頸部痛を診る:病態分類・有病率・レッドフラッグについて

病態

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頸部痛を診るために必要な知識

頸部痛とは、少なくとも1日以上持続する片側または両側の上肢への痛みを伴う、または伴わない頸部の痛みと定義されています。

2008年に首の痛みに関する解剖学的領域が定義されています。

頸部痛を有する人は、頭痛や肩の痛みを伴うこともありますが、その多くは首の痛みが主訴になります。

今回の記事では2020年12月に出されたシステマティックレビューをもとに、頸部痛の分類・有病率・レッドフラッグに関してまとめていきます。

全部で3回構成になっていますので、ぜひ併せてご参照ください。

ではいきましょう!

分類

2008年、頸部痛を有する方を4つのカテゴリーに分類することが定義されました。

この頸部痛分類では、GradeⅠからGradeⅢの頸部痛は非特異的頸部痛とみなされています。

Grade 症状
大きな構造的病理を示す兆候や症状がなく、日常生活活動の問題がない、あるいはわずかな頸部痛および関連する不調
大きな構造的病理を示す兆候や症状はないが、日常生活活動の問題が大きい頸部痛および関連する不調
大きな構造的病理を示す兆候や症状はないが、深部腱反射の減弱・筋力低下・上肢の感覚障害などの神経学的兆候の存在
骨折・椎骨脱臼・脊髄損傷・感染症・新生物・炎症性関節症を含む全身性疾患(ただしこれらに限定されない)などの主要な構造的病理の兆候・症状

GradeⅠとGradeⅡの首の痛みは、日常生活動作への支障の程度によって区別されます。

GradeⅢの頸部痛(頸椎神経根症状)を有する方は、神経学的徴候(深部腱反射の減弱・筋力低下・感覚障害)と、疼痛誘発テストや疼痛軽減テストで陽性の所見となります。

GradeⅣの頸部痛を有する方は、主要な病理学的症状に困っており、このグレードは特異的頸部痛に該当します。

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発生率と有病率

Global Burden of Disease(世界疾病負荷調査)では、291の疾患のがある中で頸部痛の全体的な負担は21位、障害が4位となっており、頸部痛は一般の人々にとって深刻な健康問題となっています。

筋骨格系疾患の中では、腰部痛(1位)と頸部痛(4位)が世界的に最も多い疾患になります。
それにも関わらず、腰痛患者を対象とした研究の量は、頸部痛患者をはるかに上回っているのが現状です。(私は今のところ頸部痛に関して研究する予定はありませんので、興味がおありの方はぜひお願い致します!)

2017年のGlobal Burden of Diseaseの研究では、頸部痛の有病率は3,551/10万人です。頸部痛の発生率と有病率は年齢とともに増加し、男性よりも女性の方が高いという結果です。
デスクワーカーの女性では、頸部痛・背部痛を有する割合が大きいという結果は他の研究においても報告されています。頸部痛は仕事や試験勉強などの心理社会的要因の影響を受けることが考えられますが、なぜ女性の方が割合が大きいのかは未だ明確には分かっていません。
女性の方が心理社会的ストレスを感じやすいのでしょうか…ホルモンの違いなども関係しているかもしれません。ただ単純に、男性は「首の痛みくらいほっときゃ治る!」といったように楽観的に捉えて、病院にかからないというようなことも考えられますね!

ほとんどの場合、頸部痛が日常生活の活動や参加に重大な支障をきたすことはありませんが、70%の人が生涯のうちに何らかの首の痛みを経験すると予想されています。

重篤な病理(GradeⅣ)の発生率は2%と低いですが、頸部の神経根症状(GradeⅢ)の発生率は1万人あたり6.3~21人です。
このような幅の広さは、臨床や研究における『放散痛の症状』の定義にばらつきがあるためだと考えられます。しばしば、定義は『神経学的徴候または感覚障害の存在』に限定されず、放散痛の症状のみを含むこともありますが、これらの患者はGradeⅢの頸部痛を有するとみなすことはできないでしょう。

大多数の患者はGradeⅠまたはGradeⅡの頸部痛を有しており、これらの患者割合は90%と推定されています。

頸部痛を発症するリスクを増加させてしまう因子はいくつか存在します。
これらの予後因子の中で最も重要なものは、外傷・仕事関連因子(仕事の満足度の低さ、仕事のサポートの低さ、仕事のストレスレベルの高さ)・心理的因子(自己認識うつ病、心理的健康状態の悪さ)・喫煙です。

4つの因子

  1. 外傷
  2. 仕事関連因子
  3. 心理的因子
  4. 喫煙

このことから分かるように、頸椎椎間板の変性は危険因子には当てはまりません。多くの整形外科では、レントゲン撮影をして「隙間が狭くなっています」というようなことが日常茶飯事だと思いますが、これは頸部痛発生において大きな因子ではないと考えられています。
もちろん、それによる痛みが”ないわけではありません”が、様々な評価をして適切な判断を下していく必要がありますね!

レッドフラッグ

評価の中ではまず、レッドフラッグを除外しなければいけません。

医師の支持のもとに理学療法を行なっている方であれば、特にその必要性はないと考えられます。(※医師が鑑別をしている前提です)
しかし、自費領域で活動されている方は、ご自身で重篤な病態やレッドフラッグを除外しなければなりません。

レッドフラッグとは、医学的な診断が必要な重篤な病態を示す徴候や症状のことです。

首が痛くて、手で押さえている男性の写真

外傷後に頸部痛を有する患者では、受傷時の状況にもよっては骨折の疑いがあります。多くの方は病院にかかると思いますが、その選択をしなかった方の場合、カナダ頸椎ルール(C-Spine)と全米救急X線撮影利用調査(NEXUS)に沿った評価が非常に有効だと考えられています。
システマティックレビューによると、どちらの方法も感度が高いので、どちらのスクリーニング方法でも陰性の患者では、骨折の可能性を確実に除外することができます。

その他の既知のスクリーニング検査としては、上位頸椎(靭帯)不安定性または椎体動脈不全の検査があります。これらの検査の目的は、頸椎の徒手治療を受ける際に重篤な合併症のリスクが高い患者を特定することです。
しかし、これらのスクリーニング方法は十分な研究がなされておらず、有効性が確認されていません。

このような状態にも関わらず、徒手両方を扱う方のほとんどのガイドラインでは、これらのスクリーニング検査の実施が推奨されています。
評価で陰性だからといって安心しきることは、非常に危険ですので、随時相手の反応を伺いながら介入していくことが良いのではないでしょうか。

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参考文献

  1. Arianne P Verhagen, Physiotherapy management of neck pain, Journal of Physiotherapy, 2021
  2. William Ngatchou et al., Application of the Canadian C-Spine rule and nexus low criteria and results of cervical spine radiography in emergency condition, The Pan African Journal, 2018,
  3. Canadian C-Spine Rule, Physiopedia

コメント

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