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ハムストリング
ハムストリングは、半腱様筋・半膜様筋・大腿二頭筋を併せた総称になります。
臨床的には、ハムストリングが短縮している・緊張が高くなっている場面に遭遇することが多いと思います。
ここで一度考えていただきたいのが、『なぜハムストリングの緊張が高くなってしまうのか?』『なぜハムストリングを短縮させて使用しているのか?』という事柄です。
”ハムストリングは硬くなりやすい悪いヤツ”みたいに捉えられやすいですが、実際にはすごくいいヤツで、機能的なのではないでしょうか?
ハムストリングを使うことは身体にとってメリットがある、身体を楽に動かせるようになるから、ついつい頼ってしまう部分なのではないでしょうか?
そんなことを考えながら私は日々臨床にあたっております。
そこで今回の記事では、ハムストリングの付着部から考える関節の安定化作用に関してまとめていきます。
膝関節の安定化
ハムストリングの付着部は脛骨・腓骨にあり、膝関節を跨いでいます。
そのため、ハムストリングを使用することで、膝関節を安定させることができます。
特に膝関節を大腿脛骨関節として考えれば、半腱様筋・半膜様筋の機能は膝関節安定性に大きく貢献していると考えられます。
ここでは、半腱様筋・半膜様筋は膝関節を屈曲させる機能だけではなく、脛骨を後方に引く作用として解釈し話を進めていきます。
膝前方支持組織の安定化
半腱様筋・半膜様筋が収縮し脛骨が後方に変位すると、膝関節前面の静的支持組織である内側・外側膝蓋支帯が伸張されるため、膝関節の安定化に寄与すると考えられます。
静的支持組織である膝蓋支帯の張力が高まれば、少しの刺激に対しても求心性フィードバックの情報が入っていきます。
逆の考え方をすると、膝関節を安定させようと内側・外側膝蓋支帯の張力を利用するために、半腱様筋・半膜様筋を使用しているとも考えられます。
しかし、膝蓋支帯の張力が高くなり過ぎれば、そのエラーを痛みとして脳に伝達することが考えられます。
内側膝蓋支帯・外側膝蓋支帯はそれぞれ、内側広筋・外側広筋からの付着を有しています。
内側広筋や外側広筋の活動を促すと膝関節前面の痛みが取れる場合がありますが、それは膝蓋支帯の張力を補完することができた為とも考えられますね。
広筋群の機能低下がある場合、上記のメカニズムで膝関節前面の痛みが生じることは念頭に置いておくと良いのではないでしょうか。
また、膝蓋靭帯の張力にも影響することが考えられるので、その深層に存在する膝蓋下脂肪体にも影響が及ぶ可能性もあります。
膝後方支持組織の安定化
半膜様筋腱は、斜膝窩靭帯や膝窩筋に線維が入り込んでいます。
そのため、これらの機能を補完し、膝関節後方の安定化をサポートする意味でも半膜様筋が使われることが考えられます。
膝関節後方における固有受容感覚のフィードバックが入りやすくするために、半膜様筋の緊張を高めているということです。
「膝窩筋の機能が〜」と考える前に半膜様筋の状態、そして膝関節前面の機能的な問題にも目を向ける必要がありそうです。
半腱様筋・半膜様筋の緊張
↓
脛骨後方変位
↓
膝蓋支帯の張力増加
&/or
膝蓋靭帯の張力増加
↓
膝関節前面の安定化
※広筋群の代償としてこのメカニズムを使用する
※膝蓋支帯・膝蓋下脂肪体の痛みが生じる可能性あり
※膝関節後面の機能代償の結果として前面の問題を引き起こす可能性あり
半膜様筋の緊張
↓
膝窩筋・斜膝窩靭帯の機能を補完
↓
膝関節後面の安定化
※膝窩筋の攣縮を引き起こし機能不全につながる可能性あり
※膝関節前面の機能代償の結果として後面の問題を引き起こす可能性あり
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仙腸関節の安定化
ハムストリングの付着部は坐骨結節にあります。
ハムストリングを使用することで、仙骨と坐骨結節を結ぶ靭帯である”仙結節靭帯”を介して、仙腸関節の安定化に影響を与えると考えられます。仙結節靭帯は強靭であり、仙腸関節を安定させるために大きく貢献しています。
ハムストリングの中でも、特に大腿二頭筋が仙結節靭帯と関係しています。
先ほども記載しましたが、静的支持組織の張力を高めることは、求心性フィードバックを効率的に作用させることができます。
大腿二頭筋が収縮すると寛骨は後傾し、坐骨結節が下方に変位します。この時、仙結節靭帯の張力は増加し仙腸関節を安定させることできます。
起立筋群・大腿直筋・大腿筋膜張筋・腸骨筋の作用により寛骨が前傾してしまう場合、坐骨結節が上方に変位することになります。
この時、仙骨と坐骨結節の距離は短くなってしまうので、靭帯の張力は減少してしまいます。仙結節靭帯に限らず後面の静的支持組織は弛緩し、仙腸関節の不安定性を引き起こしてしまうでしょう。
このように寛骨が前傾してしまうのに対して、仙腸関節を安定させるためにハムストリング(特に大腿二頭筋)が代償的に緊張することが考えられます。
大腿二頭筋の緊張
↓
坐骨結節を下方に引く
↓
仙結節靭帯の張力を増加
↓
仙腸関節の安定化
※寛骨を前傾させる筋の過緊張により、代償的にハムストリングを使用する可能性あり
ハムストリング短縮の考慮点
上記のことを考慮すると、ハムストリングは膝関節や仙腸関節の安定化に一役買っています。
ハムストリングの硬さ・短縮が悪影響となり症状を引き起こしている場合、それは二次的なものだと私は考えております。
関節の安定化のためにハムストリングを持続的に収縮させていることになりますので、上記の状況が長期化すれば筋を短縮させた方が効率良く関節を安定させることが可能になります。
そのため、膝関節・仙腸関節が不安定になっていないか評価し、その部分へ介入しない限りはハムストリングの緊張・短縮を改善することはできないでしょう。
仮に、ハムストリングのストレッチをして一時的に効果が見られても、時間が経てば症状が再発したり、違った症状・代償を引き起こす可能性すらあります。
ハムストリングの伸張性に関するスクリーニングとしては、SLRの角度や前屈などで簡単に評価できます。
今回まとめた内容を考慮し介入した結果、アウトカムの変化が得られない場合は、ハムストリングの伸張性へ介入しながら同時並行で他部位への介入をしていくべきかもしれません。
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まとめ
ハムストリングに限らず、筋を緊張させる・短縮させるのには、身体に何かしらのメリットがあるためだと考えるのが良いでしょう。
そのメリットとしては、”楽に動ける”・”効率的に力を発揮できる”・”関節を安定させることができる”などが考えられます。
しかし、その一部分だけに頼りきってしまうことが、筋や関節に負担をかけることにつながり、機能不全・障害へと発展してしまうのではないでしょうか。
一部分の筋だけではなく、他の筋を活性化させることができ、協力しながら姿勢・動作を行うことができれば、それに越した事はありません。その方がより効率的で、身体にはたくさんのメリットがあるはずです。
しかし、それが徐々にできなくなってしまうのは、日常の過ごし方や姿勢や動作のパターンが決まってしまう事が影響しているのでしょう。
我々専門家は、姿勢や動作を特定のパターンに当てはめるよりも、多様性を促すことが必要だと考えます。
同じ類の記事で、大腿筋膜張筋の過緊張に関する内容をまとめていますので、こちらも併せてご参照ください。
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