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足根管症候群とは
足根管症候群(Tarsal Tunnel Syndrome:TTS)は、屈筋支帯を通過する脛骨神経またはその枝の絞扼性神経障害です。
足根管症候群の発生率は不明ですが、男性よりも女性の方が有病率が高いと報告されており、年代も様々です。
足根管症候群の文献の中では、脛骨神経が後脛骨神経と呼ばれることがあり、足根管症候群を後脛骨神経痛と記載している場合もあります。
また、『前足根管症候群』という病態も存在しています。これは深腓骨神経の絞扼性神経障害になります。
今回の記事では、脛骨神経またはその枝の絞扼としての足根管症候群をご紹介していきます。
解剖学
足根管は、内果・距骨・踵骨・屈筋支帯により囲まれた領域を指します。
足根管を通過する組織は、筋・腱や血管、神経になります。
- 後脛骨筋腱
- 長趾屈筋腱
- 長母趾屈筋腱
- 後脛骨動脈・静脈
- 脛骨神経
脛骨神経は、足根管を通過するときに2つの末端枝(内側足底神経と外側足底神経)に分かれます。
内側足底神経は、屈筋支帯またはそれより近位領域にて脛骨神経から分岐します。分岐にはバリエーションが存在しており、分岐数も2〜4本と個人差があります。
脛骨神経は足根管内で内側・外側に分岐した後、母趾内転筋のFascia(いわゆる筋膜)の下を通過します。
これらの枝は、足底から足趾まで足部の感覚神経支配を供給し、足底の筋肉、特に足趾屈筋群の運動を支配します。
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原因
足根管症候群の原因には次のものがあります
- ランニング・過度のウォーキング・立ち座りなどの反復的なストレス活動
- 骨折・脱臼による怪我などの外傷
- 踵骨内反または外反
- 過度の体重増加
- ガングリオン・腫瘍・浮腫・骨棘・静脈瘤などの足根管領域の病変
- 足関節の炎症や神経の障害を引き起こす全身性疾患(例:糖尿病・関節炎)
- 足根管症候群の20%-40%においては特発性です
私は姿勢や運動の観点から診ているため、歩行動作などにおける踵骨内外反や中・前足部の過回内が問題となっている場合が多いように感じます。
その他、捻挫や骨折などの既往歴も要因となっている可能性が高いため、注意深く聴取する必要があるでしょう。
症状・特徴
足根管症候群の症状には、脛骨神経・外側足底神経&/or内側足底神経分布の知覚異常(灼熱感・しびれ・うずき)が含まれます。
足関節の内側部分&/or足底の灼熱感・うずき、または痛み、ならびに内果後方の局所的な圧痛が見られる場合があります。
症状は、足関節の強制的な外転と背屈により悪化します。
内側足底神経のみ影響を受けると、患者は歩行時に足底内側に刺すような痛みを示すことがあります。
この症状は、中年以降のランナーに多く見られます。進行した場合、または慢性の場合、母趾外転筋および足趾屈筋の筋力低下を示すことがあります。より深刻なケースでは、これらの筋萎縮が見られます。
その他、起床時の足底の痛みや、長時間の歩行による悪化を呈する可能性があります。夜間就寝時には、足関節底屈・内反位になってしまうことで足根管が絞扼されてしまい症状が生じることがあります。
- 足関節内側・足底の灼熱感・痺れ・疼き
- 就寝時・起床時・歩行時の症状の増悪
- 足関節背屈・外転での増悪
- 足関節底屈・内反での増悪
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機能的診断・鑑別方法
足根管症候群は、他の下肢の症状と同様に現れる可能性があります。
中でも、最も一般的な病態は足底筋膜炎です。
これらの患者は、足底・踵の痛みも呈するため、足根管症候群との鑑別診断が必要となります。
さらに、多発性神経障害、L5・S1神経根症状、モートン病、下腿後面の深層屈筋群のコンパートメント症候群を足根管症候群から区別しなければならない場面もあるでしょう。
評価
問診
問診から既往歴を聴取することが重要です。
相手の情報を聞き出す時には、以下の内容について質問する必要があります。
- 傷害のメカニズム:外傷・過用
- 痛みと知覚異常の期間と場所
- 脱力感や歩行困難の有無
- 足関節・足部症状に関連する背中または臀部の痛みの有無
- 痛みの増悪や緩解などの日内変動
既往歴・受傷歴のなかで、特に重要なポイントになります。
- 脛骨神経の遠位枝の領域における知覚異常または灼熱感
- 長時間の歩行または立位による症状の増悪
- 異常感覚(異常で不快な感覚)は夜間に発生し、睡眠を妨げている
- 下腿・足部の筋萎縮
視診・触診
視診は、体重負荷(荷重位)および非体重負荷(非荷重位)で評価していく必要があります。
- 母趾内転筋の筋萎縮の有無
- 内側縦アーチ・横アーチ
- 距骨と踵骨のアライメント
足部・足関節だけでなく、股関節や胸郭のアライメントも確認し、身体の全体的なバランスも確認すると良いでしょう。
触診では、内果とアキレス腱の間を確認しましょう。足根管症候群の影響を受けた人の60%以上で痛みを伴います。
動作分析
主に歩行分析が重要となります。
- 接地における後足部過回内
- 立脚における中・前足部過回内
- 蹴り出しでの前足部過回内
- 蹴り出しで骨盤後方回旋による前足部剛性の低下を代償している
- 上半身重心の左右動揺の増加
上記のポイントなどに気をつけて診ていくと良いでしょう。
その他には、足関節・足部の可動範囲や足趾の筋力、足部の感覚などを評価していくと良いでしょう。
スペシャルテスト(整形外科的テスト)に関しては、こちらの記事でご紹介していますので、是非ご参照ください!
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まとめ
今回は、足根管の解剖学から、足根管症候群の症状の特徴や原因、足底筋膜炎などの鑑別の必要性を解説してきました。
腰椎神経根症状との併発(Double Crush Syndrome)が生じている場合もありますので、この病態を常に頭の片隅に置いてもらえると良いかもしれません。
また、普段から運動を定期的に行う方や、革靴を日常的に履く方では症状を引き起こす可能性が高くなります。
インソールによるアプローチも有効だと考えられますので、可能であれば治療・施術と並行して行えると良い効果が得られるのではないでしょうか。
参考文献
- Antoniadis G, Scheglmann K. Posterior tarsal tunnel syndrome: Diagnosis and treatment. Dtsch Arztebl Int. 2008; 1-5(45): 776-781.
- Hudes, K. Conservative management of a case of tarsal tunnel syndrome. J can Chiropr Assoc. 2010; 54(2): 100-106.
- Moore KL, Dalley AF, Agur AMR. Clinically Oriented Anatomy. 6th ed. Philadelphia, Pa: Lippincott Williams and Wilkins; 2010: 617-618, 666-667.
コメント
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