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横隔膜の評価について
皆様もご存知の通り、横隔膜は呼吸において重要な筋肉です。また、姿勢変化に対応したり、腹腔内圧のコントロールにおいても重要な筋肉になります。
呼吸と姿勢以外には、喀痰・嘔吐・嚥下・排尿・排便などにも関与しています。また、リンパや静脈の還流を促進させ、横隔膜の上下に位置している内臓の機能をサポートしています。
このように、横隔膜一つだけで身体に多大な影響を与えています。
横隔膜の評価は、呼吸と姿勢のコントロール機能で見ていくことが多いと思いますが、徒手的な評価は紹介されているものが少ないです。
前面は腹壁、後面は起立筋群などに覆われているため、徒手的な評価は困難であることが考えられます。(触診自体も難しいですし…)
調べている中で横隔膜の徒手的評価方法を検討している論文をたまたま見かけたので、今回はそれをご紹介していきます。
今回ご紹介する論文は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)のジャーナルに掲載されているものなので、呼吸・循環器系の基礎疾患・既往歴を有する方には使えるものかと思いますが、特に問題のない方には適応でないような気もします。
しかし、高齢者では意外と呼吸・循環器系の既往歴を有している場合が多いので、様々な場面でお役立ていただけるのではないかと考えています。
論文の中では5つほど評価方法がありますので、順番にご紹介していきます!
下位肋骨の可動性評価
下位肋骨の可動性を呼吸を用いながら評価していきます。
横隔膜は吸気時に下降し、呼気時に上昇していきます。そのため、肋骨は吸気時には尾外側に広がり、呼気では反対に頭内側に動きます。
横隔膜の機能不全がある場合、肋骨の可動性は制限されることが考えられます。
この時、大腰筋・腹壁の緊張を取り除くために、股関節・膝関節は屈曲位させてリラックスさせた姿勢が望ましいと考えられます。
- 下位肋骨の側面に手を置きます
- 深呼吸をしてもらいます
- 肋骨の尾外方⇄頭内方の可動性を評価します
- 動きの量・左右差・タイミングなどを評価しましょう
肋骨に手を置く際には、優しく接するくらいにしましょう。圧を加えすぎると、肋骨の動きを制限してしまう可能性があります。
横隔膜は肋骨に付着しているので、肋骨がそもそも動けないのであれば横隔膜の機能不全が生じても仕方がないことだと考えられます。
この時点で可動性に問題があれば、肋椎関節・肋横突関節や腹筋群の機能評価をした方が良いかもしれません。
これは呼吸・循環器系疾患でない方にも行える有用な評価ですし、私自身は臨床場面でも使用しておりますので是非お試しいただければと思います。
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横隔膜の動く量の評価
手の位置は先ほどと同様のまま、母指を肋骨前縁に沿わせます。
横隔膜は吸気時に下降し、呼気時に上昇していくので、それをこの部分で確認するということになります。
- 下位肋骨の側面に手を置きます
- 母指は肋骨前縁に沿わせます
- 吸気で横隔膜が下降し呼気で上昇するのを評価します
- 動きの量・左右差・タイミングなどを評価しましょう
腹壁がリラックスした状態でないと難しい評価になります。腹壁の筋が緊張してしまい、横隔膜のある部分まで指が潜り込まないと評価の使用もありません。
感覚が鋭敏で「くすぐったい」と感じてしまう方にも難しい評価になりますね。
やってみると「なんとなく分かる…かも!」という感じです。果たして本当に横隔膜なのかは分かりませんが、左右差であったり腹壁の緊張状態などを確認するといった意味では、多くの方にも用いることができるのではないでしょうか。
ドーム領域の弾性評価
次に横隔膜のドーム領域の弾性評価を行います。
セラピストは前腕を腹壁と平行にして、手の掌および小指球を肋骨前縁のアーチ部分に当てます。
優しく頭側へと押していき、”組織の弾性”を評価していきます。特に左右差に着目してみましょう。
- 肋骨の前縁アーチ部分に掌・小指球を当てます
- 優しく頭側へと押していきます
- 横隔膜の弾性を評価します
- 弾性・左右差に着目しましょう
加えられた刺激に応答して動きが減少すると、組織の弾性は減少すると筆者は述べております。
つまり、『横隔膜が適切にリラックスできた状態になるのか?』を評価することだと考えられます。
刺激に対して反発するように組織の弾性が増加してしまう場合、横隔膜が下降した状態(吸気)になっているということです。つまり、息が吐けない・吐ききれないという状態だと考えられます。また、その位置から息を吸うため、吸気補助筋の過活動が生じることも考えられます。
このことから、できる限り力を抜いてもらった上で評価していく必要があると考えられますね。
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後外側領域の弾性評価
横隔膜の後外側領域は、呼吸時において非常に大な動きを示す部分になります。
ドーム領域と比較して、より垂直方向に傾斜しているので、3つ目の評価の状態から前腕を45度斜めにする必要があります。
- 肋骨の前縁アーチ部分に掌・小指球を当てます
- 腹壁に対して45度の傾斜を保ち、優しく頭側へと押していきます
- 横隔膜の弾性を評価します
- 弾性・左右差に着目しましょう
評価における確認項目は先ほどと同様だと考えられます。
やはり気になるのは腹筋群の緊張度合いでしょうか。なるべくリラックスしてもらうことを心がけて行わないと、何をやっているのかがよく分からないです。
また、Rib Flareの状態だと評価しやすいでしょうね。しかし、横隔膜の機能不全よりも先に評価・介入するべきことが多いかと思います。
剣状突起領域の弾性評価
最後に横隔膜の剣状突起領域の評価になります。
通常の呼吸の吸気・呼気において、通常の組織の弾性かどうかを評価していきます。
この領域は、横隔膜の異常な過活動が生じている場合に、非常に硬く感じると筆者は述べています。
- 剣状突起下に手を置きます
- 優しく頭側へと押していきます
- 通常の呼吸をしてもらいます
- 横隔膜の弾性を評価します
これは左右差等と評価していかないので、シンプルではありますが、そのあとの考察・解釈には繋げにくいように感じます。
『身体の非対称性を考慮した上で、左右差を比較していく評価』の方が良いと個人的に考えているので、これはどうなのでしょうか。
私も臨床で行なってみますが、もし試した方・既に行なっている方がいたら、ご感想・ご教授願います!
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まとめ
横隔膜の徒手的評価のまとめです!
- 肋骨の可動性
- 横隔膜の可動性
- 横隔膜の弾性
呼吸機能評価・姿勢安定性などの評価と組み合わせて、徒手的な評価も組み込めると良いのではと感じます。
エクササイズ・トレーニングによっても、徒手的評価の結果は変わってくると思いますし、介入のアウトカムをとる方法を多くすることは重要だと考えます。
肋骨だけではなく、同レベルの胸椎の評価も行うとより良いでしょう!
話が変わりますが、文中にこのような文章がありました。
非常に良い言葉だなと感じたので、最後にご紹介します。
It is important to remember that, as for many other therapeutic techniques, whether manual or otherwise, scientific proof is not available for every existing treatment, this does not mean that, in absence of scientific evidence, something is not valid; otherwise there would not be new treatments or any improvement in rehabilitative practice.
訳すと、『他の多くの治療法と同様に、手技であろうが手技でなかろうが、既存の治療法すべてに科学的証拠があるわけではないということが重要であり、科学的証拠がないからといって何かが有効ではないということではなく、そうでなければ新しい治療法やリハビリテーションの改善はないということである』と述べています。
エビデンスの重要性が問われる時代ですが、新しいものを生み出すためにチャレンジしていくことも必要だと感じる力強い文章です。
書籍・文献などから学んでも所詮”その人”の考えです。それをかい摘んで新しいものを自分で生み出せるくらい、思考を張り巡らせながら日々の臨床にあたりたいですね!(※自戒をこめて)
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