胸郭出口症候群の病態:神経性TOSと血管性TOS

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胸郭出口症候群の病態:神経性TOSと血管性TOSのトップ画像 病態

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胸郭出口症候群とは

胸郭出口症候群(Thoracic Outlet Syndrome:TOS)は、胸郭出口領域における神経・血管の圧迫により引き起こされる症状です。

胸郭出口とは、前面が前斜角筋、後面が中斜角筋、下方が第1肋骨により構成されている胸郭上部領域のことを指します。

臨床場面においてTOSは、見逃されやすい症状であります。頸椎神経根症状との鑑別が難しい症状でもあるため、症状が長期化してしまうケースも少なくありません。

首を横から見た写真

また、TOSは腕神経叢、鎖骨下動脈、鎖骨下静脈が圧迫されることにより生じるため、”どの組織が”圧迫されることで症状が引き起こされるのかも重要なポイントであります。

TOSは、動脈性TOS(Arterial TOS:ATOS)静脈性TOS(Venous TOS:VTOS)神経性TOS(Neurogenic TOS:NTOS)という3つに分類されます。90〜95%はNTOSであるという見解が比較的多く、残りの5%でATOS・VTOSが考えられます。VTOSよりもATOSの方が多いとする傾向にあります。

今回の記事では、TOSの原因と3分類された症状の特徴を解説していきます。

胸郭出口の解剖学

胸郭上部の領域では、骨・筋により構成された狭いスペースを腕神経叢・鎖骨下動脈・鎖骨下静脈が走行しております。

臨床的に問題となりやすい3つのスペースが存在していますので、それを1つずつ解説していきます。

斜角筋三角部

斜角筋三角は、前方が前斜角筋、後方が中斜角筋、下方が第1肋骨により構成される間隙です。

斜角筋の過緊張や、前斜角筋・中斜角筋の両方が第1肋骨に付着するという解剖学的バリエーションにより、斜角筋三角において腕神経叢・鎖骨下動脈が圧迫される可能性があります。

鎖骨下静脈は、この部分を走行していないというのも特徴です。

肋鎖間隙

肋鎖間隙は、前方が鎖骨(中央1/3)、後内側が第1肋骨、後外側が肩甲骨により構成されています。

腕神経叢・鎖骨下動脈・鎖骨下静脈が横走し、鎖骨下腔に向かいます。
先天性の解剖学的異常や、第1肋骨・鎖骨の外傷、鎖骨下筋・烏口肋骨靭帯の構造変化により症状が引き起こされる可能性があります。

小胸筋下間隙

小胸筋下間隙は、前方が小胸筋、後方が第2-4肋骨、上方が烏口突起により構成されています。

大胸筋や小胸筋の短縮により小胸筋下間隙のスペースが狭小下し、特に肩関節外転位(過外転位)にて腕神経叢・鎖骨下動静脈を圧迫し症状を引き起こす可能性が高くなります。

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胸郭出口症候群の原因

TOSの原因は、先天性因子や外傷・姿勢、筋の状態など多数が関係しています。

先天性異常

・頸肋
・長い第7横突起
・Fibrous Band
・斜角筋の付着部の異常
・頸椎背側の側弯(cervicodorsal Scoliosis)
・先天性肩甲骨高位症(Congential Elevated Scapula)
・異所性鎖骨下動脈
Fibrous Bandに関しては、こちらの記事で詳しく解説していますので、併せてご参照ください。

外傷・姿勢

・なで肩の姿勢
・肩が前方に巻き込んでいる姿勢
・重たい乳房
・鎖骨骨折
・肋骨骨折
・交通事故による頸椎の過伸展
・長時間の不良座位姿勢

筋肉

・斜角筋の過緊張・短縮
・小胸筋・大胸筋の過緊張・短縮
・鎖骨下筋の過緊張・短縮
・上腕二頭筋短頭の過緊張・短縮
・過剰な胸式呼吸

胸郭出口症候群の症状

TOSの症状は、原因となっている領域、神経・血管の関係で人それぞれ違ってきます。

頭頸部・肩・上肢の痛みや痺れ・知覚異常が多く見受けられますが、手指や上肢の運動障害まで生じることもあります。

上肢下垂位、肩の下制、頸椎側屈・回旋の姿勢に影響を受ける場合、腕神経叢の上位(C5-7)が関与してきます。この場合、後頭部〜背部・肩前側面に痛みや痺れが生じることが考えられます。

上肢外転位、頸椎側屈・回旋の姿勢や動きに影響を受ける場合は、腕神経叢の下位(C8-T1)が関与してきます。この場合は、肩前後部〜前腕尺側〜手指(尺側)に痛みや痺れが生じると考えられます。

また、ATOS、VTOS、NTOS、それぞれ特有の症状が確認されることがあります。

動脈性TOS(ATOS)

・上肢の痛み
・蒼白
・冷たさ
・知覚異常
・上肢跛行

静脈性TOS(VTOS)

・チアノーゼ
・上肢の重たさを感じる
・上肢の浮腫
・上肢の知覚異常(浮腫に伴う)

神経性TOS(NTOS)

・上肢の痛みや痺れ
・上肢の知覚異常
・上肢の脱力感
・頸部の痛み
・後頭部の痛み
・巧緻動作障害

NTOSは、姿勢の影響による『腕神経叢の牽引による”牽引型”』が多いという見解が一般的です。

そのため、筋電図などで客観的に腕神経叢障害が確認される、『真の神経原性胸郭出口症候群True Neurogenic TOS(TN-TOS)』はきわめてまれと考えられています。この場合、手部・前腕周囲の筋萎縮・筋力低下が確認できる可能性が高いです。

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参考文献

  1. Köknel TG. Thoracic outlet syndrome. Agri: Agri (Algoloji) Dernegi’nin Yayin organidir The journal of the Turkish Society of Algology. 2005 Apr;17(2):5.
  2. Laulan J, Fouquet B, Rodaix C, Jauffret P, Roquelaure Y, Descatha A. Thoracic outlet syndrome: definition, aetiological factors, diagnosis, management and occupational impact. Journal of occupational rehabilitation. 2011 Sep 1;21(3):366-73.
  3. Hooper TL, Denton J, McGalliard MK, Brismée JM, Sizer PS. Thoracic outlet syndrome: a controversial clinical condition. Part 1: anatomy, and clinical examination/diagnosis. Journal of Manual & Manipulative Therapy. 2010 Jun 1;18(2):74-83.

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