スポンサードサーチ
肩甲切痕の破格
今回の記事では、肩甲骨の上縁にある凹みである”肩甲切痕(Suprascapular notch:SSN)”の破格・バリエーションをご紹介します。
肩甲切痕には形態的な個人差があるとされており、肩甲上神経絞扼の危険因子となる可能性があります。この病態は稀だと思いますが、知っていて損はないと思います!
肩甲切痕の狭い形状では、肩甲上神経絞扼障害の発生率を高くする可能性があります。通常の解剖学書籍ではU字型で書かれていることが多いですが、特にV字型の肩甲切痕の場合は神経絞扼に関連している可能性が高くなります。
つまり、肩関節疾患を有する方で、頸部の問題がないのに棘上筋・棘下筋の萎縮が著名であるような場合は、肩甲切痕の形態的な問題が疑われます。
肩甲切痕5つのタイプ
肩甲切痕の最大深度・上横径・中央横径を計測し、5つのタイプに分類されています。
- 狭くて深い形状
- 幅広く深い形状
- 広くて浅い形状
- 骨孔となる形状
- 上角から凹んだ形状
それぞれの分類の発生頻度になります。
TypeⅠ | TypeⅡ | TypeⅢ | TypeⅣ | TypeⅤ |
---|---|---|---|---|
24.18% | 1.95% | 56.16% | 4.72% | 12.99% |
TypeⅢが最も一般的で56.16%、TypeⅡが最も少なく1.95%の発生頻度です。
TypeⅠ(狭くて深い形状)の発生頻度の性差は、女性(18.66%)よりも男性(28.45%)の方が高いことが研究上明らかになっています。
一方で、TypeⅢ(広くて浅い形状)は、男性(50.87%)よりも女性(63.06%)の方が高い割合となっています。
男性は女性よりも肩甲上神経絞扼障害の発生が約3~4倍高いとされているため、この特徴は特に重要であることがわかります。
形態的特徴により、上肢を動かす間、肩甲上神経は最小限の滑走運動のみを行い、上肢の運動によって肩甲切痕の狭く鋭い部分に押し付けられることが想定されます。繰り返される運動によっては神経を刺激し、肩甲骨上神経絞扼を引き起こすわずかなストレスを加えます。したがって、TypeⅠである場合、この構造の鋭い骨壁によって損傷を受ける可能性が高くなります。
男性における肩甲骨上神経障害の頻度が女性よりも高いことを説明する2番目の解剖学的要因は、上肩甲横靭帯が完全に骨化し肩甲骨の骨孔になっているTypeⅣの発生頻度が男性において有意に高いことにあります。
このような形態学的特徴も、肩甲上神経絞扼障害の重要な要因の一つであるとされていますので、非常に重要であると思われます。
スポンサードサーチ
肩甲切痕6つのタイプ
Rengachary SSらは、肩甲切痕の形態を6分類にしています。
- 上角から広く凹む形状
- 上縁1/3を占める広いV字型の形状
- 対称的なU字型の形状
- 小さく狭いV字型の形状
- 上肩甲横靭帯が部分的に骨化したU字型の形状
- 上肩甲横靭帯が完全に骨化した骨孔の形状
それぞれの分類の発生頻度になります。
TypeⅠ | TypeⅡ | TypeⅢ | TypeⅣ | TypeⅤ | TypeⅥ |
---|---|---|---|---|---|
26.4% | 17% | 40.6% | 4.7% | 2.8% | 8.5% |
最も一般的な肩甲切痕のタイプとしては、TypeⅢ(40.6%)になります。
上記の5分類と同様の結果であるため、多くの方がこれに当てはまるのでしょう。このTypeⅢが、解剖学書にも最も記載されている形状だと思います。
まとめ
肩甲切痕の破格は、上記でご紹介した以外にも細分化されています。TypeⅠやTypeⅢでは、さらに3つに分類している文献があります。
これらの破格を臨床的現場において発見することはできないため、見るべきポイントとしては棘上筋・棘下筋の萎縮だと考えています。
特に、野球やバレーボール、テニス、水泳など上肢挙上動作を頻回に繰り返すスポーツ選手において、肩関節痛を有する場合は、必ずチェックした方が良いでしょう。
ある一定期間の介入を行なってみて改善されない場合は、このような解剖学的問題が生じている可能性があるため、医師との連携が必要になってきます。
こちらの記事では、肩甲上神経の絞扼障害の原因と症状をまとめていますので、ぜひ併せてご参照ください!
スポンサードサーチ
参考文献
- Variation in morphology of suprascapular notch as a factor of suprascapular nerve entrapment:Michał Polguj, Marcin Sibiński, Andrzej Grzegorzewski, Piotr Grzelak, Agata Majos, Mirosław Topol, Int Orthop. 2013
- MORPHOLOGICAL VARIATIONS OF THE SUPRASCAPULAR NOTCH:CLINICAL RELEVANCE IN SUPRASCAPULAR NEUROPATHY VIS-A-VISOSSIFIED SUPERIOR TRANSVERSE SCAPULAR LIGAMENT:Roopali D Nikumbh, Dhiraj B Nikumbh, Anjali N Wanjari., International Journal of Anatomy and Research,Int J Anat Res 2017
- Ossification of the suprascapular ligament: A risk factor for suprascapular nerve compression?:R. Shane Tubbs, Carl Nechtman, Anthony V. D’Antoni,International Journal of Shoulder Surgery – Jan-Mar 2013
- Variations in suprascapular notch morphology and its clinical importance:Krishna Gopal, Alok Kumar Choudhary, Jolly Agarwal, Virendra Kumar, International Journal of Research in Medical Science, 2015
- SUPRASCAPULAR NOTCH VARIATIONS AND ITS CLINICAL SIGNIFICANCE:Aradhyula Himabindu, B. NarasingaRao, Nihar Sannala,Int J Cur Res Rev, Nov 2013
コメント
[…] 肩甲切痕の破格:肩甲上神経絞扼障害との関係肩甲切痕の破格・バリエーションを紹介している記事になります。さらに、上肩甲横靭帯と肩甲上神経の関係、肩甲上神経絞扼障害の原因 […]
[…] すが、この部分の形状には個人差があります。頸部の問題がなければ、もともと絞扼されやすい形状であったことが考えられます。→”肩甲切跡の破格”に関してはこちらのページです。 […]