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伏在神経
伏在神経とは、大腿神経から分岐した知覚枝で、縫工筋の深部を下行して内転筋菅(ハンター菅)を通過し、膝内側領域と下腿内側領域の感覚を支配します。
膝の内側の痛みを訴える方の中で、この伏在神経の絞扼によってその支配領域に感覚障害や痛みが生じることがあります。
変形性膝関節症の診断が付いている場合でも、伏在神経の問題である可能性も少なくありません。
そこで今回は、膝内側領域の感覚を支配する伏在神経膝蓋下枝の走行の変異(バリエーション)と伏在神経の絞扼部位を解説していきます。
伏在神経膝蓋下枝
36肢
- 縫工筋後縁を回り筋表面を前方に向かうもの:15肢 (41.7%)
- 縫工筋筋腹を貫通して筋表面を前方に走るもの:19肢 (52.8%)
- 2本に分岐し、レベルを違えて2本共に筋腹を貫通して筋表面を前方に走るもの:1肢 (2.8%)
- 2本に分岐し1本は筋腹を貫通し、他は筋後縁を回って筋表面に出るもの⇒1肢 (2.8%)
膝蓋下枝が筋下面を前方に向かうものはありません。
筋を貫通する例でも遠位の腱部を貫通するものはない結果となっています。
まとめると、約半数の52.8%が筋を貫通しており、41.7%が筋後縁を回って前方に向かう走行をしています。
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Sirangによる研究
Sirangによる伏在神経膝蓋下枝の研究をご紹介します。
66肢
- 筋後縁を回るもの:13肢 (19.7%)
- 筋腹を貫通するもの:34肢 (51.5%)
- 筋の下を前方に進むもの:19肢 (18.8%)
Sirangによる研究でも、筋腹を貫通するのは約半数という結果となっています。
Arthornthurasookによる研究
Arthornthurasookによる伏在神経膝蓋下枝の研究をご紹介します。
37肢
- 膝蓋下枝が縫工筋後縁を回り前方に走るもの:23肢 (62.2%)
- 縫工筋を貫通して走行するもの:8肢 (21.6%)
- 縫工筋の下を前方に進むもの:1肢 (2.7%)
- 縫工筋後縁に沿い走った後に前方に進むのもの:5肢 (13.5%)
Arthornthurasookによる研究では、縫工筋後縁を回り前方に走行していくのが約60%という結果となっています。
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伏在神経の走行まとめ
伏在神経膝蓋下枝は、縫工筋または同筋腱部を貫通するか、縫工筋後縁を回り同筋表面を前方に向かうか、縫工筋下を同筋に覆われて前方に向かうかのいずれかの走行をしています。
また、大腿筋膜を貫き膝蓋骨内下部に至り、膝関節内側領域の皮膚知覚を支配しています。
しかし、その走行には変異が多く、膝蓋下枝の起始・膝蓋下枝分岐の高さ・走行・内転筋管の出方・縫工筋との関係等、個人によりまた同一個体でも左右で異なることがあります。
伏在神経膝蓋下枝の走行には変異がありますが、多くの場合において縫工筋の緊張が伏在神経に影響を与えるということが考えられます。
伏在神経が腱間の狭い裂隙を通り筋表面に出るものは見られず、筋後縁に回る例でも筋後縁が強い腱様のものは見られていません。
このことは、筋を貫通したり筋後縁を回ることは神経にとって不利な条件になりますが、臨床的な絞扼性障害が比較的多いにも関わらず治りやすく、手術を要するような障害は極く稀であることが考えられます。
伏在神経の絞扼部位
縫工筋の筋腹を貫通することがあるため、まずはこれが絞扼部位となります。
そのほかには、内転筋菅(ハンター菅)を通過した直後に、大内転筋腱と交叉しているという研究もあります。
内転筋菅内およびその出口周辺は、筋と厚い線維性組織である広筋内転筋板に囲まれた狭い部位になるので、ここも絞扼部位として考えられます。
※広筋内転筋板とは、大内転筋から大腿動脈・大腿静脈・伏在神経を覆うように、内側広筋まで伸びている膜性の結合組織のことです。
- 縫工筋の筋腹
- 大腿筋膜
- 大内転筋腱
- 広筋内転筋板
このことを踏まえると、縫工筋や股関節内転筋群の緊張を緩和させ、その筋が過緊張状態にならないように他の筋にアプローチしていくことで、膝内側領域の痛みの症状は軽減・改善していくと考えられます。
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参考文献
- 伏在神経膝蓋下枝の走行について:松永 和剛, 松崎 昭夫, 荒牧 保弘, 1997
- 伏在神経の絞扼部位に関する解剖学的検討:児玉 亮, 村瀬 政信, 鳥居 亮, 浅本 憲, 中野 隆, 2009
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