肩甲背神経の機能解剖:肩甲背神経障害の原因と症状

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肩甲背神経

肩甲背神経は、腕神経叢(C4,5/6)から肩甲骨中部にかけて走行している神経であり、肩甲骨レベルの背中上部〜中部の感覚や肩甲挙筋や菱形筋の運動に関与する神経です。

肩甲背神経の走行(側面)

片側の肩甲骨と胸椎の間の痛みを有する方では、頸椎・胸椎の椎間板性疼痛や椎椎間関節性疼痛、肋椎関節インピンジメント、肩甲挙筋症候群、菱形筋・僧帽筋の筋筋膜性疼痛の他に、今回ご紹介する肩甲背神経障害が考えられます。
肩甲背神経障害の兆候や症状は、頸背部・腋窩部・上腕後外側部の痛み、菱形筋の萎縮に伴う翼状肩甲(winging)などがあります。

肩を押さえる女性の写真

臨床において肩甲骨周囲の痛みを訴える方は少なくなく、レッドフラッグを除外した後にどのように評価・介入を進めていくのか、かなり悩ましい部分になるかと思います。

そのため、肩甲背神経の解剖学、肩甲背神経障害の病態も把握しておくことは評価・鑑別の一助になると考えております。

今回の記事では、肩甲背神経の解剖学(起始・走行)と肩甲背神経障害による症状をまとめていきます。

解剖学:起始と走行

肩甲背神経の起始は、C4・5が最も多いと考えられています。バリエーションとしては、C6から始まることもあるそうです。

肩甲背神経は、中斜角筋を神経支配することなく、中斜角筋のすぐ斜め下を走行していきます。その後、僧帽筋上部(内側)と肩甲挙筋(外側)の間を、下方わずかに外方に向かって走行します。そして、肩峰に向かって横方向に曲がりながら、僧帽筋上部の深層を通過し、大・小菱形筋(腹側)と上後鋸筋(背側)の間を走行します。肩甲背神経の主幹は、肩甲骨内側縁の内側を肩甲骨下内側に向かって、通常はTh7棘突起レベルまで走行します。

肩甲背神経の走行(背面)

走行まとめ

中斜角筋のすぐ斜め下を走行

僧帽筋上部と肩甲挙筋の間を外下方へ走行

肩峰に向かって僧帽筋上部の深層を通過

菱形筋群と上後鋸筋の間を走行

肩甲骨内側縁下部に向かって肩甲骨〜胸椎の間を走行

走行のバリエーションとしては、中斜角筋を貫通したり、中斜角筋の前後を通過したり、中斜角筋と後斜角筋の両方を貫通したりします。また、肩甲挙筋も貫通していることもあるそうです。

走行バリエーション

  • 中斜角筋を貫通
  • 後斜角筋を貫通
  • 中斜角筋の前後を通過
  • 中斜角筋と後斜角筋の両方を貫通
  • 肩甲挙筋を貫通

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機能

肩甲背神経の主な機能は、肩甲骨を後退(リトラクション)・挙上・安定させる大菱形筋・小菱形筋を支配することです。

また、肩甲挙筋を支配していることもあります。肩甲挙筋は肩甲骨を挙上・下方回旋させ、後退させる作用も有します。また、呼吸機能不全がある場合、呼吸補助筋として代償的に活動するかもしれません。肩甲背神経に支配されない場合、頸神経叢により支配されていると考えられます。

肩甲背神経の神経支配のバリエーションとしては菱形筋群+肩甲挙筋が一般的ですが、肩甲挙筋だけが支配されていることもあるそうです。この文献では、菱形筋群が何の神経に支配されているかが言及されていないため、その点を踏まえると信頼性は低いかもしれませんが、そういうこともなきにしもあらずかなと考えます。

その他には、上後鋸筋を支配する枝の走行が確認されています。基本的に、上後鋸筋は肋間神経に支配されており、呼吸機能を有しているといわれていますが、もし仮に肩甲背神経が神経支配していたら呼吸や胸椎椎間関節の何らかの機能不全を代償するために、菱形筋群や肩甲挙筋などが過剰に活動してしまうかもしれません。

そして、肩甲背神経は運動線維のみならず、Th5・6レベル肩甲骨〜胸椎の間の小領域における感覚線維もあるとされています。これにより、肩甲骨内側領域の痛みや異常感覚などの症状を引き起こすかもしれません。

疫学と病因

筋骨格系の胸背部痛は、一般の方においても意外と多く見られます。私自身、臨床現場では月に1,2回は遭遇します。

胸背部痛の生涯有病率は15.6〜19.5%とされており、特に女性に多いとされています。日常生活においては、リュックサックの重量や使用に伴う姿勢の変化、特定のスポーツへの参加、デスク周囲の環境、作業時の姿勢などが関連因子として考えられます。

スポーツではバレーボールのアタッカーや、ウエイトリフティングの選手などで確認されています。どちらも頭上において大きな負荷が加わるため、肩甲背神経の伸張ストレスが加わることによって障害が引き起こされてしまうと考えられます。また、作業時の不良な座位姿勢に関しても、日々繰り返される持続的な伸張ストレスが影響していると考えられます。

肩甲背神経の圧迫・伸張に起因する痛みや機能障害は比較的稀であると考えられていますが、そもそも胸背部痛における鑑別診断の中に考慮されていない場合が多いのかもしれません。

Sultanらによると、胸背部痛を有する方を対象した評価・鑑別において、肩甲背神経障害の割合は約半数であることが報告されています。つまり、比較的稀な症状なのではなく、むしろ比較的多くの方に該当しているのかもしれません。もしくは、頸部・肩甲帯の機能不全の随伴症状として、肩甲背神経障害が生じているのかもしれません。

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症状

肩甲背神経障害の症状を以下にまとめます。

症状

  • 菱形筋群や肩甲挙筋の萎縮
  • 菱形筋群や肩甲挙筋の筋力低下・脱力感
  • 頸部痛
  • 胸背部痛
  • 腋窩部痛
  • 胸壁外側部痛
  • 上腕後外側部痛
  • 前腕後外側部痛
  • 肩甲骨内側の異常感覚
  • 頸椎同側回旋・反対側側屈の可動域制限
  • 頸椎屈曲・伸展・同側側屈に伴う痛みの増悪
  • 胸椎棘突起・椎間関節での圧痛
  • 肋横突関節での圧痛
  • 翼状肩甲

未だはっきりとしていませんが、肩甲上神経障害の随伴症状を有する症例が2例確認されています。
それぞれ、棘上筋、棘下筋、菱形筋に慢性的な神経原性変化があることが筋電図で確認されました。僧帽筋、三角筋、前鋸筋は特に問題がなかったことから、肩甲背神経障害と肩甲上神経障害の併発、あるいは肩甲上神経の解剖学的変異(破格)による菱形筋の神経支配などが考えられます。

今後、この症状が明確になるかもしれません。

肩甲上神経障害に関しては、こちらの記事をご参照ください。

参考文献

  1. Brad Muir, Dorsal scapular nerve neuropathy: a narrative review of the literature, J Can Chiropr Assoc 2017; 61(2)
  2. Sultan HE, El-Tantawi GA. Role of dorsal scapular nerve entrapment in unilateral interscapular pain. Arch Phys Med Rehab. 2013;94(6):1118-1125.
  3. Briggs AM, Smith AJ, Straker LM, Bragge P. Thoracic spine pain in the general population: prevalence, incidence and associated factors in children, adolescents and adults. A systematic review. BMC Musculoskel Dis. 2009;10(1):77.
  4. Ravindran M. Two cases of suprascapular neuropathy in a family. Br J Sports Med. 2003; 37:539-541.

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