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FAI症候群
Femoroacetabular impingement(FAI)症候群は、寛骨臼と近位大腿骨の間の早期接触を含む、股関節の運動関連の臨床障害であり、特定の症状・臨床徴候・画像所見を示します。
この異常な接触の結果として、変性や変形が長期に渡って発症する可能性があります。
FAI症候群には、『Cam Type』『Pincer Type』の2つのタイプがあり、さらにその2つが合わさった『Mixed Type』の計3種類のタイプがあります。
Cam Type
Camの形態は、大腿骨頭頸部の平坦化または凸状を表します。
通常は、大腿骨頸部が凹んでおり、大腿骨頭が寛骨臼内を潤滑に動くことができますが、Camが存在することによって寛骨臼側の関節軟骨は損傷・摩耗してしまうことが考えられます。
関節軟骨の損傷は、関節唇の断裂・損傷を引き起こしてしまいます。
この形態は男性においてよく見られます。
Pincer Type
Pincerの形態は、寛骨臼縁において大腿骨頭を被覆している部分が過剰になっている状態を表します。
つまり、大腿骨頭が寛骨臼の中に深くはまり込んでいる様な状態です。
股関節の運動に伴いインピンジメントが発生しやすくなりますので、これによって関節唇損傷を引き起こしてしまいます。
関節唇の変性が進行すると骨化が生じてしまうため、大腿骨頭に寛骨臼がさらに覆い被さるようになり、インピンジメント症状は増悪してしまいます。
この形態は女性でより一般的です。
Mixed Type
FAI患者の推定85%がMixed Type、つまりCamとPincerの両方が存在すると言われています。
これらの形態学は、股関節の症状のない人も含めてかなり一般的(一般人口の約30%)と考えられています。
そのため、FAI症候群であっても症状がない・気づかないことが多いということです。
多くの方が、インピンジメント様症状を感じ始めて、ようやくご自身の身体に違和感を感じることとなるでしょう。
FAI症候群の疫学
Raveendranら(2018)は、男性の25%・女性の10%が少なくとも1つの股関節にCamの形態を持っていたのに対し、男性の6~7%・女性の10%がPincerの形態を示したことを明らかにしました。
このように、Cam Type または Pincer Typeのどちらか一方の場合であると、FAI症候群の診断には不十分だと考えられます。
どちらのタイプの形態も、運動中に寛骨臼縁と大腿骨頭の間にインピンジメントが起こることで関節軟骨と滑膜の損傷を引き起こし、それが起因となりFAI症候群の症状を引き起こす可能性があります。
CamやPincerの形態が無症状の人にも見られることを考えると、骨以外の他の構造の要因がFAI症候群に関与している可能性があります。
股関節深部の筋力低下は、股関節の安定性を損なうだけでなく、股関節の可動部分の過負荷につながる可能性があります。
その結果、大腿骨頭が前方変位してしまい、寛骨臼に対する負荷はさらに増加する可能性があります。
このような股関節に加わる繰り返しの負荷は、サブスタンスPなどの神経伝達物質の産生を通じて、その構造の侵害受容体のアップレギュレーションにつながる可能性があります。
※Up-Regulation:アップレギュレーション
神経伝達物質やホルモンなどへの応答能が増大することです。
それらの物質や信号が減少することで、受容体の数が増加したり、感受性が過敏になったりして生じます。
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FAIの要因
Chaudhry and Ayeni (2014)が行ったシステマティックレビューによると、FAI症候群の病因は多因子性である可能性が高いです。
- FAIに関連した形態の放射線学的所見が兄弟姉妹に認められること
- 男性ではCamが多い
- 女性ではPincerが多い
小児期および青年期など発の育期においては、股関節の反復的かつ生理学的範囲を超えた股関節の屈曲・回旋ストレスを受けてしまいます。
(例として、ホッケー・バスケットボール・アメフトなどのスポーツ活動では特に生じます。)
このタイプの繰り返し加わるストレスは、適応するためにリモデリングをする引き金となり、最終的にはFAIに関連した形態や症状の発生につながる可能性があります。
FAIの症状
FAI症候群が疑われる患者は、一般的に股関節周囲のこわばりと股関節・鼠径部の痛みを訴えます。
FAIによる疼痛は、加速を必要とするスポーツだけでなく、しゃがんだり、階段を登ったり、長時間座ったりすることで悪化することが一般的であるとされています。
変形性股関節症にまで進行している可能性があるFAIでは、この病態に典型的な徴候や症状が確認されることがあります。
2016年に発表されたFAI症候群に関するWarwick Agreementでは、著者らはFAIの診断には症状・臨床所見・画像所見の特定の三要素が必要であると指摘しています。
- 特定の動作や体位に関連した鼠径部の痛み(股関節の痛み)
- 大腿部、背中、臀部にも痛み生じることがある
- 股関節周囲の筋の過緊張
- 股関節可動域制限
- 股関節運動時のクリック・キャッチング・ロッキング
- 歩行時の膝くずれ
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FAIの予後
FAI症候群の治療を受けた患者は、症状が改善されたという多くの報告があり、通常の日常生活に戻ることができます。
しかし、長期的な予後は不明であり、FAI症候群の治療が股関節OAの発症を予防するかどうかも不明であるというのが現状です。
Warwick Agreementの著者によると、治療を行わない場合だと、FAI症候群の症状はおそらく悪化するとしています。
まとめ
股関節の画像所見上では、FAI症候群が見受けられることが多いかと思います。
普段の生活において症状を感じていない人でも、股関節へストレスを加えた際にはインピンジメント症状を呈することもあります。
腰痛や下肢疾患の方であれば、股関節の評価を行う際にはFAIに引っかかる所見がないかを確認し、それに対するセルフエクササイズ等をご案内できると良いのではないでしょうか。
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参考文献
- Griffin DR, Dickenson EJ, O’Donnell J, Agricola R, Awan T, Beck M et al. The Warwick Agreement on femoroacetabular impingement syndrome (FAI syndrome): an international consensus statement. Br J Sports Med. 2016; 50(19):1169-76.
- Raveendran R, Stiller JL, Alvarez C, Renner JB, Schwartz TA, Arden NK et al. Population-based prevalence of multiple radiographically-defined hip morphologies: the Johnston County Osteoarthritis Project. Osteoarthritis Cartilage. 2018 Jan;26(1):54-61.
- Casartelli NC, Maffiuletti NA, Bizzini M, Kelly BT, Naal FD, Leunig M. The management of symptomatic femoroacetabular impingement: what is the rationale for non-surgical treatment? Br J Sports Med. 2016 May;50(9):511-2.
- Diamond LE, Dobson FL, Bennell KL, Wrigley TV, Hodges PW, Hinman RS. Physical impairments and activity limitations in people with femoroacetabular impingement: a systematic review. Br J Sports Med. 2015 Feb;49(4):230-42.
- Frangiamore S, Mannava S, Geeslin AG, Chahla J, Cinque ME, Philippon MJ. Comprehensive Clinical Evaluation of Femoroacetabular Impingement: Part 1, Physical Examination. Arthrosc Tech. 2017 Oct 30;6(5):e1993-e2001.
コメント
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