ACLの機能解剖と損傷のメカニズム・バイオメカニクス

病態

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ACLの解剖

ACLは、大腿骨から脛骨までを繋ぐ高密度結合組織のバンドです。

膝関節の靭帯・半月板

脛骨の前方変位と荷重位での膝関節回旋に抵抗するため、膝関節の重要な構造と考えられています。

ACLの役割

  • 脛骨前方変位の制動
  • 荷重位での膝関節回旋の制動

ACLは、膝関節の中にある靭帯で、大腿骨顆間窩の内側面の後中角から起始し、脛骨顆間隆起の前方に挿入され、内側半月板の前角と混ざり合っています。

ACLの走行は、大腿骨から脛骨へと通過する際に、関節の前方・内側・遠位を通ります。
そのため、わずかに外側に(横方向に)螺旋状に靭帯組織を回旋させて走行しています。

ACLのまとめ

  • 起始
    大腿骨顆間窩の内側面の後中角
  • 停止
    脛骨顆間隆起の前方・内側半月板前角
  • 走行
    大腿骨から脛骨へ、前方・内側方向へ走行する

ACLの線維分類

ACLには2つの線維要素があります。

小さい方の前内側線維束(AMB)と、大きい方の後外側線維束(PLB)がありますが、これは靭帯線維束が脛骨プラトーに挿入する場所に応じて名付けられています。
それぞれ、膝関節の肢位で靭帯の緊張部分が変わります。

膝関節が伸展しているとき、PLBは緊張し、AMBは適度に緩んでいます。

しかし、膝関節を屈曲させると、ACLの大腿骨付着部がより水平方向になるため、AMBが緊張し、PLBが緩みます。

ACLの線維束

  • 膝関節伸展位で緊張:PLB
  • 膝関節屈曲位で緊張:AMB

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損傷のメカニズム

ACL損傷は、主に3つのタイプに分類されます。

損傷メカニズム

  • 直接的な接触(約30%)
  • 間接的な接触
  • 接触なし(約70%)間違った動きをすることで生じる

前十字靭帯(ACL)損傷は、ピボット・減速・ジャンプを伴うスポーツ活動に参加している若年者に多く見られます。

最も一般的なのは、選手の体内で発生した力によって引き起こされる非接触の損傷ですが、他のほとんどのスポーツ傷害は、外部からの衝撃を伴うものがほとんどです。

断裂の約75%は、受傷時の接触が最小限または無い状態で生じます。
『カッティング動作』は、足をしっかりと固定した状態で急に方向や速度を変える動きを指し、ACLが断裂する典型的なメカニズムであります。

ラグビーでスクラムを組む写真

急激な減速時や、方向転換のために下肢で支えることもACL損傷と関連しています。
その他は、ジャンプからの着地・ピボット・ひねり・脛骨前面への直接的な衝撃なども関連しています。

ACL損傷の危険因子

女性は男性に比べて3倍もACLを損傷しやすい傾向にあります。

以下のような理由があると考えられています。

  • 狭い顆間窩
    狭い顆間窩とプラトーは、41~65歳の膝OAの女性非アスリートがACL損傷を受けやすい危険因子です
  • 広い骨盤と大きなQ角
    骨盤が広くなると、大腿骨が膝に向かってより大きな角度(大腿脛体角)を持つ必要があり、筋力の低下は膝の安定性を低下させ、ホルモンの変化は靭帯の緩みを変化させる可能性があります
  • 過弛緩性
    靭帯弛緩症のような修正不可能な危険因子を持つ若いアスリートは、ACL再建(ACLR)後の再発損傷のリスクが特に高くなります

ACL損傷の危険因子には、上記の解剖学的因子のほかに、環境因子(例:シューズとプレー面の摩擦が大きい)があります。

例としては、靴・靴底とプレー面における摩擦力が、膝関節への剪断・回旋ストレスとなります。

ACL損傷は関節の不安定性を特徴とし、これは急性期の膝関節機能不全と半月板損傷や変形性関節症などの長期的な変性変化の両方に関連しています。

膝の不安定性は活動性の低下を招き、膝に関連した生活の質の低下につながる可能性があります。

ACL損傷の危険因子は、個人の内部的または外部的なものと考えられています。

外的因子

  • 競技の種類
  • 履物と靴底
  • 環境条件
内的因子

  • 解剖学的因子
  • ホルモン因子
  • 神経筋的因子

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分類

ACLの損傷は、グレードⅠ・Ⅱ・Ⅲに分類されます。

GradeⅠ

  • 靭帯線維は引き延ばされるが、断裂はしていない
  • 腫脹と圧痛はわずかにある
  • 膝の不安定感はない
  • 弛緩性はなく、End FeelはFirmである
GradeⅡ

  • 靭帯線維は部分断裂か、出血を伴う不完全な断裂が生じる
  • わずかな圧痛と、中等度の腫脹がある
  • 活動中に不安定性を感じる
  • ラックマンテストと前方引き出しストレステストにより、痛みが生じる、あるいは痛みが増加する
GradeⅢ

  • 靭帯繊維は完全に断裂する
  • 圧痛はあるが、痛みは少ない
  • 中等度〜重度の腫脹がある
  • 靭帯は膝の動きを制御できず、膝は不安定性を感じる
  • 脛骨回旋の不安定性もある
  • 出血性関節症は1〜2時間以内に生じる

損傷のバイオメカニクス

ACL損傷の約70%は非接触の状況で発生するため、適切な予防をするための努力が必要であると考えられます。

カッティングやサイドステップなどの動作は、内反-外反と内旋モーメントが劇的に増加することに関連しています。

ACLは、特に内反モーメントと内旋モーメントの両方でより損傷する危険性が高くなります。

スキーをする女性

典型的なACL損傷は、脛骨外旋位で10~30°屈曲した状態で発生します。

同様に、着地時の損傷では、膝は完全伸展に近い状態にあります。

カッティングや着地などの速い動きでは、それ以上の屈曲に抵抗するために大腿四頭筋の遠心性収縮が必要になります。

着地をする女性の足

つまり、大腿四頭筋の強力なエキセントリックな筋活動がACLの損傷に関連しているのではないかという仮説が立てられています。

これは通常、ACLの断裂には不十分な力ですが、膝の位置や回旋が加わることでACL断裂の引き金になる可能性があります。

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まとめ

ACLを損傷してしまうのは、約70%が自己受傷であるため、”からだをうまく動かすトレーニング”(モーターコントロールエクササイズ)をしていくことで、ある程度防ぐことができるかもしれません。

また、大腿四頭筋の収縮がACL損傷に関与しているかもしれないという仮説もありますが、これは全身における相対的な膝関節の位置が関係していると考えられます。

それは、脛骨が前方傾斜(膝関節が前方に位置)していれば、大腿四頭筋の筋活動が高くなります。
そのため、脛骨は垂直を保つようにしていることで、ハムストリングの収縮を促すことができ、大腿四頭筋との筋活動のバランスが取れるのではないかと考えられます。

こちらの記事では、ACLの損傷が疑われる際に行うべき評価方法をまとめていますので、併せてご参照ください!

参考文献

  1. Matsumoto, H., Suda, Y., Otani, T., Niki, Y., Seedhom, B. B., Fujikawa, K. (2001). Roles of the anterior cruciate ligament and the medial collateral ligament in preventing valgus instability. J Orthop Sci, 6(1), 28-32.
  2. Mark L. Purnell, Andrew I. Larson, and William Clancy. Anterior Cruciate Ligament Insertions on the Tibia and Femur and Their Relationships to Critical Bony Landmarks Using High-Resolution Volume-Rendering Computed Tomography. Am J Sports Med November 2008 vol. 36 no. 11 2083-2090
  3. Hewett TE. et al. Anterior Cruciate Ligament Injuries in Female Athletes: Part 1, Mechanisms and Risk Factors. Am J Sports Med. 2006; 34:299-311.
  4. Haim A. et al. Anterior cruciate ligament injuries. Harefuah 2006;145(3): 208-14, 244-5.
  5. Teitz CC.video analysis of ACL injuries. In:Griffin LY, ed. Prevention of Non contact ACL injuries. Rosemont,IL: American Academy Orthopaedic Surgeons,2001
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コメント

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