鎖乳突筋の機能解剖:頭頸部・胸郭・顎関節への影響 専門家向け記事

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胸鎖乳突筋の解剖学

胸鎖乳突筋は、胸骨と鎖骨および側頭骨の乳様突起に付着する筋肉です。

“胸”骨・“鎖”骨・“乳” 様 “突” 起、それぞれの頭文字をとっているので、わざわざ付着部を覚える作業もなく、暗記できそうな筋肉になります。

胸鎖乳突筋・斜角筋のイラスト

胸鎖乳突筋(Sternocleidomastoid Muscle)は、胸骨柄の前外側上部・鎖骨内側1/3上面に付着し、側頭骨の乳様突起外側面・後頭骨の上項線外側に付着する筋肉です。

この筋肉は、内側の丸みを帯びた腱のある胸骨頭と、外側の平たい肉厚な鎖骨頭の2頭で構成されています。

近位付着部
・胸骨頭:胸骨柄の前外側上部
・鎖骨頭:鎖骨内側1/3上面
遠位付着部
・側頭骨の乳様突起外側面
・後頭骨上項線外側

副神経・頸神経叢の枝(C2-3)によって支配され、運動は副神経、痛覚・固有感覚・位置覚はC3/4腹側枝による影響を受けています。

目や耳など、頭部を動かすことで外界からの情報を受け取るためにはとても重要な筋肉であり、全身の左右の平衡を頭頸部で帳尻合わせするには大切な筋肉です。

しかし、身体が左右どちらかへ傾いているのにもかかわらず、長時間の同じ姿勢をとることによって、その姿勢が『中間・中立・真っ直ぐ』と誤認してしまう可能性があります。
その状態では、胸鎖乳突筋の左右の緊張差が顕著となり、頭頸部の機能不全が生じてしまうというのが非常に多い傾向にあります。

胸鎖乳突筋の機能

胸鎖乳突筋の主な機能は、片側の収縮によって頸部の同側側屈と反対側回旋を生じさせ、両側の収縮によって下位頸椎を屈曲させ上位頸椎を伸展させる動きになります。

胸鎖乳突筋

この動作は、胸骨・鎖骨が固定された状態における頸部の動きになりますので、この逆である『頸部が固定された状態における胸骨・鎖骨の動き』も機能としては考える必要があります。
つまり、頸部が固定されている場合は、胸骨と鎖骨が引き上げ・持ち上げられ、胸郭を拡張させることで吸気を補助します。

何らかの機能不全によって頸部の筋緊張が高くなっており、いわゆる”首がガチッと固まっている”状態であった場合、胸鎖乳突筋が吸気補助筋として作用してしまうということです。

・片側:頸部の同側側屈・反対側回旋
・両側:下位頸椎屈曲・上位頸椎伸展
・胸骨・鎖骨近位部の挙上

頸部の筋緊張が高くなる分かりやすい例としては『頭部前方位』です。

頭部前方位の姿勢をとることによって下位頸椎は屈曲位にあるため、既に胸鎖乳突筋が収縮している位置に置かれています。この姿勢では、胸椎・肋骨の動きも制限されていることが非常に多いので、吸気による胸郭の拡張も制限されてしまい、鎖骨・胸骨や肩甲骨などを引き上げて“肩で呼吸しているような状態”となります。その時に代償的に活動しているのが胸鎖乳突筋ということも考えられます。

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胸鎖乳突筋による頭頸部や胸郭アライメントの影響

片側胸鎖乳突筋の短縮・求心性収縮によって、頭部は同側側屈・反対側回旋します。

頭頸部

右胸鎖乳突筋の短縮・求心性収縮が生じると、頭部は右側屈・左回旋位になります。

この時、右目が左目よりも下に位置していたり、耳たぶは右側が下がっていたり、顎は中心より左側に位置しているような顔貌が確認できるかもしれません。

胸郭

鎖骨側の影響も考えられ、鎖骨近位部は上方へ引き上げられます。近位が引き上げられると相対的に遠位は下がるため、短縮している側の肩が下がっていることが確認できるかもしれません。

鎖骨近位部の挙上=鎖骨遠位部の下制=同側の肩下がり

上記と同じように右側の胸鎖乳突筋が短縮している場合、右側の鎖骨近位部が上方に引き上げられ、相対的に鎖骨遠位部は下がるために右肩が下がった姿勢を確認することができます。
胸椎のカップリング・モーションとしては同側側屈・同側回旋となるので、右肩下がりの場合は胸郭が右側屈・右回旋しやすいということが考えられます。

上記の内容が必ず生じるわけではなく、さらに代償することも考えられます。
ただ、ある程度の予測をもってアライメントの評価をしていくことが、時間短縮・評価の質を向上させることに繋がります。

胸鎖乳突筋による頸部への影響を考える

胸鎖乳突筋による頸部への影響をもう少し掘り下げて考えていきます。

まず関節運動の前提として、環椎後頭関節(C0/1)の屈曲動作時には環椎に対して後頭骨が後方へ滑り、伸展動作時には前方へ滑ります。

先程と同様に右の胸鎖乳突筋の短縮・求心性収縮を例にすると、環椎(C1)に対して後頭骨が右側屈・左回旋した状態になります。関節面の運動では、左側が後方滑り、右側は前方滑りの動きが生じています。
この場合のC0/1の関節面における屈曲運動は、右側関節面を優位に屈曲させ、左側関節面は後方滑りの状態で後面の靭帯が既に伸張されているために屈曲を制限することが考えられます。

さらに、C1/2関節のことも考えていきます。C1/2の主な動きは回旋です。
左側後面の靭帯が伸張されることでC2棘突起は左側へ動かされます。つまり、C2は右回旋位になるということです。
下位頸椎(C2〜7)のカップリング・モーションは同側側屈・同側回旋なので、この場合は下位頸椎が右側屈・右回旋位になると考えられます。

下位頸椎の右側関節面は閉まった状態・可動性が制限されている状態なので、日常的に頭部前方位の姿勢を長時間とっていたり、繰り返される屈曲・伸展動作によって右側椎間関節の問題が生じやすくなると考えられます。

C2左回旋位のことを踏まえると、右側の後頭下筋群は伸張位となってしまうため筋による安定化の恩恵を受けにくい状態といえます。この不安定性を代償するために、右側の斜角筋や板状筋・半棘筋・最長筋など周囲の筋緊張が高くなり、それに伴って頸部の筋性疼痛が生じたり、腕神経叢の問題などを引き起こす可能性も考えられます。

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胸鎖乳突筋による顎関節への影響を考える

胸鎖乳突筋の影響によって後頭骨の位置・向きが変わるいうことは、側頭骨に影響を及ぼし、それが下顎へ影響を及ぼすため、顎関節の問題も考える必要があります。

前項では頸部への影響を考えましたが、それが常態化すると顎関節の機能不全を引き起こし、顎関節の機能不全が常態化してしまうことでそれが頸部へ影響を及ぼす可能性があります。

つまり、頸部痛に対して骨盤帯や脊柱の介入をしてもなかなか改善が見られない場合、顎関節からの影響を考慮する必要があるかもしれないということです。

これまでと同様、右側の胸鎖乳突筋の短縮・求心性収縮を例にします。頭部は右側屈・左回旋位、下位頸椎は右側屈・右回旋位、右鎖骨の下制が生じることはこれまでの内容と同じです。
頭部が右側屈・左回旋位ということは、後頭骨が右側屈・左回旋位であり、側頭骨は左側よりも右側の方が下に位置することになります。この場合、顎関節の位置は右側の方が低くなり、下顎は左側へ側方変位することが考えられます。

下顎が左側方変位するということは、右の下顎は前突・左の下顎は後退します。

左の下顎を後退させる筋としては顎二腹筋や側頭筋後部であり、この筋の緊張が高くなることが考えられます。反対に右側下顎を前突させる筋は、内側翼突筋・外側翼突筋・側頭筋前部になります。

側頭骨や下顎に関連する筋は、舌骨との関係もあります。右鎖骨の下制によって右肩下制・胸郭右側屈のアライメントであると、右舌骨下筋群(胸骨舌骨筋・肩甲舌骨筋)の緊張が高くなります。これによって舌骨を安定させますが、舌骨上筋群は下顎を前突・下制させるため右側の舌骨上筋群(顎舌骨筋・茎突舌骨筋)の緊張も高くなります。

顎関節に大きな影響を及ぼす咬筋ですが、左側の方が下顎を後退させる筋として右側よりも優位に活動することが考えられます。しかし、咬筋は下顎を安定させるために右側も緊張させるので、両側とも緊張が高いことが考えられます。

・咬筋
・左顎二腹筋
・左側頭筋後部
・右側頭筋前部
・右内側・外側翼突筋
・右舌骨下筋群(胸骨舌骨筋・肩甲舌骨筋)
・右舌骨上筋群(顎舌骨筋・茎突舌骨筋)

ここで挙げたような顎関節周囲筋に介入してから頸部の評価・介入をすることが、頸部痛を改善させることにつながる可能性かもしれません。
ぜひ普段の臨床現場で考慮してみていただければ幸いです。

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