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上腕骨外側上顆炎
上腕骨外側上顆炎は、特に短橈側手根伸筋や総指伸筋といった手関節背屈・手指伸展に関与する前腕伸筋群の過使用・オーバーユースによって引き起こされる病態です。
一般的にはテニス肘と言われ、テニスのバックハンドで問題が生じる可能性の高い病態とされていますが、手関節・手部を頻回に使用する家事動作でも痛みを生じさせることがあります。整形外科クリニック内で診ていると、思いのほか後者の方が多いかもしれません。
注射を打ち炎症を落ち着かせることで疼痛軽減を目指すこともありますが、その中でも疼痛が再発してしまう症例がおられます。注射に関してとやかく言うことはないのですが、やはり上肢帯の機能改善は必須だと考えられます。
上肢帯、つまり肩甲帯〜手指にかけての機能不全をすることで、現在の上腕骨外側上顆周囲の症状を改善するだけでなく、今後もしかしたら生じるかもしれない上肢痛を回避・予防できるかもしれません。
簡単そうにみられがちなこの症状、意外と難しい症例・疼痛が長引きなかなか改善していかない症例は多く、毎度アプローチ方法に悩んでいます。
今回の記事では、上腕骨外側上顆炎の基本的な評価・介入についてよりも少し踏み込んで、運動連鎖を加味した胸郭・上肢帯との関係性から考えてまとめていきます。
基本的な評価
・Middle Finger Test(ミドルフィンガーテスト)
短橈側手根伸筋や総指伸筋にストレスをかけることで疼痛を誘発していきます。
上腕骨外側上顆炎の場合、この内どちらかor両方において疼痛を認め、テストは陽性となります。
その他、手関節掌屈で伸張されることによっても疼痛誘発される場合や、手指を握り込むことで前腕周囲筋が同時収縮し疼痛誘発される場合があります。
また、前腕回外による疼痛誘発も起こりうることがあります。回外筋も上腕骨外側上顆に付着していることから、求心性収縮によりストレスが加わるのだと考えられます。
・手指屈曲時痛(握り込む動作)
・前腕回外動作
前腕回内・回外、手関節掌屈・背屈、手指伸展の可動性も評価していくことが大切です。前腕屈筋群の緊張が高いために、前腕伸筋群の緊張が上がっている可能性もあります。
この場合、前腕伸筋群のマッサージやストレッチをしても症状は変わらないため、それより前に前腕屈筋群に対して介入する必要があります。
ただし、症例の多くは「力を入れるときに痛む」ため、上肢帯の安定性の機能不全が問題となっている可能性を忘れてはいけません。
安定性に対する介入をしなければ、一時的に可動性が改善したとしてもすぐに元に戻ってしまい、症状が再発してしまうと考えられます。
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肩甲帯との関係
肩甲帯が関係してくる場合を考えていきます。
上腕骨外側上顆炎への評価・介入として、『上腕三頭筋』の機能は考慮すべき重要なポイントとなります。
上肢帯や肩甲帯の安定化、上腕後面〜前腕後面の筋・筋膜の繋がり、肘関節伸展・前腕回内の作用など、非常に大きな影響を与えています。
・上肢帯・肩甲帯の安定化
・上腕後面〜前腕後面の筋筋膜の繋がり
・肘関節伸展+前腕回内作用
特に上肢のリーチ動作については考えていきたい内容になります。リーチ動作において、上腕三頭筋は遠心性収縮をしながら動作を遂行していきます。
この時に肩甲帯が前傾・内旋していると、上肢帯にかかるトルク・力のモーメントが増大するため、肩関節・肘関節へのストレスは増大し、当然ながら筋へのストレスも増大します。
また、筋を過活動・過緊張させることで、関節へのストレスを緩衝する代償を選択をしているのかもしれません。
ここでのキーワードは、肩甲帯のアライメント、上肢帯へのトルク・力のモーメントです。
肩甲帯の静的アライメントが外転・前傾・内旋している場合は、前鋸筋や僧帽筋下部・菱形筋など肩甲帯安定化筋の機能低下が考えられます。
特に僧帽筋下部・菱形筋を活性化させるためには、上腕三頭筋がアンカーとなり関節窩側を安定させておく必要があります。これらを機能させることで、肩甲帯の内転・後傾・外旋を獲得することが可能となります。
ここまでをまとめると、外側上顆炎を改善させるためには上肢帯へのトルクを考える必要があり、それには肩甲帯のアライメント、肩甲帯安定化筋の機能(前鋸筋・僧帽筋下部・菱形筋)、肩甲帯安定化筋の作用を補助する上腕三頭筋の機能を包括的に捉える必要があるということになります。
・前鋸筋・僧帽筋下部・菱形筋の機能(肩甲帯安定化)
・上腕三頭筋の機能(肩甲帯安定化の補助)
手指との関係
Middle Finger Testがあるように、特に中指は1番長いため外側上顆にストレスがかかりやすいです。先ほどの話で言えば、負荷のかかる場所が最も遠い部分になるので、その分少ない力でもトルクは増すことになります。
このことを踏まえると、中指の機能は考慮するべきポイントになります。その隣の環指も考慮していきたいです。(示指には示指伸筋があるため、ひとまず横に置いときましょうか。)
指先の若干の浮腫み具合であったり、屈曲・伸展の可動性をDIP関節、PIP関節、MP関節と順に診ていきます。この際に個人的に大切にしているのが回旋の可動性になります。
末節骨、中節骨、それぞれ僅かですが回旋の動きが生じます。その評価・介入を行います。
指先には腱が付着していますが、その機能を最大限高めるためには手部横アーチが大切です。
手部横アーチは近位と遠位に分かれます。
近位は母指球筋ー小指球筋、遠位は中様筋・骨間筋・指背腱膜、これらの作用でアーチ構造を安定させています。
私の臨床評価としては、視診による筋萎縮・発達、手関節・手部のアライメント、手指の分離運動、筋出力などを総合的に診て、特定の部位に徒手的介入を加えor筋発火を促す運動をさせ即時的に痛みを軽減できるか(疼痛緩和テスト)を試みることが多いです。
そして、特定の部位に関与する手根骨の可動性の評価・介入、筋の求心性・遠心性収縮を高めるエクササイズ、上肢帯・肩甲帯との統合エクササイズへと展開させていきます。
まとめると、中指・環指の機能が大切であり、その機能を向上するためには手部横アーチ(近位・遠位)の安定性、これには母指・小指の機能と手根骨の可動性が必要だということになります。
・手部近位横アーチ(母指球筋・小指球筋)
・手部遠位横アーチ(中様筋・骨間筋・指背腱膜)
・手根骨のモビリティ
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まとめ
上腕骨外側上顆炎に対する肩甲帯や手指・手部の評価・介入のポイントをまとめてきました。
何を言っているのかよく分からないと感じてしまう方もいるかもしれませんが、まずは肩甲帯や手指・手部を診てみることが先決です。上記に記載している筋や骨・関節の動きに着目して診ることで、少しずつ紐解いていけるのではないかと考えています。
しかし、それでも改善していかない症例がおります。腰椎・骨盤帯・股関節の状態に着目した結果、症状を軽快させる方向へと導けた経験を何度かしています。いわゆる“体幹機能”になってしまいますが、それありきの上肢帯であることは間違いありません。
介入部位が飛びすぎて解釈できないという方でも、ひとまず運動させることはできると思いますので、困ったら取り組んでみてはいかがでしょうか。
また、肩甲帯について記載しておりますが、肩甲骨は肋骨の上を動きます。ゆえに、肋骨のアライメント、胸郭と肩甲帯の関係性、呼吸機能なども診る必要があります。もっと言えば、肩甲帯よりも先に胸郭を考慮する必要があります。胸郭が変わると肩甲帯の置かれる環境も変わるため、肩甲帯のアライメントや動作が大きく変わってきます。
こちらの記事では、【胸郭と肩甲帯の運動連鎖】について詳しく解説していますので、ぜひご参照ください。
また、こちらの記事では、【上肢帯の運動連鎖】について詳しく解説していますので、ご興味のある方は併せてご参照ください。
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