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頸部痛を診る
頸部痛とは、少なくとも1日以上持続する片側または両側の上肢への痛みを伴う、または伴わない頸部の痛みと定義されています。
前々回の記事では2020年12月に出されたシステマティックレビューをもとに、頸部痛の分類・有病率・レッドフラッグに関してまとめてあります。
前回はその続きで、既往歴や評価項目・画像診断・予後と経過に関してまとめた記事になります。
頸部痛の治療に関するガイドラインの大半は、頸部痛患者に対して徒手療法・運動療法・患者への情報提供の組み合わせが推奨されています。
そこで今回のテーマとして、介入の方法や内容の検討をしていきます。
では早速いきましょう!
患者への情報提供
一般的なEducation(教育)という言い方が個人的に好きではないので、ここでは患者教育ではなく”患者への情報提供”という言葉で示します。
患者への情報提供をすることで、個人の健康関連行動について、情報に基づいた意思決定をすることができる可能性があります。
コクラン・レビューによると、患者教への情報提供は理学療法士と患者の間のコミュニケーションの重要な部分であると考えられています。より最近のシステマティックレビューでは、患者への情報提供だけでも、外傷の有無にかかわらず頸部痛患者に対しては他の保存的介入と比較して同等に有益であると結論づけられています。
ガイドラインで評価され推奨されている患者への情報提供は、痛みが重篤な状態ではないことを患者に安心させること、画像診断が推奨されないという情報を含む痛みと予後に関する情報を提供すること、活動的な状態を維持すること、セルフケア・エクササイズ・ストレスへに対処スキルについての提案をすることになります。
- 痛みの状態
- 経過・予後
- 画像診断は推奨されていないこと
- 活動的な状態を維持すること
- セルフケア・エクササイズ方法の提案
- 心理社会的ストレスに対処すること
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運動療法・エクササイズ
運動療法は、一般的な陸上での運動や水中での運動から、頸部に特化した持久力運動・筋力運動・ストレッチングまで多岐にわたります。
機械的頸部障害のためのエクササイズに関する最新のコクランレビューでは、呼吸方法から筋力・持久力のエクササイズまで、さまざまなエクササイズが評価されています。このレビューでは、GRADE(Grading of Recommendations, Assessment, Development and Evaluations)システムに従って、エビデンスの質が非常に低い、低い、中程度、または高いに分類されています。
運動療法に関して無治療またはプラセボと比較した場合、筋力エクササイズ、持久力運動、安定化運動は慢性頸部痛に有益であった(中程度のエビデンス)。
筋力エクササイズ、持久力のみが慢性頸部原性頭痛に有益であった(中程度のエビデンス)。
急性頸部神経根症状にはストレッチング・筋力エクササイズ・安定化運動の有益性はわずかであった(低いエビデンス)。
急性頸部痛患者におけるエクササイズを評価した研究はありませんでした。急性・亜急性の場合、人間が元来有している自然治癒力の影響もあり、ストレッチングやエクササイズによる効果の判定は非常に難しいということが考えられます。
また、慢性的な非特異的頸部痛患者においては、特定の運動が優れていることは認めらていません。
頸部痛の発生や症状の長期化には、頸部深層筋の運動制御の変化が寄与していると考えられています。
最近のシステマティックレビューではこの仮説を調査し、慢性的な頸部痛のある人に運動制御運動(すなわち、頭蓋頸部屈曲運動)が何も介入しない場合よりも効果的かどうかを評価したところ、疼痛と障害に対して臨床的に効果があるという結果が得られています。
細かいエクササイズの選定は、個人の状態に合わせる必要があります。強度が強かったり、運動方向が悪かったりすれば症状が悪化し、効果が十分に得られない可能性が高いです。
運動療法は頸部痛症状を改善するという中程度のエビデンスが存在してますので、その運動の強度や方向、姿勢、意識するポイントを個々にカスタマイズして提供することが、専門家として必要なことであると感じます。
運動療法・エクササイズは、頸部痛・頸部神経根症状を有する方に対して有益な効果を有していますが、個人の状態に適した内容で提供することが大切である。
モビライゼーション・マニピュレーション
セラピストは、脊椎の椎間関節の動きを改善し、可動域を改善させることを目的とした『徒手療法』を行うことが多いです。
徒手療法はモビライゼーションやマニピュレーションを含む様々なテクニックで構成されています。
モビライゼーションとは、患者の可動域内で、患者がコントロールできる範囲内で、低いグレード・速度、小振幅または大振幅の受動的な動きのテクニックを使用することと定義されています。
マニピュレーションとは、患者の可動域の末端付近で、患者のコントロールなしに、特定の頸椎または胸椎の分節セグメントへ局所的に低振幅・高速度の力を加えることと定義されています。
システマティックレビューでは、非特異的な頸部痛を持つ患者には頸部モビライゼーションとマニピュレーションが同等に有益であることが示されています(中程度の質のエビデンス)。
コクランレビューによると、頸部マニピュレーションは有益な効果が小さいが(低いエビデンス)、胸部マニピュレーションは有益な効果が大きい(中程度のエビデンス)ことが示されており、胸部マニピュレーションの方が頸部マニピュレーションよりも有益であることが示されています。
胸部マニピュレーションの有効性を評価した最近のシステマティックレビューでは、頸部マニピュレーションと胸部マニピュレーションを直接比較した2つの研究に基づいて、この知見を確認することはできなかった。一方、このレビューでは、胸部マニピュレーションの方がモビライゼーションと標準的な治療よりも有益であった(非常に質の低いエビデンス)。
頸部に関しては安全性を加味するとモビライゼーションを選択するべきであり、胸部へはマニピュレーションが有効である。
頸部と胸部のどちらを優先するかを考えると、胸部の方が良い結果が得られるかもしれない。
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モビライゼーション・マニピュレーション・アドバイス・エクササイズ
モビライゼーションとマニピュレーションは単独の介入として使用されることはほとんどなく、患者へのアドバイスやエクササイズ・運動療法と組み合わされることが臨床的には多いと思います。
運動療法とマニピュレーションを組み合わせた介入方法は、即時的な痛みに対しては運動療法のみの治療よりも効果的である(中程度のエビデンス)が、頸部痛を有する方々の他のすべてのアウトカムに対して効果ある訳ではないという研究結果があります。
モビライゼーション・マニピュレーションなどの徒手的介入を行うことで可動性の改善をさせること、運動療法を効率的に行うために徒手的な介入が必要であることが多いでしょう。徒手による介入を先に行うのも良いでしょうし、運動→徒手→運動と徒手の介入の前に運動を取り入れるのも、徒手の介入部分を減らすことが期待できるため良いのではないでしょうか。
マッサージ
マッサージは、筋骨格系の痛みに対する最も古くからある治療法の一つです。
マッサージによる介入は、介入しない群やプラセボ群と比較して頸部痛を有する患者に有益な効果を示すことが明らかになっています。
しかし、マッサージを行うセラピストの技術的な面が異なるため、得られうる効果に違いが生じてくるのではないかと考えられます。触れ方であったり、加える圧、動かす量、介入する範囲、介入する時間など、考慮するべきポイントが数多くあります。
個人的には、患者本人の受け手側の心理的問題、例えば「どのようなことをされるのか、という不安感・恐怖心」「セラピストのマッサージに対して不快感を抱く」場合は効果は得られにくく、時として逆効果になってしまうことも考えられます。
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まとめ
今回は、『頸部痛を診る』という題名で、3つの記事にわたりまとめてみました。
特に今回の記事では、運動療法・徒手療法のエビデンスに触れていますが、このことを全て鵜呑みにするべきではないと考えます。
そもそもの話、患者さんの状態・症状は個人差が強すぎるので、「運動療法の方がエビデンスが高いからご案内する」という考えは危険です。患者さんの状態・症状を適切に解釈し、それに対して最も効果的な介入をするべきです。
徒手の介入が必要という判断に至った時にも、「モビライゼーションよりマニピュレーションの方が有効だから、マニピュレーションを行う」と考えるのは危険です。それは、症状だけを捉えており、患者さん本人のことを総合的に考えていないからです。
私は、患者さんの状態・症状、性格、セラピストとの関係、現在の症状への把握度合いなど、それらを踏まえた上で『適切な介入方法は何か?』を考えていくように心がけています。
参考文献
- Arianne P Verhagen, Physiotherapy management of neck pain, Journal of Physiotherapy, 2021
- J.J. Wong, H.M. Shearer, S. Mior, C. Jacobs, P. Côté, K. Randhawa, et al., Are manual therapies, passive physical modalities, or acupuncture effective for the management of patients with whiplash-associated disorders or neck pain and associated disorders? An update of the Bone and Joint Decade Task Force on Neck Pain and Its Associated Disorders by the OPTIMa collaboration, Spine J, 16 (2016), pp. 1598-1630
コメント
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