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胸郭出口症候群の評価
胸郭出口症候群(Thoracic Outlet Syndrome:TOS)の症状は頸部〜上肢の範囲で多岐に渡るため、末梢性絞扼性神経障害から肩の病態や頸椎の病態まで多数の鑑別を必要とします。
また、TOSは神経原性・動脈性・静脈性とTOS内でも細分化されるため、より多くの症状パターンが存在しており、評価および診断は長期間を要し困難である場合もあります。
鑑別を必要とする病態が多く存在しているので、TOSが疑われる場合というのは、その他の病態を除外していくことも必要になります。そのため、以下で解説するテストだけを行えば良いというわけではありません。
また、TOSに対する整形外科テスト・スペシャルテストは多く存在していますが、そのテストの感度・特異度はどれをとっても今ひとつという現状です。
ただし、これらテスト方法・評価の解釈を正しく理解することは、TOSの診断を助けてくれる所見になるため、覚えておく必要があります。
そこで今回の記事では、TOSに対する整形外科テスト・スペシャルテストの評価方法をまとめていきます。
TOSの病態に関しては、こちらの記事をご参照ください。
感度・特異度・尤度比
以下の表は、感度(Sensitivity)・特異度(Specificity)・尤度比(Likelihood Ratio:LR)のまとめになります。
※LR+:陽性尤度比 / LR-:陰性尤度比
Sensitivity | Specificity | LR+ | LR- | |
---|---|---|---|---|
Elevated Arm Stress Test | 52-84 | 30-100 | 1.2-5.2 | 0.4-0.53 |
Adson’s Test | 79 | 74-100 | 3.29 | 0.28 |
Hyperabduction Test | 70-90 | 29-53 | 1.27-1.49 | 0.34-0.57 |
Costclavicular Test | NT | 53-100 | NA | NA |
Cyriax Release Test | NT | 77-97 | NA | NA |
Supraclavicular Pressure Test | NT | 85-98 | NA | NA |
Upper Limb Tension Test | 90 | 38 | 1.5 | 0.3 |
Cervical Rotation Lateral Flexion Test | 100 | NT | NA | NA |
Elevated Arm Stress Test(EAST)において、Plewa (1998) によると、痛みや不快感を訴える無症候性の被験者において74%の偽陽性率を報告したが、痛みのために検査を中止した者はいなかった。同様に、知覚異常の偽陽性率が36%であったが、痛みのためにテストを中止した被験者は3%しかいなかったと報告しています。
このことを踏まえると、テストを途中で止めるほどの症状であればTOSである可能性を念頭において、後述する他のテストも実施すると良いかもしれません。
Gillard (2001)は、Adson’s TestがTOSの評価として一般的に行われているテストの中では、陽性適中率85%(感度79%、特異度76%)と最も成績の良い検査の一つであると報告しています。ただし、胸郭出口症候群に対する評価の問題点は、陽性の定義にもよりますが、多くの無症候性の被験者が陽性となることなので解釈には注意が必要となります。
Rayan (1998)は無症候性の集団において、Adson’s Testの偽陽性率は脈拍の減少・消失で13.5%、神経学的症状ではわずか2%であることを発見しています。Plewa(1998)では、脈拍消失の誤診率は11%と同程度であり、感覚異常の誤診率は11%と高いが、痛みの発生率は2%と非常に低いものであると報告しています。
Rayan (1998)およびNannapaneniら(2003)は、Adson’s、Eden’s、Wright’s、Roosの各テストとTinel’sテストまたは関連する神経の直接圧迫を組み合わせて行うことで、94%の感度を報告しています。同様に、複数のテストを組み合わせると、特異度が向上すると報告しています。
同様に、Plewa (1998)は、2つまたは3つのテストが陽性であれば、全体の偽陽性率が下がり、特異性が向上することを報告しています。
このことから、TOSの診断を下すためのゴールドスタンダードは存在しないため、複数の所見を踏まえて考慮することが大切です。
また、複数のテストが陽性だからといって、TOSであるとは限りません。画像所見や筋電図検査・神経伝道検査、動脈造影など多角的に検査した方が良い場合もありますので、介入による改善の度合いを経過で追いながら適時誘導していくと良いでしょう。
以下にそれぞれの評価方法をまとめていきます。
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Elevated Arm Stress Test(Roos Test)
Elevated Arm Stress Test(EAST)(別名:Roos test)は上肢挙上位にて、手指の屈曲・伸展を繰り返すテストです。
肩関節外転・外旋と肘関節屈曲は上肢の神経・血管を伸張させ、さらに手指の屈曲・伸展の運動を行うことにより、代謝活動と血管需要を増加させることで症状を誘発するテストになります。
- 肩関節90°外転・90°外旋、肘関節90°屈曲位の肢位をとります
- ゆっくりと指を開く・握る動きを繰り返します(2〜3秒ごと)
- テストは3分間または患者が痛みのために続けられなくなるまで続けます
- 肩や腕・胸や首の痛み、上肢の痺れや疼き、手を握れなくなるほどの症状の再現があれば陽性です
- 上記の症状のため3分行えない場合も陽性です
引き伸ばされた神経・血管構造は血管需要の増加に伴い絞扼されている状況を悪化させるため、症状が再現されたり、3分間テストを継続できなくなると考えられます。
Adson’s Test
Adson’s Testは、斜角筋三角部を圧迫することで症状を誘発するテストであり、胸郭出口症候群が疑われる場合に行われる最も一般的な検査方法の一つです。
血管症状としては、痺れや脱力感、四肢の冷え、チアノーゼなどの虚血性症状があります。
神経症状としては、手指・前腕・上腕・肩の痛みや痺れ、知覚障害、脱力感、鈍重感、などがあります。
- セラピストは患肢の橈骨動脈の脈拍を触知します
- 肩関節外転30°・伸展させます
- 患者は患側に頸部を回旋させてから伸展してもらいます
- 深呼吸を行ってもらうように指示します
- 症状の再現、橈骨動脈の脈拍の減弱・消失が確認される場合に陽性です
- 非罹患側も同様に行い比較しましょう
Adson’s Testが陽性であれば、胸郭出口を通る神経血管束のどこかに障害が生じている可能性があります。この場合、テストと合わせて、斜角筋の過緊張やトリガーポイントに関する評価をした方が良いと考えられます。
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Hyperabduction Test(Wright’s Test)
Hyperabduction Test(別名:Wright’s test)は、小胸筋下間隙を圧迫することで症状を誘発するテストです。
検査は片側でも両側でも行うことができます。今回は片側での評価方法を解説します。
- 患肢の肩関節を90°外転・90°外旋させます
- セラピストは患肢の橈骨動脈の脈拍を触知します
- 患者に深呼吸を行ってもらうように指示します
- その後、患者の上肢を180°外転させます(肩関節外旋位)
- 症状の再現、橈骨動脈の脈拍の減弱・消失が確認される場合に陽性です
上記の方法に加えて、鎖骨のすぐ上の斜角筋の間を圧迫することで、さらに腕神経叢にストレスを加えるという方法も可能です。Novakら(1996)は、この方法を併用することで、陽性率が高くなることを示唆していますが、他の所見と合わせて慎重に評価した方が良いでしょう。
Costclavicular Test(Eden’s Test)
Costclavicular Test(別名:Eden’s Test)は、肋鎖間隙を圧迫することで症状を誘発するテストです。
- セラピストは患肢の橈骨動脈の脈拍を触知します
- 患肢の肩関節を最大伸展させます
- 顎を突き出し頸部を伸展してもらうように指示します
- 深呼吸を行うように指示し、30〜60秒保持します
- 症状の再現、橈骨動脈の脈拍の減弱・消失が確認される場合に陽性です
上肢を伸展させることで、腕神経叢や鎖骨下動静脈が伸張されます。テスト時には胸を張る様な姿勢になるため、鎖骨が第一肋骨に押し付けられるようなじょうきょうになります。さらに、深く息を吸うことで、第一肋骨が挙上し鎖骨に押し付けられます。これらの動作を連続して行うことで、肋鎖間隙への圧力が高まると考えられます。
ただし、症状を引き起こす可能性がある神経・血管に十分にストレスが加わらないこともあるため、検査が偽陰性となることもあり注意が必要です。
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参考文献
- Sebastian Povlsen, Bo Povlsen, Diagnosing Thoracic Outlet Syndrome: Current Approaches and Future Directions, Diagnostics (Basel). 2018 Mar; 8(1): 21.
- Thoracic Outlet Syndrome: Orthopedic Tests
- Rayan GM. Thoracic outlet syndrome. J Shoulder Elbow Surg 1998;7(4):440-51.
- Novak CB, Mackinnon SE. Thoracic outlet syndrome. Occupational Disorder Management 1996;27(4):747-62.
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