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男性の尿失禁について
尿失禁というテーマは、理学療法士や施術家の頭の中に浮かぶことがほとんどないかもしれません。
尿失禁は女性の健康問題と考えられているため、男性の尿失禁は非常に軽視されている傾向にあります。
尿失禁(Urinary Incontinence:UI)は、「不随意に尿を漏らすのを訴えること」と定義されており、成人によく見られる症状で、健康に大きな影響を及ぼします。また、身体的にも心理社会的にも男性に大きな影響を与え、日常生活の質に大きな影響を与えます。
そこで今回の記事では、男性の尿失禁の有病率、尿失禁のタイプ、蓄尿と排尿のメカニズム、尿失禁症状の特徴についてまとめていきます。
尿失禁の有病率
尿失禁は、男性よりも女性に多く見られますが、成人男性の5~32%が罹患しており、年齢とともに増加します。
前立腺がんは、男性で2番目に多く診断されるがんであり、2018年には120万人以上が罹患しています。2019年にはオーストラリアをはじめとする世界の多くの国で、2番目に多いがんの死亡原因となりました。
男性は85歳までに、6人に1人の割合で前立腺がんのリスクがあると言われています。早期発見・早期治療により生存率は高く、5年後の生存率は95%になります。
前立腺がんの一般的な治療法は、根治的な前立腺切除術と放射線治療になります。
どちらの治療法も尿失禁システムに影響を与えるとされております。根治的前立腺摘除術後に尿失禁になる確率は比較的高く、その割合は2~57%と報告されています。
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尿失禁のサブタイプ
尿失禁には、3つのサブタイプがあります。
切迫性尿失禁(Urgency Urinary Incontinence:UUI)、腹圧性尿失禁(Stress Urinary Incontinence:SUI)、混合性尿失禁(Mixed Urinary Incontinence:MUI)の3つで、これらは女性と比較して男性では頻度が異なります。
女性ではSUIが最も多いですが、男性ではUUIが40~80%と最も多く、混合UIが10~30%、SUIが10%程度を占めています。
切迫性尿失禁
切迫性尿失禁とは、急に強い尿意が生じてしまい、我慢できずに漏れてしまう症状です。
膀胱が過剰に活動してしまい、自分の意思とは関係なく生じてしまいます。
尿失禁の恐れから、トイレに頻回に通ってしまうことが考えられます。いわゆる”トイレが近い”・”頻尿”の状態です。
腹圧性尿失禁
腹圧性尿失禁とは、労作時や運動時、くしゃみや咳の際に、意図せずとも尿が漏れてしまうことを言います。
運動を良くされる方、アスリートなどでも生じるとされております。恥ずかしながら私も経験があります。
一般的よく知られているような骨盤底筋群トレーニングでは、この状態を改善することが期待できるとされています。
コンチネンス
コンチネンスの維持は、膀胱・脳・筋肉・社会的状況の調整を伴う複雑な機能が必要となります。
※コンチネンスとは、日常生活の中で排泄のコントロールができている状態のことです。
膀胱は、尿を貯めたり排出したりする機能を有しています。
99%の時間を貯蔵期に費やし、腎臓から尿管を介して送られてくる尿を回収し貯蔵します。この時、膀胱は受容的に弛緩するため、圧力の上昇なしに体積を増加させています。
通常、貯蔵の段階では、痛み・切迫感・不快感などの不快な感覚は感じられません。
貯蔵の間、尿道と括約筋は閉じられており、高い排出抵抗によって尿閉が維持されます。
男性が尿閉を維持するためには、尿道内の圧力が膀胱内の圧力を上回る必要があります。
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蓄尿・排尿時の筋活動
尿道の圧力は、膀胱頸部周囲の平滑筋や骨盤底筋(Pelvic Floor Musle:PFM)、粘膜壁の弾性組織と尿道の血管系との接合によって産生されます。
筋性尿道括約筋(SUS)は、前立腺の下に位置しており、尿道の前側と外側を取り囲み、会陰中央腱と会陰筋膜に付着してオメガ形を形成しています。
収縮時は尿道括約筋群の中で最も強く、尿道と肛門の間にある筋膜と会陰体に対して、尿道を後方に引っ張ります。これに対抗して、恥骨直腸筋と球状腹膜筋が収縮し、尿道と会陰体を前方に引っ張ります。
恥骨筋は肛門挙筋の一部であり、恥骨膀胱筋・腸骨尾骨筋とともにSUSを挟みこんでいます。球海綿体筋は、上は会陰部まで伸び、下は陰茎の球を包み込むようにして、陰茎を圧迫し遠位尿道を締め付けます。
これらの骨盤内の筋肉は、協調して異なる動きをすることで、尿道圧の制御に貢献しています。
蓄尿の段階では、膀胱の排尿筋は抑制されます。
SUSは、安静時には張力が活性化され、腹圧の上昇前と上昇時には位相性の活動が観察されます。また、腹圧を上昇させる活動の際に、 球海綿体筋と恥骨直腸筋の両方が遠位から近位の順序で収縮し、尿道圧を上昇させることで尿閉を維持しています。
これらの筋機能に問題が生じる場合、尿道圧が低下してしまい尿失禁の症状を呈することが考えられます。
排尿のメカニズム
排尿は、副交感神経の制御下にある複雑な一連の末梢・中枢経路が協調して、尿道括約筋を弛緩させると同時に、排尿筋を活性化させる事で生じます。
(※排尿に関する詳しいメカニズムは、未だ明確に分かっておりません。)
満腹感は排尿の刺激となりますが、切迫感は膀胱の”苦痛”または”痛み”であると考えれば、膀胱の機能障害は心理的・社会的なものまで含めて考える必要があります。
”痛み”は、身体の危険性を高める要素があると悪化すると考えられます。
膀胱における『危険』とは、失禁したときの社会的な恥ずかしさのことを指すと考えられます。
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男性の尿失禁の特徴
尿失禁は、尿流が弱い、排尿にためらいがある、尿を漏らすなどの下部尿路症状と一緒に見られることがよくあります。
これらの症状は、膀胱コンプライアンスの変化や閉塞物の存在による尿流強度の変化によって引き起こされます。
※膀胱コンプライアンスとは、膀胱の広がりやすさのことです。
前立腺肥大症と良性前立腺閉塞は、過活動膀胱、コンプライアンス障害、切迫性尿失禁の一般的な原因です。切迫性尿失禁のその他の原因には、脳卒中や脊髄損傷などの神経学的原因による二次的な神経因性膀胱があります。一般的には、前立腺肥大による膀胱の過活動、およびorまたは膀胱出口の閉塞と関連しています。
尿流動態検査では、膀胱充満期に不随意な膀胱収縮が認められますが、この膀胱収縮の原因は分かっていません。尿路からの求心性の感覚信号の問題、脳での処理の問題、あるいは膀胱筋での一次的な問題があると考えられています。
男性の尿路性器機能障害は、前立腺を中心とした視点で捉えられてきました。原因の多くは前立腺に遡ることができますが、他のシステムも考慮する必要があります。膀胱機能障害は、ライフスタイル・加齢・神経疾患などが原因となることもあります。
例えば、「念のため」に膀胱を空にするなどの行動は、膀胱に尿が溜まっていないのにも関わらず排尿することになるため、膀胱に尿を貯めなくなってしまいます。これを繰り返していると、膀胱に貯める事ができなくなってしまうので、切迫性尿失禁の症状を惹起しやすいと考えられます。
その他、水分の摂取、カフェインやアルコールの摂取、喫煙や肥満などの生活習慣に影響されます。
切迫性尿失禁の場合は、膀胱にしっかりと貯まってから出すことを練習する必要があります。腹圧性尿失禁の場合は、骨盤底筋エクササイズや腰部・骨盤帯・股関節のエクササイズを行う必要があるでしょう。
こちらの記事では、一般の方に向けた骨盤底筋エクササイズの方法をご紹介していますので、ぜひご参照ください。
参考文献
Physiotherapy management of incontinence in men :Irmina Nahon, Journal of Physiotherapy, 2021
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