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大腿骨大転子疼痛症候群(GTPS)とは?
今回は、大腿骨大転子疼痛症候群(Greater Trochanter Pain Syndrome:GTPS)(別名Greater Trochanteric Bursitis / Gluteal Tendinopathy)の病態と評価方法についてご紹介いたします。
GTPSは、大転子周囲に持続的な痛みが生じ、多くの場合は股関節外側領域にて圧痛を感じる一般的な病態です。
あまり聞きなれない疾患名かと思いますが、臨床的には意外と多いかもしれません。
股関節の外側の痛みや太もも外側の痛みの症状を訴える時に、鑑別の中で一つの可能性として含めていただけると良いかと思います。
GTPSの病態
GTPSは、大腿骨大転子・中殿筋・小殿筋・腸脛靭帯などの構造を含む、大転子周囲の多くの障害に起因する慢性的な局所の痛みを呈します。
股関節周囲の殿筋腱損傷(腱症)と滑液包炎(滑液包の炎症)の組合せで生じる病態です。
以前は、大転子滑液包炎は主要な痛みの原因とみなされておりましたが、最近の研究では大転子滑液包炎よりも、中殿筋・小殿筋の腱症が股関節外側部痛の主要な原因であることを示しています。
毎年人口1000人当たり1.8例の発生率であり、股関節痛を呈している患者の10-20%の股関節痛の原因と考えられています。
女性やITBの疼痛を持つ成人、もしくは変形性膝関節症の方は、より高いGTPSの有病率がある可能性があります。大部分は40歳〜60歳で発生することが多いです。
また、長距離ランナーの多くは、この症候群になる危険性が高いです。
皆様が診ている方の中にも、実はこの病態に当てはまる方はいるのではないでしょうか?
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股関節外側の解剖
小殿筋、中殿筋、大殿筋そして大腿筋膜張筋の腱が大転子に付着します。
外側広筋は、大転子上に若干の線維を持つため、上記の筋肉に加えGTPSに影響すると考えられます。これらの筋肉の収縮により、大転子領域で多くの摩擦が発生することが考えられます。
歩く・走る動作を行うとき、ITBは前後に多く移動します。
股関節を屈曲させるときは、大腿筋膜張筋は収縮して、大転子上でITBを前方に引きます。反対に、股関節を伸展するときは、大殿筋の収縮によりITBは後方に引かれます。
大転子領域の摩擦は、3つの主要滑液包(大転子包・下中殿筋包・下小殿筋包)によって吸収されます。
これらの滑液包は個々によってのバリエーションが豊富で、滑液包の位置・数・大きさなどはそれぞれ異なります。これには、スポーツ競技の特異性や、日常生活の中で身体にかかる負担の違いが関係していると考えられます。
GTPSの病因
GTPSの主因が、股関節外転筋の腱の病因であることが発見されています。
これには、中殿筋だけでなく小殿筋・大腿筋膜張筋・外側広筋が影響を与えます。
これらの筋・腱は、後に滑液包の二次的炎症を招く炎症を引き起こす可能性があります。腱の病理として、腱の断裂または炎症による痛みを生じさせ、やがて腱は変性して脆弱になっていきます。
もう一つの要因は、大転子上を走行する腸脛靭帯にあります。腸脛靭帯の緊張により、殿筋腱と関連した滑液包に炎症と過敏性を生じさせる可能性があります。
・長期間にわたる股関節領域の圧迫
・反復運動(歩行/走行)
・不慣れな活発な運動の開始
・長時間の片脚の体重負荷
・股関節不安定性またはスポーツでの損傷の結果
これらの要因が、GTPSに関係しているかもしれません。
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GTPSの症状
GTPSの主要な症状は、大腿外側に沿った痛みと圧痛があります。
痛みは大腿外側と下臀部で放散する可能性がありますが、まれに大腿後面もしくは膝の遠位まで放散することもあります。
自動的・他動的・抵抗下での、股関節外転と外旋の運動による症状の再現性があります。
・夜に患側を下にして寝ていると痛みが増悪する
(患側を上にして寝ていても、骨盤の形状により股関節外側にかかる負担は増加し、痛みを訴えるかもしれない)
・長期間の座位・立位保持
・足を組んだ座位
・体重支持活動後の痛み
・歩行や走行などの反復動作
・股関節周囲筋の筋力低下
GTPSの3つの評価方法
ジャンプサイン
側臥位にて、大転子直上および上後縁の領域に圧痛点がある場合、GTPSである可能性があります。
83%の陽性適中率(PPV)(陽性のMRI所見)をもたらし、触診により痛みがみられない場合、患者はGTPSではない可能性が高くなります。
Single Leg Stance
- 非罹患側の下肢を持ち上げ、30秒間の片脚立位を評価します
- どんな痛みでも生じれば、伝えてもらうように指示します
- 疼痛がそれぞれ、0-5秒、6-15秒、16-30秒のどの範囲で見られたのかを記録します
- 同側への体幹の外側変位には注意しましょう
感度・特異度ともに高い値を示しており、陽性尤度比(LR+)も37.0であるため、片脚立位テストのみでもGTPSの診断としては有用であるといえます。
Resisted External Derotation Test
- 背臥位にて股関節・膝関節を90°屈曲させ股関節外旋位にします
- セラピストは、疼痛が和らぐまで股関節の外旋を緩めます
- 患者は、抵抗に抗して中間位に戻すよう内旋方向に自動で動かします
- 疼痛が再現されれば陽性です
- もし陰性であれば、患者を腹臥位で膝関節90°屈曲させ、内旋の抵抗運動を同様に評価しましょう
こちらのテストも、陽性尤度比(LR+)は32.6と高値であるため、GTPSの診断として有用であります。
3つの評価のまとめ
GTPSのための単一の臨床テストの有効性は不足していると考えられるので、テストを組合せて使用することが診断の正確性を増加させることができます。
直接の触診と片脚立位テストで十分ではありますが、さらに3つ目のResisted External Derotation Testも実施するとより信頼性は高くなるでしょう。
その他にも、FABER Test、Faddir Test、IROP Test、Impingement Provocation Testなどの評価とも組み合わせて考慮していくと良いでしょう。
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股関節外側の触診
大転子の触診ポイントをまとめていきます。
中殿筋は大転子の上後縁に付着し、小殿筋は大転子上前縁に付着しています。
大転子の直上には大転子滑液包が存在しており、表面は腸脛靭帯に覆われています。
- 後縁:中殿筋
- 前縁:小殿筋
- 上縁:腸脛靭帯
- 直上:大転子滑液包
上記ポイントで圧痛が確認できた場合、それぞれの要因になります。
さらに、筋腹部分の圧痛や収縮時痛も含めて、総合的に評価すると良いでしょう!
まとめ
以下、GTPSのまとめになります。
・睡眠姿勢や座位姿勢、立位・歩行における反復運動が影響している可能性がある
・大転子の圧痛や片脚立位の評価、股関節の評価で症状が再現される
治療の方針としては、まず痛み原因となる筋の緊張緩和を行い、後にその筋に影響を及ぼす他の部分へのアプローチを行なっていく必要があります。
人それぞれ発生要因や生活習慣が違うため、それぞれの状態にあった治療展開を行なっていくと良いでしょう。
股関節・大腿外側部痛の鑑別評価方法に関しては、こちらの記事で解説していますので、併せてご参照ください。
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参考文献
- Gomez LP, Childress JM. Greater Trochanteric Syndrome (GTS, Hip Tendonitis). InStatPearls [Internet] 2020 May 6. StatPearls Publishing.Available from:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK557433/ (last accessed 14.6.2020)
- Williams BS, Cohen SP. Greater Trochanteric Pain Syndrome: A Review of Anatomy, Diagnosis and Treatment. International Anesthesia Research Society. 2009;108(5):1662-1670.
- Lin CY, Fredericson M. Greater Trochanteric Pain Syndrome: An Update on Diagnosis and Management. Curr Phys Med Rehabil Rep. 2015;3(1);60-66.
- Grimaldi A, Mellor R, Hodges P, Bennell K, Wajswelner H, Vicenzino B. Gluteal Tendinopathy: A Review of Mechanisms, Assessment and Management. Sports Med. 2015;45(8):1107-1119.
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